第28話新魔王に慕う月光蝶
満足に行く朝食を平らげ、昨日成し遂げられなかった魔王城見学を再開した。
新魔王の名が広まっているのか、魔の者達が首を垂れる光景が、ちょくちょく視界に入るな。
ふふ、これが頂点に立つ者の気持ちか……凄まじい高揚感だ!
そんな私の隣には、右腕ではない者が、フワフワと浮いていた。
「何時まで着いてくるつもりだ、蝶女」
「どこまででもです!」
「なら、どこかへ飛んでしまえ」
「お断りします! 私は新魔王にお慕いしているので!」
お慕いする以前に、その鬱陶しい鱗粉をどうにかして欲しいものだ。
鼻がむずむずしてたまらんのに、フワフワ飛んでいる限り、周囲に飛散してるだぞ。
いっその事、粉塵爆発を装って消し炭にするか。
「勇者様ー早く来て下さいー」
「私の許可なく、先に行くんじゃない」
「そうですそうです!」
「……お前は何なんだ」
「月光蝶です!」
「そういう意味じゃない」
コイツは本気で、このまま付き纏って来る気なのか?
右腕だけでも重荷であるのに、粉虫女も付属するのならば、面倒くさすぎるぞ。
どこかに特大害虫用の殺虫剤があれば、率先して使ってやるのにな。
右腕が待つ場所には、骨組みが丸見えのエレベーターがあった。
「こんなものがあったのか」
「とても便利なんですよーさ、乗って下さいな」
ざっと10人の定員で、みちみちになる広さだな。
鱗粉女が2人分の場所を取っているな、邪魔以外の何者でもない。
そうこう考えてる内に、騒音を鳴らしながら降下が始まり、右腕は何やら資料を持っていた。
「えー本日の見学ツアーですが、魔王城の本城にある、一階層から回って行きたいと思います」
「待て、本城の一階層だと?」
「何か問題でも?」
「ありありだ。昨日本城へと乗り込んだばかりだぞ、舐めてんのか?」
「それはあくまでも表向きの仕様ですよ~裏事情までは知りませんよね?」
その心底ムカつく態度に、その資料を無理矢理、口に突っ込んで燃やしてやりたい。
「あの……新魔王様?」
「なんだ」
「何故、ハゲ坊主から勇者様と呼ばれているんですか?」
「勝手に呼ばれているだけだ」
自分が元魔王だから、私を魔王と呼ぶのに、未練たらたらで抵抗があるんだろうな。
つまらないプライドがあるから、後頭部が剥げてしまったんだぞ。
常に猛省し、毛根を敬え。
「じゃ、じゃあ……つまり、私が初めて新魔王とお呼びしたのですね!」
「な訳あるか。既に呼んでいる者はいるわ」
「が、ガーン!」
愕然とした姿の際、鱗粉が今まで以上に飛散したぞ……キレそうだ。
「さぁ、もうすぐ一階層に着きますので、衝撃に備えて下さい!」
「衝撃だと。安全性はどうした」
「魔王城に必要ですか?」
コイツが如何に外道なのかが、よく分かった。
部下の安全も考えず、エレベーターという密室降下処刑箱を、自由に利用させる仕様。
現魔王である私を目の前にして、改善の素振りがないのは許される筈がない。
「右腕、こっちへ来い」
「何ですか?」
「貴様にとびっきりの重力をプレゼントしてやる」
「え、あちょぶっ?!」
右腕に触れ、重力を通常の10倍に増加しててやった。
床を突き抜けて落下したが、そのまま地の底で暮らせばいい話だ。
「流石、新魔王様です!かっこよかったです!」
「フフーン!そうだろう!そうだう!」
上機嫌となった私は、一階層に着くや否や、蝶女と一緒に見学を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます