第二章 校内で噂の学園海賊(3)
~五月十七日~
水曜日は他の曜日に比べて早く終わる。職員会議があるとかないとか。
でも早く終わるに分にはみんな嬉しいことに変わりはない。僕の周りでも部活がない人たちがどこに遊びに行こうかと話し合っていた。
普段なら僕もまっすぐ家に帰るのだが今日はそういかなかった。
お昼休みに飲み物を買いに自動販売機に向かった時、柴堂先輩に遭遇した。
「今日の放課後、少し付き合ってくれたまえ」
それだけ言うとどこかに去って行ってしまった。
申し訳ないが柴堂先輩からの呼び出しと言うだけで嫌な予感しかしないが引き受けてしまった以上、行くしかない。
「お? どうした、白井。やけに顔が険しいぞ。そうだ。これから他のクラスのやつと遊び行くんだけど一緒にどう?」
「あー、僕はこれから用があるんだ。ごめんね」
「先客ありか~ ま、何があるか知らんけど頑張れよ」
「うん。生きてまた明日会おう」
それを聞いた友達は笑って反応してくれた。そして教室を出て行くのを見送り、僕も教室を出た。
別に柴堂先輩を疑っている訳ではない。だが前に実験に付き合ってもらうと言っていたため一体何をされるのか。
三階にある物理準備室も扉をノックして中に入る。準備室は前と一緒で遮光性のあるカーテンで覆われているが今日は最初っから電気がついていた。それに前は足の踏み場もないくらいダンボールや機材が散乱していたがきれいに片付けられていた。
すっきりした準備室の一角に柴堂先輩はいた。
「やあ、予測より七十秒早かったね」
「もしかして早すぎましたか?」
「いいや。君は他の三人と比べてわたしの予測と差異がないということだけさ」
前にも予測とか言っていたがここに来る時間のことを言っているのだろうか。
「ちなみにキャプテンは遅くて、蒼美君は早い。黒崎君に関しては呼び出す前にやってくる」
「そ、そうなんですか……」
前の二人はなんとなく予想つくけど黒崎先輩の呼び出す前に来るってどういうことだ? もしかしてそれもメイドの百八の秘密技の一つなんだろうか。
「さて、雑談はこのくらいにして。今日、君に来てもらったのは少し実験に付き合ってもらおうと思ってね」
「実験って何をするんですか?」
「安心したまえ。危険なことは何一つない。いや、一つ、二つ……三つくらいあるかな」
「徐々に増やさないで下さいよ。急に不安になってきたんですけど……」
「ふっ、大丈夫。あの時のように大爆発はしない。それは保証しよう」
あの時のようにって言った? いつのあの時なんだろうか。そもそも一回大爆発起こしたことあるのか。それにその言い方だと小爆発はあり得るってことだろう。
今日、僕は本当に生きて帰れるのだろうか。
そんなことを考えていると柴堂先輩はガラガラと何かを押してきた。それはキャスターの付いたマッサージチェアのようなものだった。
「さあ、これに腰掛けてくれたまえ」
動かないようにしっかりとストッパーで止めると肘掛けをポンッと叩きながら言った。
「いや、これなんですか?」
「マッサージチェアと言えば素直に座ってくれるかい?」
「それを言われた時点で座る気が……」
「これはわたしが開発中の意識だけを過去に送る装置だ。まあ、タイムマシンの一種だと考えてもらえればいい」
当然のように突拍子のない話をする柴堂先輩に僕は固まってしまった。出会った時から頭のいい人なんだろうと思っていたがまさかここまでなんて。
こんな変哲のない高校でタイムマシンの開発が行われているなんて誰が考えるだろう。
「そうかしこまらないでくれ。あくまでその原型となるものだ。まだタイムマシンのタの字も体現していない」
そういう問題ではないと思いたいけど…… でもまだただのイスだと言われれば少しだけ緊張がほぐれた。
結局、僕の根負けでタイムマシンもどきに座った。背もたれに背中を預ける。座っている心地としてはマッサージチェアとそんな変わらない。適度に沈むクッションで長時間座っていても疲れなさそうだ。
「さてと、ではこれを頭に付けて……」
と言う声が聞こえ、僕の頭に何かが装着された。そこまで重たくないが見ようとしても頭頂部を覆う形らしく見ることができない。
「な、何を被せたんですか⁉」
「心配することはない。君の脳波を計る装置さ」
「あ、はい……」
これ以上不安になるような話は聞きたくないから深く追及するのはやめておこう。
すると柴堂先輩は傍らに置いてあったパソコンを操作しながら他の機械の様子も確認したりと忙しなく動き始めた。
五分間ほどキーボードを叩く音だけが響く準備室だったがふむ、と小さな声が聞こえ、柴堂先輩は機械越しに僕に話しかけてきた。
「異常はないかい?」
「まあ、はい。強いて挙げればイスが快適で眠たくなってきたくらいで……」
「ああ、それは多分電流を流しているからだろう」
「そうなんですね…… って、えっ⁉」
心地よかった睡魔が一気に吹き飛んだ。いつの間に電流が流れていたのか。
驚きのあまり飛び上がろうとする僕を柴堂先輩は冷静に諭す。
「安心したまえ。人体に影響ないくらいの微弱なものだ」
「できたら先に言っておいて欲しかったんですけど……」
「そうした場合、君が座る可能性が低くなると思ったからね」
確かに素直に座るかと聞かれれば考えてしまう。それにしっかりと実験内容を説明してくれれば座るのだが。
しかし僕の体に電流を流してタイムマシンとどういう関係があったのだろうか。
「さて、実験は終了だ。外すからくれぐれも動かないでくれ」
頭から装置が外され、すぐそこの机に置かれる。いくつかの配線が繋がれたヘルメット状の機械が頭に被っていたなんて。
「さあ、降りてもらっていよ」
そう言われ、僕はマッサージチェアぽいものから立ち上がり、少し離れたところに置かれたイスに座った。
柴堂先輩はその間にマッサージチェアぽいものを奥の方に戻しに行った。
手持ち無沙汰になったのでそこら辺に置かれた物を見ていく。半分以上は未完成品と言わんばかりの複数の配線が絡まって鳥の巣のようになっていた。
そうして見て回っているうちに一つの装置があった。金属で作られたカブトムシのようなもので今まで置いてあったものとは毛並みが違った。
薄汚れており、金属も傷だらけで何かの装置と言うよりも置物に近かった。
「ああ、懐かしいものに目を付けたね」
いつの間にか戻って来ていた柴堂先輩が隣に立ちながら聞いてきた。
「ずいぶん古そうな物ですがこれは?」
「スイッチを押すと足と角が動く。そして変形して人型にもなる人形さ」
「ご自身で作ったんですか?」
「ああ。小学生の時かな。今は動かなくなってしまったからいつか直そうと思っていたんだがね」
小学生の時からすでにその才能を開花させていたのか。
カブトムシの人形を手に持ちながら話をするその表情は何かを懐かしむもので今までの表情一つ変えず実験をしていた柴堂先輩からは想像ができなかった。
「大切なものなんですね」
「そう、だね。今のわたしがあるのはこれのおかげかな」
それはどういう意味ですか。と聞こうとしたが先に柴堂先輩が実験に付き合ってくれたお礼として飲み物を奢ろう。と言ってきた。
多分、今はまだ聞かない方がいい事なのかな。これから先、もしかしたら聞く機会があるかもしれない。
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