第31話月光蝶と黒死蝶のライブ
出番までの待ち時間、蝶女の質問攻めに快く答えている私。
まだ同性同士だから耐えられるが、これが右腕だと考えると、ストレスマッハだな。
「なる程! それが美脚の秘訣なんですね! ちなみカップ数はお幾つですか!」
「G以上だ。今の尚成長中だ」
「はわわわ~凄しゅぎりゅ~!」
「お前はどうなんだ?」
「CよりのBです! もっと新魔王様みたいに、立派になりたいです!」
胸の形をした光沢の甲殻だが、成長はするのか。
虫とは不思議な生き物だな……まぁ、正直どうでもいいがな。
絶えない蝶女の質問を遮るよう、扉が勢い良く開かれ、小デブゴブリンが姿を見せた。
いっちょ前にタキシードを身に纏ってるな、汗臭そうだ。
「さぁー! いよいよ出番の時間になりますぞ……おっほぉ……こ、黒死蝶殿が蘇ってますぞぉおお!」
「ですよね! 新魔王様に似合わないものは、決してないのです!」
「そんなこと分かり切ってる。行くぞ、蝶女」
「はい!」
小デブゴブリンに案内され、私と蝶女はステージ下で待機することになった。
演出として、せり上がるで登場するらしいが、無駄に凝っているな。
ステージの様子が、小型モニターで確認できるな。
どれどれ……。
数千体の魔の者達で埋め尽くされているな。
……それに二階席があるのは予想外だな。
まぁ、盛り上げゲストなりに、コイツらのボルテージを底上げさせてやろうじゃないか。
「あ、照明が落ちました! いよいよ本番です!」
「ふっ。即興タッグで釘付けにさせるぞ」
「か、カッコイイ~! はい! 私全身全霊で頑張ります!」
虫のくせに良い心掛けじゃないか、賞賛に値するぞ。
曲のイントロが流れ始め、アイドルの振り付けを体に付与。
ふ、完璧なまでに乗り切ってやるさ。
せり上がり尽くした私達に、ゴブリン共はむさ苦しい黄色い声を上げ、色とりどりのサイリウムを振りまくりだ。
「みんなー! いっくよー!」
「最後まで着いて来い! せーの!」
曲に合わせ本格的なダンスを披露する、私と蝶女。
ほぅ、私の振り付けが違和感がないよう、蝶女が即興で合わせてきてるな。
お前の適応能力は素晴らしいの一言に尽きるな。
私もつい、ノリノリで盛り上がってしまってるが、何やら変な視線を感じていた。
一体どこから感じて……な!
み、右腕の奴め!
いつの間に、最前列に陣取っていやがったんだ!
あのまま地の底まで沈んでいき、存在そのものをなかったことにしたのに!
完全に目が合った私に対し、右腕は何かを呟いていた。
「うわ。勇者様、痛過ぎじゃん」
私の耳が正常ならば、アイツは私の事を痛過ぎと言ったのか?
ほぅ……右腕の分際で、アイドル玄人気取りか。
ならば、即興演出で貴様を凍らせても、文句はないだろな?
「凍てつけ」
「あ、あれ……わ、私の体が動かなくなって……眠くなって……」
一瞬にしてステージが氷漬けとなったな。
流石私の凍てつく力だ。
隣にいた蝶女は、すっかり冬眠モードになって爆睡してるな。
ま、これはこれで盛り上がったんじゃないか?
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