第一章 指名者なき手配書(2)
~五月九日~
次の日の放課後、僕はすでに何回か訪れた中庭にある部活動掲示板に向かった。ひとえに部活動掲示板と言ってもそれ以外にも校内行事表や購買の新商品情報など色々なものが張り出されている。
だがそれを差し置くほど大量の部活動紹介の紙が貼られているためみんなそうやって呼ぶようになった。
所狭しと貼られた勧誘ポスターを見るが場所に限りがあるためポスターの上にポスターが貼られており更にその上にポスターを張る。無秩序にもほどがあるその掲示板を僕は見つめる。
入学当初はここも掲示板と同じように人だかりができており見るのにも一苦労だったが時間が経つにつれ、ここを訪れる人は減っていき最終的には僕だけになった。
「サッカー部に野球部、水泳部、テニス部。からくり部に人形劇部、ぬいぐるみ部に人体実験部?」
無限にあるポスターを一枚ずつめくりながら部活動を探していくがここに来れば来るほど新しい部活動を発見する。それぞれ個性豊かな紹介文を添えており、時にはプロが書いたんじゃないかと思うほどの絵が描かれていたり見ていて飽きることはなかった。
三十分後、多分一通り見終えただろうと掲示板の前で伸びをする。
どれも楽しそうではあるが球技は初心者歓迎とは書かれているが体育程度しかできないから経験者と一緒にやるかと問われれば少し気圧されてしまう。絵も特別上手でもないし文芸も時たま気になったものを読むくらい。その他の得体のしれない部活も入るのは少し難易度高い。
結果としてどれもピンと来ない。というか入ってみようという最後の一押しがない。部活動が悪いわけではなくその一押しが分からずずっと立ち止まっている僕が悪いんだが。
先生にも迷惑をかけているし何かしら見つけなければ。そう思った時ビュンと風が強く吹き、掲示板のポスターが激しく揺れた。
珍しく吹いた風に髪を押さえながら顔を背けていると僕の目の前に一枚の紙が落ちた。状況から考えるに今の風で掲示板から剥がれてしまったんだろう。
しゃがんでその紙を拾う。一体どこの部活のポスターが剝がれてしまったんだろうと確認をする。
『WANTED』
とだけ書かれていた。よく漫画などで見る海賊の手配書のようなフォーマットをしている。表も裏も穴が開くほどよく確認したがどこにも部活動名は書かれておらず、なんだったらここにあるポスター全てに押してある生徒会の判子すらなかった。
「なんだこれ? 誰かがイタズラで貼ったのかな?」
「おい、そこのお前!」
その瞬間、どこからか声がして僕は肩を震わせた。周りには僕以外誰もおらず、お前というのが僕を表しているのはすぐ分かった。
が、その声の主も当然見つからない。一体どこからと辺りを見回しているともう一度声がした。
「ここだよ、ここ!」
「えっ……」
その声の方に顔を向けるとそこには緑色の葉を付けた桜の木があった。そしてよく見て見るとその中の一つの枝に座る人がいた。木の陰で詳細は見えないが声からして男性ということだけ分かる。
「その紙」
「あ、これですか。えっと今さっき風で落ちてしまったみたいで……」
「ふっ、これも運命ってやつか。とう!」
何かを呟いた後、男性は木の枝から颯爽と飛び降りた。かなりの高さがあるのに物怖じせず飛び、軽々と着地をした。
唖然とする僕を気にすることなく立ち上がり今まで見ていなかった姿が露わになった。少し長めの髪に左目を覆う眼帯。緩く絞められたネクタイに肩にかけられたブレザー。中には赤色のベストを着ていた。
いくら制服の着こなしも自由とはいえ、これはありなんだろうか。
さすがにこんな人を同学年で見たことがない。ということは先輩なのは確実。
腕を組みながらじっと僕を見る先輩だと思われる人に先に声をかけた。
「えっと…… あなたは?」
「俺は学園海賊の船長、赤里リュウト。皆からはキャプテンと呼ばれている」
学園海賊? 船長? キャプテン? 突然のことに僕の頭はついていけなかった。だがその時、昨日の帰りの際に真影君が話していたことを思い出した。
『この学校に凄い人たちがいる』
あくまで可能性かもしれないがこの人がその凄い人の一人なのかもしれない。いやどう考えてもそうだ。
すると赤里先輩は混乱している僕を置いて、この手に持っている紙を指差した。
「お前が持っているその紙」
「ああ、これは……」
「それは俺たち学園海賊の手配書だ。それを持っているということはお前、俺たちの仲間になりたいってことだな!」
「え、ええ‼ ち、違いますよ。僕はただこれを拾っただけで」
なんだかすごい誤解をされてしまっている。僕の弁解も聞くことなく赤里先輩は僕の肩に手を置いた。
「分かっている。皆まで言うな」
「いやいや、言いたいですって!」
「まあ、すぐに返事をしろとは言わない。じっくりと考えてくれ。見習い」
「だから話を…… って見習いって、僕は」
「じゃあな。いい返事を期待しているぜ。白井ユウキ」
最後に小さく笑うと赤里先輩はそのままどこかに行ってしまった。
嵐のように過ぎた出来事に僕は近くに設置されていたベンチに座った。海賊、確か学園海賊と言っていたか。海賊から連想される強面ではなかった。気の知れた人とじゃれ合うような雰囲気だった。
そのためか初対面の人だったがそこまで緊張することなく普通に話せた気がする。
「赤里リュウトか……」
人の名前はあまり忘れないが一応反復しておく。
「というか僕、名前教えたっけ?」
去り際に僕の名前を言っていた気がする。名札なんて付けてないしどうやって。
よく分からない人に目を付けられてしまったが僕の高校生活はどうなってしまうのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます