第三章 航海~今と過去~(7)
~五月二十八日~
翌日、僕は黒崎先輩に指定された通り学校へ来ていた。服装は動きやすいものが好ましいということから連絡が来ていたため学校指定のジャージにしておいた。
十三時集合だったため十分前には着くように学校に向かったがすでに黒崎先輩は校門前で僕を待っていた。
「すみません。お待たせしました」
「いいえ。わたくしも先ほど着いたばかりです。それに集合時間前ですから謝ることはないですよ」
黒崎先輩は微笑みながら僕に言う。基本的にメイド服で一度だけジャージ姿を見たことがあっただけだからか、同じように学校指定のジャージを着ている黒崎先輩というのは少し新鮮だった。
「どうかなさいましたか?」
「なんだかメイド服ではないのが新鮮だったので」
「そうですね。学年が違えば体育の時間なんて被りませんからね」
日常的にメイド服を着ていたとしてもさすがに体育の時はこの格好なのか。また一つ発見があった。
「それで今日は何をするんですか?」
「そうですね。それは行ってからのお楽しみです」
そう言うと黒崎先輩は歩き始めた。お楽しみと言われても内容が分からなければ安心ができない。しかし柴堂先輩みたいに危険なことはしないという確信だけはあった。
学校から歩くこと十分ほど。僕たちは小さな公園に着いた。そこには地域の人だと思われる方が数人ほど談笑をしており、みんな僕たちと同じように動きやすそうな格好をしていた。
「少し待っていてください」
黒崎先輩はその集団へと近づいて行ってしまった。そしてそのまま少しの談笑をしたのち、大きなビニール袋とトングを持って戻ってきた。
「これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「これから少し歩きますが大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫ですが。これって……」
「はい! 地域のゴミ拾いです!」
「ですよね」
嬉しそうな笑顔で言うのを見ながら僕は手渡されたトングを一回カチッと鳴らした。
これは不定期に行われるここら辺のゴミ拾いらしい。いつもはボランティア部に交じりながらやったり、自主的に参加をしていたそうだが今回は偶然、昨日僕と会ったため誘ったと言っていた。まあ誘ったと言ってもトングなどを渡されるまでゴミ拾いということを知らなかったのだけれど。
僕たちは指定された範囲の中で一番遠い場所にある公園と周辺でゴミ拾いをすることになっている。集合場所に集まっていた人を見る限り、地域の高齢者も多そうだったため納得の采配と言えばそうだった。
公園には休日のためか子供連れの家族もいたが邪魔にならないようにやっていこうと黒崎先輩は張り切っていた。
トングで落ちているペットボトルや紙くずを拾っていく。ポイ捨てが非だと言われ続けていてもする人はしてしまう。それに罪悪感を抱かないのだから言ったって聞くものではないだろう。
手分けしてやる広さでもないため二人で並びながら左右をくまなく確認をしながら作業をする。
「申し訳ありません。白井さん」
「えっ、何がですか⁉」
「その、目的も何も告げずに貴重な休日をゴミ拾いなんかに使わせてしまって」
「そ、そんなこと。どうせ何をしようか迷って一日が終わってしまうだけですから。それならこうしてゴミ拾いでもなんでもやっていた方がいいですよ」
ここ最近は学園海賊の皆さんの用にあれこれ関わっていた自分の時間というのも取れてはいないが自分の時間なんてあってどうせ何もしないから誰かのために使った方が有意義なものになるはず。
「そう言ってもらえると胸がすきます」
「毎回ここまで来るんですか?」
「ボランティア部の方々と来る時は分担するので来ませんが自主的の時は来ますね」
ボランティア部というのも見学をしていた時期に一度だけ行ったことがある。平時の活動は地域の幼稚園などに出向き、子どもたちと遊んでいると言っていた。そして休日に地域の活動に参加していたりするとも言っていたがまさにこれがそれなんだろう。
奉仕の部活は人気がなさそうだと思っていたが不定期開催と後々にこういう活動をしていたと言えるのは大きな強みになるかもしれない。
真面目な黒崎先輩と共にやっているためか会話もそこそこにゴミ拾いの方が中心になっていく。これが赤里先輩や蒼美先輩だと話が違うかもしれない。
公園も一通り終え、その他の道に落ちているものも拾い集めていくうちにあっという間に時間は過ぎ、袋もいっぱいになってしまった。
十五時過ぎには集めたゴミとトングなどを返して、参加したお礼として飲み物とお菓子をもらった。
このまま解散かとも思ったが黒崎先輩がもう少しだけ付き合ってくれないかとゴミ拾いで訪れた公園に再び来ていた。
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