第二章 校内で噂の学園海賊②
連れられてやってきたのは運動場だった。あちらこちらから部活動の掛け声が聞こえ、今日は野球部にソフトボール部。それに少し離れた場所で陸上部が専用の場所を使って活動をしていた。
何度か遠目から見学をしたことはあったがここまで近くで見るのは初めてだった。
先ほど学園海賊を紹介すると言っていたがここにいるのだろうか。
赤里先輩の後を付いて行くと陸上部の練習場で足を止めた。そこではちょうど四人がスタートラインに立ち、ピストルが鳴った。
発砲音に肩を縮こませながら見ると一斉に走り始めた。スタートダッシュこそ同時に見えたが一人、群を抜いて早い人がいた。
その人は他の三人を寄せ付けることなく、まるで風のようにゴールと思われる場所を駆け抜けていった。
僕たちと少し離れた場所で見ていた陸上部員の人たちは黄色い声援を上げていた。
ゆっくりスピードを落としながら声援を送る人たちに向け手を振り、更に声は大きくなった。
僕はその速さに目が釘付けになっていた。他の人たちも決して遅いわけではない。ただあの人が別格だった。
そんな風に見ていると一着の人が不意にこちらを向き、目が合ったような気がした。そしてそのままタイムを計っていた人に耳打ちをしてこちらに駆け寄ってくる。
声援を送っていた人たちに会いに来たのかと思ってるとその足はまっすぐ僕たちの方に向いていた。
遠くてよく見えなかった細部が段々と見えてくる。髪を青色のリボンで器用に結っており、そして何よりそのはにかんでいる顔に見覚えがあった。
「俺の方が早いな」
「まだ三割くらいしか出してないっての」
おどけたように言うその姿。間違いがない。
「あ、あの。購買の時の……」
「やあ、こんにちは。また会ったね、後輩君」
その人は汗で額についた髪を手でかき上げながら、小さく笑う。
爽やかすぎるその雰囲気に僕は直視ができなかった。
というか、平然と赤里先輩と話をしている。ということはもしかして……
「こいつが学園海賊副船長のアスリートだ!」
「ちょっと、その説明はやめてよ。改めて、あたしは学園海賊副船長の蒼美ミナ。みんなからはアスリートって呼ばれてる。よろしくね、見習い後輩くん」
呆然としている僕を差し置き、紹介が始まっていた。
まさか、そんな繋がりがあったなんて。軽い様子で手を振りながらよろしく~と言っている蒼美先輩だったが僕の反応が薄いことに首を傾げた。
「そ、そんなに驚かないで。あたし二年生だけどそんなの気にしないで~」
「いや、そこに驚いてる訳じゃないだろ」
「じゃあ、どこに驚く要素が?」
「大方、お前が学園海賊ってところだろ」
そこかよ~ っと蒼美先輩はオーバーリアクションに驚く。出来たらそうやりたいのは僕の方なんだけどな……
だがどうにか正気を取り戻し、姿勢を正した。
「ぼ、僕は白井ユウキと申します!」
「うん。知ってる」
「そうでしたか。……ってなんでですか⁉」
「それはすぐに分かるよ」
「は、はあ。そうですか……」
僕の個人情報って一体どうなってるんだ?
そんな心配をしながらも僕は先輩に会ったら言わないといけないことがあるのを思い出した。
「ってそうじゃなくて。あの時はありがとうございました」
「ご丁寧にどうも。でもあのくらいどうってことないから」
「でもしっかりとお礼はしないといけないと思っていたので」
「はー、めっちゃいい子。どっかの誰かさんとは大違い」
蒼美先輩はチラッと赤里先輩を見ながら言う。
しかしそれを意に介さず赤里先輩は僕の肩に手を置いた。
「さて、とりあえず顔合わせは済んだな。アスリートもまだ陸上部の途中だろ。戻ってもいいぞ」
「え~ もう少し話していたかったのにな~」
「こっちは後が詰まってんだ。また後でだ」
「まったくしょうがないな~ じゃあ見習い後輩くん。また後でね」
「え、あ、はい」
僕たちに手を振りながら陸上部の輪に戻って行く。蒼美先輩は陸上部と兼業する形で学園海賊もやっているのか。大変じゃないのかな。
「さて、次に行くか」
「次って?」
「校舎内だ。さあ、まだ先は長いぞ!」
威勢よく言いながら赤里先輩は校舎に向け歩き出し、僕はその背中を追うのだった。
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