第32話二階層ゴーレムラビリンス

 凍てついたステージも、一日もすれば溶け始めるだろうな。

 とにかく一階層の裏事情も分かった事だし、次なる階層へと向かうか。


「おい、右腕。早く案内しろ」

「さ、さぶい……」

「顔が真っ青だな、どうした?」

「……言っても無駄なんで、気にしないで下さい」


 せっかく私が気遣っているのに、無下にするつもりか。


 しかしながら右腕の奴め。

 ガタガタと歯を鳴らし、小動物のように震える姿が、あまりにも滑稽すぎる。

 あまりにも可哀想なので、善者である私は、右腕をこっそり炙ってやった。


「あれ。寒くなくなってきた!」


 何故燃え上がらない……はっ。

 コイツが炎耐性持ちだったのを忘れていた!

 すっかり顔色の戻った右腕は、私をいやらしい目で睨んでいやがった。


「ちょっと勇者様。ワシを燃やそうとしましたね」

「燃やそうとはしてない。灰にしようとしたんだ」

「質が悪い!」


 はぁ……何故、コイツは感謝の一言も言えないのだろうか……子供でも出来ることだぞ。

 まぁ、心の広い私だ。

 このぐらいのちんけな事にこだわる程、無駄に責めたりはしない。


「で、階層自体はあとどれぐらいだ」

「え? あぁー魔王広間を除けば、全十階層ですね」

「なら残りは九階層か」


 今までのペース配分からして、半日以上掛かる計算になるな。

 少々長い気もするが、遅めの昼食が味わえるなら我慢するか。


 エレベーターで二階層へと移動し、重苦しい岩扉を右腕が開いた。


「んしょーっと! じゃーん! 二階層のゴーレムラビリンスになります!」

「だろうな。早く裏事情を見せろ」

「もうー……せっかちは嫌われますよ?」

「あ?」

「何でもありませーん!」


 逃げ足だけは無駄に速い奴だな。

 不意に足だけ麻痺らせて盛大にこけさせてもいいな、ふふ。


 ラビリンスの奥へ奥へと進み、右腕は何を思ったのか、何もない壁を一生懸命に叩き始めていた。

 ついに脳味噌がイカれたか。

 残念だが私は貴様を治したくないんだ、すまないな。


「お、ここです! それ!」


 景気良く岩ブロックを押した右腕。

 ゴゴゴゴゴと重苦しい音を立て、岩ブロックが壁に沈み込んでいった。

 ほぅ……隠し扉とは粋なギミックだな。


 巨大な入口が現れ、燭台が灯る通路の突き当りには、更に巨大な扉があった。

 しかも何やら笑い声が聞こえている。


 早速右腕に扉をノックさせると、扉ののぞき窓から二つの赤い光が、私達を見下していた。


「あ、こんにちは! 元魔王です! 親方に会いに来たんですけど、入ってもいいですか!」

「……ソチラは?」

「新魔王だ」

「……ドウゾ、お入り下さい」


 重厚な音を鳴らし、開かれた扉の先では、数十体のゴーレムが飲み会を開いていた。

 自由だな。


 そんな飲み会を他所に、右腕が奥で堂々としているゴーレムへ、無駄に接近していた。


「どうも親方さん! お酌しますよ!」

「お? 気が利くじゃねぇか!」


 お酌するのが、サラサラな砂って何なんだ。


「てか、お前誰だ?」

「姿は違いますが元魔王です!」

「そうか! まぁ、せっかく来たんだ! 飲め飲め!」

「どもども~♪」


 右腕の奴、お酌された砂を飲み干しやがった!

 やはり魔の者は何でもありなんだな、引くわ。


「あ、勇者様! こちら親方ゴーレムさんです!」

「おぅ! よろしく!」

「全身が角ばってるな」

「ゴーレムだからな! ガッガッガ! てか、誰?」


 いちいち名乗るのが、そろそろ面倒くさくなってきたな。

 今度から名刺でも作っておくか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る