第三章 航海~今と過去~

第三章 航海~今と過去~

~五月二十二日~

 日曜日は筋肉痛で動けないまま一日を使い果たし、また普通の日常が始まったのだがやはりまだ筋肉痛が少しだけ残っていた。

「なあ、白井。今日なんか動き固くね?」

「まあなんというか、異次元鬼ごっことかやってね……」

 六時間目の終わった教室で友達が僕の動きを見てさすがに違和感を覚えたらしい。

「なんだそれ。鬼ごっこは鬼ごっこだろ?」

 僕の回答に対して何を言っているんだという表情をしながら言葉が返ってくる。

 確かにそうなんだがあれをどうやって説明すればいいのか悩んでしまう。陸上部顔負けの全力疾走、人を乗せたドローン、ホッピングシューズ、キャタピラ付きの靴。そんなものが揃った鬼ごっこを普通の鬼ごっことして説明していいのだろうか。

 少なくとも正直に話しても信じてはもらえなさそうだし。

 そんなことを考えていると教室の扉が開き担任の先生が入ってきた。ホームルームを残すだけだったが先生が来なかったことによってみんな帰ることができなかったのだ。

「せんせーおそーい!」

「どこで寝てたんだー!」

「寝てねえ! 少しウトウトしていただけだ」

 それは寝るとどういう違いがあるのだろうか。そんなツッコミを心の中で言うがクラス中から容赦のないツッコミの嵐が先生を包んでいた。

「悪かったって。でも今日は特に連絡事項ないからこれで終わり…… あ、そうだ。白井これ終わったら俺んところ来て」

 突然、名前を呼ばれて肩をビクつかせてしまった。とりあえず先生の方を見て小さく頷くだけした。

 何か悪いことをしてしまっただろうか。特に思い当たる節はないが…… もしかして一昨日のことで何か学校に苦情が来たのか。

 ホームルームが終わり、先生へのツッコミは止みみんな部活などへと向かって行った。そんな中僕は一人先生の元へ向かった。

「えっと、先生。僕なにかしましたって……」

「うん? 何も悪いことはしてないぞ」

「じゃあなんで呼び出されたんでしょうか」

「お前、まだ部活動決めてないだろ?」

 その言葉に僕はあっと小さく声を漏らしてしまった。

 確かに最近、学園海賊のことで頭が持ちきりになっており部活動を探すことを忘れていた。

「毎年、一人二人はいるがまあ早めにな」

 それだけ言うと先生は教室を後にした。特に怒っている様子はなかった。でも確かに部活動について真面目に考えなければいけないなと思った。

 席に戻ると部活に行く準備を終えていた友達が近づいてきた。

「それで呼び出しはなんだったん?」

「早く部活決めろって」

「まだ決めてなかったのかよ。もう白井くらいじゃないか。入ってないのって」

「かもしれない。色々あって考えてなかったけどそろそろ本腰入れないと」

 それから少しだけ話をして友達は部活に行ってしまった。教室に残っていた人もそれぞれ部活や休みで遊びに行くなど話しながら教室を出て行った。

 こうしていると僕だけ置いて行かれたような疎外感というか寂しさを覚える。

 別に誰も置いて行ったわけではないしどちらかというと僕がその場から動いていないだけだ。

 一応、入学当初には様々な部活の見学や体験入部はしたがどれもあまりしっくりとこなかった。僕みたいにやりたいことを見つけるという漠然とした考えでは本気でやっている人たちの邪魔になってしまう。

 もちろんそんな部活だけではないがそもそも僕のやりたいこと。それがなんなのか分からない。スポーツなのか文化系なのか。そこすら定かではない。

 でももうすぐ決めなければならない。それまで見つけることができるかそれとも妥協で決めるのか。

 そういえば今日はまだ誰からも声をかけられていないし連絡も来ていないな。

 ポケットから取り出したスマホを確認するがそこにはただ時刻が表示されているだけだった。

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