第35話 バニーなママと朝のびっくりタイム

**星乃家の夜にて――自由な母と冷静な娘**


私、星乃雫です。今日はなんだか肌寒い夜。部屋にこもってスマホで映画を観ていたら、玄関がガチャリと音を立てました。時計を見ると、もう夜の10時過ぎ。


「ああ、帰ってきたか…」


誰って、うちのお母さん、星乃なゆたです。ドアを開けたのは良いけど、立ってる姿がどことなくフラフラしていて、案の定、玄関でへたり込んじゃいました。


**母の帰宅、そして無防備な寝落ち**


「ただいま…雫。今日もなかなか疲れたわ…」


靴を脱ぎながら、お母さんはそんな一言を呟いて、そのまま玄関の壁に背中を預けると、ズルズルと床に座り込んでしまいました。そして、あくび一つ。


…え?目を閉じた?ちょっと待って。


「お母さん、そこで寝るのやめてよ。風邪ひくよ。」


肩を軽く揺らしてみても、返事なし。どうやら本気で寝る気らしい。いやいや、玄関はベッドじゃないからね。


仕方なくしゃがんで顔を覗き込むと、少し緩んだ三つ編みが桜色の髪に混じって揺れています。ふんわり桜の香りがするけど、それに気を取られてる場合じゃない。


「…まったく、子どもみたいなんだから。」


それでも、こういうのはもう慣れっこ。私は小さくため息をついて、母の小さな体を持ち上げる準備を始めました。


**母を抱える私の苦労**


「よいしょっと…」


正直なところ、お母さんの体は私よりずっと小さいんです。なのに、なんでこんなに重いんだろう。華奢に見えるけど、案外筋肉とか詰まってるのかな。


なんとかリビングのソファまで運ぶと、毛布をかけてやります。寝顔を見ると…なんだろう、この無防備な感じ。


「ほんとに、お母さんなのかどうか分からなくなる時があるよ。」


桜色の髪に触れながら思わず呟きました。まあ、なんだかんだで可愛いところがあるのは認めますけどね。


**母の寝言と自由さ**


毛布を直していると、お母さんが微かに寝言を漏らしました。


「…坂本龍馬も疲れるのよね…」


……え?坂本龍馬?何それ、時代劇でも見たの?


「またそのネタか…お母さん、ほんと自由すぎ。」


呆れたように言いながらも、少し安心した気分になったのは事実です。リビングにお茶を淹れに行くと、静かに湯気が立ち上る音が聞こえてきました。


**母娘の夜の一コマ**


湯呑みを手に戻ってくると、ソファの上でお母さんが微かに丸くなって寝ていました。


「本当に子どもみたいだよね、もう。」


私は少しだけ笑ってお茶を一口飲む。なんだかんだで、この家の夜はこんな感じで穏やかに過ぎていくんです。まあ、これが私たち星乃家の日常なんだから仕方ないですよね。


ただ、次に起きたら、この坂本龍馬の話についてしっかり聞かせてもらおうかな。絶対に笑えるネタが隠れてる気がしますから。


**星乃なゆたの秘密**


夜のリビングは静かで、冷たい空気がなんとなく気持ちを落ち着かせてくれる。でも、その夜は、少しだけ違った。


玄関で寝落ちしていた母――星乃なゆたをソファに運んだ私は、毛布をかけてようやくひと段落したところだった。


お母さんは小さな体を丸めて、まるで子どものように穏やかな寝息を立てている。疲れ切った顔に、いつもの明るさはない。


**お龍の寝言**


ふと、その唇が動いた。


「お龍、許してや…おまんを残して…」


……お龍?また坂本龍馬の話?


