第54話元魔王の馴れ初め

 魔力を注いだ黒球から、立体映像が浮き出てきたぞ。

 魔の者の技術が人間界を上回ってるとはな。


「披露宴に使った馴れ初めダイジェストですんで、そこんとこよろしくです」

「分かったから、さっさとしろ」

「急かしん坊はモテませんよ」

「あ?」

「嘘ですごめんなさい! え、映像スタート!」


 容姿端麗の申し子である私が、モテないだと?

 バレンタインデーに数え切れんチョコレートを貰ったんだぞ。

 貴様が一生掛かっても無理な圧倒的な数をだ。


 映像を見終わり次第、もう一発尻蹴りしてやる。


 映像が流れ始め、魔王城をバックに盛大な音楽と字幕が現れた。


 なになに……。


 『ワシとサキュバスクイーンが出会ったのは、魔王城が完成した間もない頃だ』


「字幕がミスってるぞ」

「どこがです?」

「……捏造か」

「はぁー……続けますね。再生っと」


 クソ腹の立つ返事をしやがって。

 

 魔王城前の広場で魔の者達が、宴を繰り広げる場面になったな。

 どんどんクローズアップされて、とある魔の者で止まったな。


 『当時100歳の若かりし魔王である』


「おい。このイケてる若造は誰だ」

「ワシって書いてあるじゃないですか」

「またしても捏造か」

「再生しまーす」


 無視しやがったな、この野郎。


 若右腕の前に痴女が通り過ぎたな。

 メロメロの取り巻きを引き連れてるが、コイツがサキュバスクイーンか。

 ふ、ふーん……私とタメを張るぐらいには美しいじゃないか。


 しかしなんだ。

 取り巻きの最後尾に現れた少女を撮ってるぞ。


 『当時見習いサキュバスだった、後のサキュバスクイーンである』


「右腕……いくら何でも少女だと擁護できんぞ」

「まぁまぁ、続きを見てから好きなだけ言って下さいよ」


 随分と自信有り気だな。

 将来的にハゲるのに生意気だ。


 場面が切り替わって、サキュバスクイーンが一人、庭園のベンチに座り、溜息を付いてる。

 紳士の如く右腕が現れ、隣に座り目が合ってるな。

 案外ロマンチックな出会いなのが腹立つな。


『この後二人は滅茶苦茶愛し合いましたとさ、END』


「おい! 最低だろ!」

「お互いビビっと求め合っちゃったんですよ♪ てへ♪」


 ENDロールの撮影兼編集が竜人王単独で流れ、映像が終わった。

 ここまで酷い馴れ初め映像に、吐き気を催しそうになったが、どうにか飲み込んだ。

 約束通り、尻蹴りを食らっとけ。


「けつぅうううう?!」

「しばらくケツを労わってろ!」

「あのー……裏事情に到着しました」

「さぁさぁ、お入りになって下さい♪」

「ん? あぁ」


 案内させてたのをすっかり忘れてた。

 扉の先の裏事情は、一体何が待ち受けてるんだ。

 

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