航海記録 その後

航海記録 その後

~六月三日~

 太陽が燦々と射し込む放課後。六月に入り暑さも段々と本格的になって来ているにも関わらず僕は屋外プールの清掃をしていた。

 本来なら水泳部などが行うらしいが先日午後の授業をサボり、提出しなければいけない書類を一日遅れて出すということをしてしまったため学校側からの罰としてやることになった。

「ふう」

 ブラシを動かす手を止めて額の汗を拭う。濡れても大丈夫なように体育着に着替えて清掃をしているがやはり大変だ。

 もちろん。このプールを僕一人でやっている訳ではない。他にもやっている人はいる。

「このあたしに勝てると思っているのかー‼」

「おっしゃー ドンドン行くぜ!」

 僕とは反対側のサイドでブラシをかけながら全力疾走する赤里先輩と蒼美先輩。水で濡れているのによくコケることなく走ることができるな。

「ふむ。この水垢にはこの洗剤を混ぜた電動ブラシが効果的か」

 柴堂先輩は発明品だと思われる電動掃除機の防水仕様版を試験運用していた。用途が限られてしまいそうなのによく作ったものだ。

「みなさーん。そろそろ一回水で流して、休憩にしませんか」

 屋根付きのベンチのところでホースの管理をしながら僕たちを見ていた黒崎先輩がそう提案をし、みんなそれに従い走るのを止めたり、機械を回収し始める。

 こういうのを見ているとみんなの母親ポジションみたいだな。

「しっかし、許可取ったのになんでプール掃除なんか」

「仕方がないだろう。五人で抜ければ他の生徒にそれそうの見せしめをしなければサボるものが増加するだろうし」

 一面を水で流した後、屋根の下で飲み物とお菓子を囲みながら休憩をしていた。

 自分で許可を取ってきたためか赤里先輩は生活指導の先生に文句を垂れる。それに関しては一端の理由を僕が担っているため申し訳なさしかない。

「でもいいではありませんか。青春って感じがして」

「暑い中、理由ありで水浴びできるんだから役得でしょ」

 黒崎先輩お手製のクッキーを食べながら蒼美先輩は言う。

 最初に清掃を開始するためにホースで水を撒いていた時、自ら当たりに行っていた。今ではすっかり乾いているが濡れた当初は下着が透けていて顔を背けた。

「皆さんすみません。僕の提出が遅れたばかりに……」

 清掃開始前にも謝ったが今一度頭を下げる。今日のプール掃除は僕が提出期限のある書類を出さずに学校を抜け出し、翌日にそれを出した。大半の理由がそこに含まれている。

そのため本来なら僕が一人でやることになってもおかしくはなかった。

「あはは、しょうがないよ。あの日はどうあがいても間に合わなかったし」

「それにサボることを決めたのは我々だ。君が責任を感じることはない」

「そうですが……」

 蒼美先輩も柴堂先輩も気にすることはないと言った様子で擁護してくれる。でもこうしてみんなの時間を奪っているわけで……

「では聞かせて下さい」

「え?」

「白井さんは入部届。なんと書いて出したんですか?」

 そう、確かに僕は入部届を先生に出した。しかしその内容までは皆さんに言ってはないかった。


 海に行った次の日、僕はなんとなく晴れやかな気持ちだった。もちろんサボった罪悪感もあったが肩の荷が下りたように足取りは軽かった。

 もちろん友達にもクラスの人たちにも午後の授業いなかった理由をたくさん問われたが秘密とだけ答えた。

 そして放課後、僕たち五人は生活指導の先生に呼び出されてしっかりとしごかれた。三十分以上に及ぶ先生の話に赤里先輩と蒼美先輩は居眠り。僕と黒崎先輩はしっかりと聞き柴堂先輩に関しては聞く傍らパソコンをいじっていた。

 そんな生活指導が終わった後、僕は担任の先生のところへ向かった。

「昨日は誠に申し訳ございませんでした」

 先生の前に立って開口一番、僕は深く頭を下げて謝罪をした。

「そんなかしこまるこったねえよ」

「でも……」

「ああいうのも経験だよ。楽しかったか?」

「……はい。とても」

「ならよかった」

 安心したように先生は僕の肩に手を置くと頷いた。

「それで、あれを持ってきたのか?」

「はい」

 カバンの中に入れていた紙を一枚取り出し先生に渡す。それを見た先生は一瞬、驚いたような表情をしたがそれから小さく笑った。

「これは。これから大変だぞ」

「はい。覚悟はできています」

 心なしか先生も嬉しそうに僕のそれを受理してくれた。


「それでなんて書いたんだ?」

 僕の回想が終わると同時に赤里先輩が聞き返してくる。ほんの一分もやっていなかったが先輩にとっては十分待たされた気分だったんだろう。

 僕はその場から立ち上がると屋根の下に置いてある自分のカバンから一枚の紙を取り出す。そしてそれを赤里先輩に渡す。

「これは?」

「見てみれば分かります」

 僕の言葉に首を傾げながら紙を受け取ると他の三人も赤里先輩の後ろから覗き込むように紙を見る。

 そしてそれを見た瞬間、赤里先輩はポカンと口を開けてしまった。他の三人も嬉しそうな笑顔をしたり、呆れ交じりの笑いをしたり、朗らかに笑うなどしていた。

 その紙は僕があの日拾った不思議な縁の始まりで名前も書かれていない手配書。

 しかし手配書に何も書かれていないのは寂しいので書き足しておいた。

『学園海賊 白井ユウキ』

「これからもよろしくお願いします!」

 校舎の屋上に掲げられた海賊旗を見ながら僕は大きな声で言った。

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パイレーツ・オブ・ハイスクール 長田西瓜 @0sasui

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