第29話一階層 ゴブリンヘル

 魔王城の本城一階層を、蝶女に案内させているが、鱗粉が相変わらずうざい。


「さぁ新魔王様! こちらの扉先が、一階層の裏事情になります!」

「そうか、開けろ」

「イエッサー! ふぬぬぬぬぅー!」


 か細い虫腕六本で、必死に扉を開けているが、びくともしてないぞ。


 見兼ねた私は、扉を蹴り飛ばしてやった。

 貴様の貧弱な体を鍛えてやらなくては、また赤オーガみたいな連中に、手を出されるに決まっている。


「はわわわわわわ! しゅ、しゅごいでしゅ!」

「ふふ。もっと褒めろ」

「最高です! 新魔王様に一生お慕いしますぅ~!」


 どうやら蝶女は太鼓持ちらしいな。

 右腕と違って不快な要素が格段に少なくていいな。


 さて、一階層の裏事情とやらはどうなっているんだ?


 ……無駄にくつろいでる、緑色肌の魔の者達が、仰山いるぞ。


「こちら一階層の裏事情は、ゴブリンヘルの休憩所になっています!」


 ほぅ、ゴブリンか。

 最弱とまではいかないが弱い連中だ。


 しかしながら、魔王城の一階層にゴブリンを配置するなど、元勇者である私も、随分と舐められたものだ……。


 今、私達を見ている連中だが、一切動こうとしない程にたるんでる。

 洗脳で強制トレーニングさせて、最強の魔の者にするのもいいかもな。


「おや? おやおやおや!?」


 なんか、小デブの眼鏡ゴブリンが、キモイ声を上げて近付いてきたぞ。

 軽く歩いてきただけで、眼鏡が曇る熱気だ……汗もたらたら垂れているな。


「我が魔王城のアイドル! 月光蝶殿ではないですか!」

「アイドル? そうなのか?」

「えへへ~一応やらせて貰ってます!」


 なんてことだ……魔の者達は、虫女がアイドルに見えてしまうのか。


 言われてみれば、人間の美しさは、魔の者達にとっては醜く見えるという、謎理論がある。

 きっとそれなんだろうな……ん?

 だとしたら人間である私は、こいつらから見て、化け物なのか?


 ……ぶち殺す。


「ところで、そちらの美しい女子様は?」


 待て。

 このゴブリン、私の美しさを分かっている。

 臓物ぶっこ抜きフルコースは、止めといてやる。


「お目が高いです! こちら新魔王様です!」

「新魔王……ほぅ……」


 息を荒立てながら、舐め回すように観察されるのは、気に食わないが我慢してやる。


「ははぁーん……もしや貴方……アイドルの逸材ではありませんか?」

「何?」


 私がアイドルだと?

 確かに容姿端麗ではあるが、ジャンル的に言えばアダルティー美女だ。

 アイドルは少なからず、あどけなさや幼さが残っているもの。

 如何せん私は、幼き成分を子供時代で消費してしまっているんだ。


 それでも尚、私が逸材ならば、正気の沙汰ではない。

 やはりこのゴブリンは異常種だ。


「そうなんですよ! ゴブリンキングさん! 新魔王様は私と同じ、逸材なんです!」

「ほほほほ! 月光蝶殿のお墨付きとなれば、こちらも腕が鳴ります!」

「お、おい。一体何の話をしているんだ」

「貴方様のアイドル改造計画に、決まっているではありませんか」


 な、なんだと……。

 蝶女が私を逃さまいと、無駄な六本腕で捕えやがった。


「さぁ新魔王……私と一緒にアイドルしましょう?」

「ほほほ……最強のタッグアイドルを作り上げますぞぉおお!」


 まずい、こいつらイカれてる!

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