第二章 校内で噂の学園海賊

第二章 校内で噂の学園海賊①

~五月十五日~

 週が明けた月曜日。僕はいつも通り登校をして靴箱で上履きに履き替えたのだがそこで事件が起きた。靴箱を開けた時、中に見慣れない紙が入っていた。二つ折りにされただけでラブレターと言うには簡素でイタズラにしては紙がしっかりとしていた。

 近くに同級生はいなかったが僕はその紙をすぐにカバンにしまった。そしてそのまま教室に行く前にトイレに向かった。朝の時間ならどこのトイレも人はいないがとりあえず下駄箱から遠く、人があまり近寄らないところに入った。

 個室に入り、紙をカバンから取り出し確認する。

するとそこには一週間前に見た『WANTED』とだけ書かれている手配書もどきだった。これを誰が入れたか一瞬で分かった。

そしてこれが何を示しているのかもなんとなく分かった。今日、僕の元へ現れる。それを伝えるためにわざわざ予告状を用意した。しかしそれ以外何も書かれておらずいつ現れるか用心しておいた方がいいかもしれない。

トイレから出て教室に向かう間、僕の中にはいくつか疑問が生まれていた。

まずはなぜこんなものを用意したか。あの時の様にどこからともなく現れるのだと思っていたが予告して来るなんて。予告してくれるだけこっちも気分的に楽ではあるけど。

それから赤里先輩はどうやって僕の靴箱に入れたのか。先週、初めて会った時に先輩はどういう訳か僕の名前を知っていた。だが何組に在籍して靴箱の場所なんかもすぐに見つかるわけじゃない。

答えがまとまる前に教室に着いたため僕は考えるのをやめた。とりあえず今日はいつも以上に気を張って生活をしなければ。

しかしいつになっても赤里先輩は姿を現すことなく放課後になってしまった。

昼休みにでも現れるんじゃないかと廊下に注意を向けていたがいつもと変わらず同じ学年の人が通り過ぎていくだけだった。

そうした行動にさすがの友達も何かあったかと聞かれてしまった。なんでもないと言って誤魔化したが何かあったら言えよ。返されてしまった。

教室に一人残って紙を持ったまま大きく伸びをする。教室内にはすでに誰もおらず紙を大胆に広げていても問題はない。

そもそもこの紙は本当に赤里先輩が入れたものなんだろうか。あまり人の話を聞かなそうな印象だったが地面に落ちた紙の説明をしてくれたし意味のない行動はしなさそうだ。もしかしたら学園海賊に絡まれた僕に対する誰かのイタズラ?

だがどちらにせよ、このままではどうすることもできない。悩んだ果て、もう一度大きく伸びをしながら天井に掲げた紙を見る。するとそこに今まで見えなかった何かが薄っすらと見えた。

「えっ?」

 僕は驚きながら姿勢を戻し、紙を確認する。だがそこには先ほど薄く見えた文字は消えていた。

 天井に何かあるかと確認するがおかしなものは何もなくただ蛍光灯が昼間に関わらずついているだけだった。

 いや、もしかして…… 僕は席を立つと窓に向かった。窓からは今も日の光が入り込んでおり午後のゆっくりとした空気を運んでいる。

 窓の前に立った僕は差し込む日の光に紙をかざした。すると先ほどの薄く読むことも困難だった文字がはっきりと写し出された。

『放課後、あの場所で待つ』

 その文字を凝視しながら日の光から紙を外すと文字は消えた。これは光にかざすと隠れていた文字が見える仕組みだったのか。なんでそんな手の込んだことを。

 いや、今はそんなことを考えている時間じゃない。放課後、あの場所で待つ。だが僕と赤里先輩に共通する場所なんて一つしかない。

 僕は大急ぎでカバンを持ち、教室を出る。すでに放課後になりそれなりに時間が経っている。あちら側から来ると思っていたが考えてみたら僕の方から出向くのが普通か。

 幸か不幸か廊下で先生に鉢合わせすることなく下駄箱までたどり着き、靴に履き替えそのまままっすぐ中庭に向かう。

 中庭に着き、荒れた呼吸を整えながら辺りを見渡す。だが辺りには誰もおらず。遠くから運動部の声が聞こえるだけだった。

 すぐそこにあった部活動掲示板を見るがすでに勧誘用のポスターは剥がされており、殺風景なものになっていた。

「さすがに、帰っちゃったかな……」

「お、意外と早かったじゃねえか」

 肩を落とした瞬間、そんな声がどこからか聞こえ、僕は顔を上げた。声の位置はあの時と同じ。桜の木の枝に腰掛ける人影があった。

ガサッという音と共にその人は降りてきた。眼帯を付け、肩から掛けたブレザーが特徴的なその人を僕は知っていた。

「赤里、リュウト、先輩……」

「ふっ、名前も憶えていてくれたのか」

「意外と早かったって……」

 僕を待っていたことも驚きだったがさっきの言葉の意味も気になった。

 赤里先輩は腕を組むと小さく笑った。

「あの紙の秘密を解いてここに来たんだろ?」

「は、はい」

「光にかざすと隠されたメッセージが見えるようになる。なかなか凝ってただろ」

「え、ええ」

 なんでそんな凝ったことをしたんだろうか。普通に呼び出すという選択肢はなかったのだろうか。

「もっと時間がかかると思ってたんだが。なんなら今日は来ないと思ってたぜ」

 それが意外と早かったという言葉の意味なのか。確かに偶然とはいえ、気が付けてよかった。

「やはり俺の目に狂いはなかった」

「あ、その件なんですけど……」

 断ろうかと思いまして。と言葉を続けようとしたら先に肩に置かれた手で遮られた。

「ま、その件は後でいいだろ。先に俺たち学園海賊を紹介しねえとな」

「いや、だからそれは…… あ、ああ~」

 赤里先輩は有無を言わさず僕を引っ張ってどこかに歩き出した。

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