第一章 指名者なき手配書(6)

~五月十三日~

 やっと訪れた休日に僕はリビングのソファーで一人伸びをする。両親はとても忙しい人たちでこうして休日も家を空けているのがほとんどだ。

 昔は寂しさも覚えたが今となっては特に何も感じない。

 幼馴染も勝手に遊びに来たりもするのだが今は学校が忙しいのか来ていない。

 それにしてもなぜこんなに一週間が疲れたのかといえば確実に赤里先輩との出会いとそれからよく分からない先輩たちとの件があったからだ。

 入学当初も慣れない生活で疲れることはあったがこれはそれとは少し違う。言うなれば気疲れとでも言うべきか。

 今まで先輩と接することはあまりなかったし、その後の人探しだったりで気を張っていたりした。

 赤里先輩はあの日以降、僕の前に姿を現していない。どこからともなく現れて勧誘をしてくるのはないかと構えていた。

 海賊なんて名乗っていたから強引な手を使ってるんじゃないかと内心ハラハラしていたが怖いくらい不干渉だった。

 その代わりに名前も知らない先輩たちに声をかけられるようになった。海賊に目を付けられた下級生がいるなんて噂が立っているんじゃないかと考えたがそれだったら同学年の人からも話しかけられもするはずだからその線はない。

 もう一つの可能性としてあり得るのはあの人たちが学園海賊と何かしら関係があることだ。真影君から話を聞いた時、凄い先輩たちと言っていた気がする。

 今のところ判明しているのは船長を名乗る赤里先輩だけ。それを踏まえるとあの人たちが学園海賊の一員の可能性も否定できない。

 だがみんな個性が違い過ぎる。後輩に優しい運動神経がいい先輩に何を考えているか分からないけどとにかく頭のよさそうな先輩。それにメイドの恰好をした人。最後に関しては先輩なのか不明だが少なくとも一年生にはあんな恰好をした人はいなかった。

 個性豊かという意味では赤里先輩に引けを取らないが集まればカオスな場面が形成されてしまいそうだ。

『じゃあな。いい返事を期待しているぜ』

 そう言えば赤里先輩があの日、去り際に言っていたな。少なくともあと一回は僕の前に現れると考えていいんだろう。その時、ちゃんと断ろう。

 さすがに実情の分からない集団に入るわけにはいかないし。僕の目下の目的は入る部活動を探すことだし。

「って、そうじゃん。部活!」

 一人でソファーから立ち上がりながら思い出す。海賊がらみのことで頭がいっぱいになりすっかり忘れていた。

 月曜日にどこか見学にでも行くかな……

 悩み事が増えたことに頭を抱えながら僕は部屋に戻るのだった。

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