第30話伝説のアイドル黒死蝶のコスチューム

 控室なる場所へと連行され、蝶女と小デブゴブリンだけで、衣類を物色しながら話し合ってる。

 置いてけぼりにするなら、今すぐにでも背後を削ぎ落せるぞ。


「やっぱりこれしかないですね!」

「ですな! 新魔王様! こちらをどうぞ!」


 自信満々に黒い衣服を手渡してきたが……なんなんだこれは?


「おい、手渡すだけじゃなく、ちゃんと説明しろ」

「失敬失敬! そちらは、あの伝説のアイドル黒死蝶殿のコスチュームですぞ!」


 あの伝説が、どの伝説かはどうでもいいが、妙に埃臭いのは古着って事か。

 適当にリフレッシュでも掛けて、スッキリさせるか。


「で、このヒラヒラのキラキラを……本当に着るのか?」

「はい! ちなみに私とお揃いなんですよ! えへへ~」

「では、本番は30分後ですので、早速着替えを頼みましたぞ!」

「お、おい。何のことだ!」


 小デブゴブリンが退室し、一体何が何やら、把握できないぞ。

 魔王をここまで弄ぶ貴様らは、後で極刑に処すしかなさそうだ。


「ほら新魔王様! 新歓ダンスライブまで時間ないですよ!」

「なに? 新歓ダンスライブだと?」

「はい! 今時期の恒例行事なんです! 私達アイドルはその盛り上げゲスト、って感じです!」


 ダンスとなると、動かなくてはならないのか。


 だが、一動きでもすれば、パンツが丸見えになってしまう、かなり短いスカートだぞ。

 動きやすさなら抜群だが、流石にパン見えは嫌だ。


 モザイク処理の力で見えなくする事は出来るが、余計にいかがわしくなるに決まってる。


「どうしたんですか?」

「蝶女、お前はこのスカートを履けるか?」

「はい!」

「パンツが確実に見えてもか?」

「私、パンツ履いてないんで!」


 今更だが、蝶女が衣類的な布を一切身に纏っていない。

 何故、気付かなかったんだ!

 恥を知らぬ者に聞いた、私が間違っていた。


 しかし、せっかくの新歓ライブを盛り上げなければ、魔王の名が廃ってしまうのではないか?

 ……ここは一つ目を瞑って、パンツの一つや二つは、見せてやってもいいか。


 諦め半分な私は、黒死蝶のコスチュームへと着替え、鏡前で見栄えを確認した。

 やはり私だ、なんでも似合ってしまうな。


「おおぉぉぉおお似合いでしゅぅぅう!」

「だろ」

「はい! あとはお化粧ですね! そこ鏡台に座って下さいませ!」

「そうか」


 無駄に六本も腕があるからか、セット時間が異様に早い。

 しかもハイクォリティーだ……ふふ、思わずにやけてしまう。


「ますますお美しいです! しゅき!」

「流石私だろ?」

「はい! 新魔王様でないと、このお姿にはなれません!」


 ふふ、やはり太鼓持ちがいるだけで、こうも気持ちが高揚するものなんだな。


「これで良し! できましたよ!」

「ほぅ……これはまた、私の良さを最大限に引き出しているな」

「全力を尽くしました! あ、自分のやるの忘れてました!」


 慌ただしく化粧を始めた蝶女。

 よほど手慣れているのか数分で終わったぞ。


「ふぅー! じゃあ、出番まで待ってましょうか!」

「待て。ダンス自体の練習はどうするんだ。私は何も分からないぞ」

「ノープロブレムです! 基本的には曲にノって下されば、好きに踊ってくれて大丈夫です!」

「つまり即興ダンスという事か……」


 確か、人間の世界で観覧した、有名アイドルの振り付けの記憶があった筈だ。

 その動きを体に付与すれば、問題なく乗り切れるだろうな。


 さぁ、魔王である私の美しき姿を、ゴブリン達にお披露目する時が待ち遠しいな。

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