私は思わず手を止めた。お母さんはよく自分の前世が坂本龍馬だって冗談を言うけど、その寝言はただの夢とも思えないほど、切実で、哀愁が漂っていた。


桜色の髪が毛布の中からふわりと覗いていて、まるで安らかな子どもみたいな寝顔。でも、またその唇が動いた。


「…おまんの笑顔…今も胸に…」


その声を聞いて、私は心の中がざわつくのを感じた。


**心に残る違和感**


「お母さんが“坂本龍馬”だったとして…じゃあ、私はお龍だったの?」


ふと、そんな考えが頭をよぎる。でも、すぐに自分で首を振った。ありえないって分かってる。でも、なんでこんなに胸がざわざわするんだろう。


お母さんの寝顔を見つめながら、私は静かに息を吐いた。


「許してや…か。それ、どういう意味なのよ。」


問いかけたって答えが返ってくるわけもない。


**不意の発見**


しばらく眺めていたけど、やっぱり気になるのはお母さんの服。汗で少し湿っていて、このままじゃ風邪を引いてしまう。


「しょうがないなぁ。」


そう呟きながら、私はそっとお母さんのブラウスのボタンに手をかけた。一つずつ丁寧に外していくと、柔らかい桜色の肌が少しずつ露わになる。


でも、最後のボタンを外してブラウスを開いた瞬間、私は手を止めた。


「……これ、何…?」


目に飛び込んできたのは、胸元から腹部にかけて刻まれた無数の傷跡だった。


**傷跡の意味**


その傷は、古い火傷のような痕。薄く、でも確かにそこに残っていて、思わず息を呑んだ。


「こんな傷、今まで見たことない。」


私は思わず顔をしかめた。お母さんが普段着ている服では絶対に見えない部分。それをわざわざ隠していたのか、それともただ私が気づかなかっただけなのか…。


「…お母さん、こんなの抱えてたんだ。」


普段は明るくて、時々ふざけて私を困らせるお母さん。でも、その傷を見てしまった今、私は彼女の明るさの裏に何か大きな秘密が隠されている気がしてならなかった。


**謎が生む感情**


「前世が坂本龍馬とか、そんな話は冗談だと思ってたけど…もしかして、本当だったりするの?」


いつもなら笑い飛ばしてしまう話。でも、目の前にあるこの傷跡が、私の心を静かに締め付けてくる。


「お母さん、一体何を隠してるの…?」


私は小さく息を呑み、震える手でお母さんのブラウスを脱がせ、新しい服を取り出した。


**日常の裏に潜む影**


新しい服を着せてあげながら、お母さんの寝顔をそっと覗き込む。その顔は穏やかで、少し微笑んでいるようにも見えた。


「いつもは明るくて自由で、私を振り回してばっかりなのに。」


毛布をかけ直しながら、私は心の中で呟いた。


「お母さん、あんたって人は、ほんと謎だらけだよ。」


リビングの照明を少し落として、私は自分の部屋に戻る準備をする。


**胸に残る棘**


でも、その足取りは少し重かった。あの傷跡の意味を考えると、どうしても心がざわついてしまうから。


「許してや、ね。」


お母さんが呟いたその言葉は、まるで私に向けられたもののように感じた。けれど、私は何を許せばいいのか分からない。


「お母さん…あなたは本当は誰なの?」


その問いを胸の中にしまい込み、私は自分の部屋のドアをそっと閉めた。


**星乃なゆたの秘密――それを知る日は、きっといつかやってくる。そんな予感を残しながら、夜は静かに更けていくのだった。**


**星乃なゆたと雫のとんでもない朝**


**目が覚めると、そこには…**


目が覚めたら、私はいつの間にかベッドの上に寝かされていた。昨日、リビングのソファで寝落ちしたことは覚えている。でも、ここに運ばれた記憶はない。


「……あれ?」


起き上がると、部屋のドアの方に気配を感じた。なんだか、とんでもない予感がする。


そして、その予感は大当たりだった。


**なゆたの「バニー事件」**


「お母さん……何やってるの?」


そこに立っていたのは、ピンク色のバニーガール姿でポーズを決める星乃なゆた。耳の飾りをぴょこぴょこと揺らしながら、得意げに笑っている。


「おはよう、雫ちゃん!どう?お母さん、かわいいでしょ~!」


……かわいいかどうかの前に、これはどういう状況?


私はまだ寝ぼけているのかもしれない。だって、目の前の光景が現実だなんて信じたくない。


「……それ、お遊戯会に出るの?」


冷めた目で問いかける私に、なゆたは満面の笑みでピョンと飛び跳ねた。


「ちがうもーん!雫ちゃんが起きるまで待ってただけなの!びっくりしたぁ?」


いや、驚いたけど、それが目的ならやり方が間違ってる。


**女子小学生風お母さんの恐るべき破壊力**


「雫ちゃん、そんなにジーッて見てたら恥ずかしいよぉ~。かわいいって思ったなら、ちゃんとそう言ってくれなくちゃ!」


その声色と仕草、そして話し方……え?何これ?普段のなゆたとは全然違う。


私は思わず息を呑んだ。


「お母さん、急にどうしたの……?」


なゆたはポーズを決めながら、耳の飾りをいじってピョンピョン飛び跳ねる。


「ほらほら、雫ちゃん、照れないで~♪お母さん、かわいいんだから褒めてよ!」


「……なにそれ、腹立つけど……なんか、可愛いじゃん。」


自分の口から出た言葉に驚きつつ、私はどうしても否定できなかった。


**朝ごはんの惨劇**


その後、なんとかバニー姿のなゆたから目を離し、リビングへ向かった私を待っていたのは、さらなる衝撃だった。


「はい、雫ちゃん!お母さんが作った朝ごはんだよ~!」


勢いよく差し出されたお盆の上には、茶色く焦げたご飯と、汁なしの味噌汁。


私は一瞬で眉間にシワが寄った。


「……お母さん、味噌汁の“汁”どこ行ったの?」


なゆたはキョトンとした顔で首をかしげる。


「あれ?汁っているの?ほら、豆腐がメインだから、これでバランスいいでしょ?」


「いやいや、豆腐メインでも汁は必要だから!」


私はお椀を指差しながら、冷静にツッコむ。


「これ、豆腐だけじゃなくて味噌もどっか行ってない?」


なゆたは少し焦った様子でお椀を覗き込む。


「え?あれ…味噌も溶かしたはずなんだけどな~。」


「溶かした?その味噌、どこ行ったんだろうね…。これ、ただの茹でた豆腐だよね。」


**なゆたの返しと雫のツッコミ**


「えへへ~、でも健康には良いと思うよ!」


「健康とかじゃなくて、これ朝ごはんの体を成してないから!」


なゆたは腕を組み、どこか得意げな笑顔を浮かべて反論する。


「雫ちゃんはわかってないな~!これが“簡潔な和の美”ってやつよ。ほら、おしゃれでしょ?」


「どこの世界でこれがおしゃれなの?」


呆れる私の目に、ご飯の色が映った。


「それに、このご飯さ……よく見たら茶色いんだけど。焦げた?」


「あ、それは、昨日炊き忘れたからフライパンで温め直しただけ!カリカリしてて美味しいよ?」


「フライパンで……ご飯を温めた……?いや、それチャーハン作るときだけの技だから!」


**締めくくり**


私は大きくため息をつき、テーブルに手をついた。


「……いい加減にしてよ、お母さん。朝ごはんぐらい、まともに作ってよ。」


なゆたは苦笑しながら、ご飯を一口すくう。


「でも、愛情はたっぷり入ってるから大丈夫でしょ?」


「いや、愛情だけでお腹は膨れないから!」


リビングに響く私のツッコミと、お母さんの笑い声。こんな朝が日常なあたり、私たちの家庭は平和……なのかな?


でも、その平和がいつまでも続いてくれることを、私は少しだけ祈ったのだった。


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