第17話愛犬ケルベロス
右腕の言う通り、ケルベロスの部屋であろう巨大な扉は、私にもすぐに理解できた。
巨大な扉が鋭利な爪痕だらけだからだ。
ケルベロスの体格を物語っているな。
「この有様から察するが、躾がなってないのか?」
「ノンノン~やんちゃなんですよー。ワシ、餌取って来るんで、先に中入ってて下さいー……!」
ルンルン気分が糞程醜い奴だ、戻ってきた暁には尻蹴りを食らわせてやる。
でだ、先に中に入れと言ったか?
右腕に飼いならされたケルベロス如きなら、秒で従順させられるな。
そして私の勇ましい飼い犬として仕えさす、ふふ。
邪魔な扉を切り刻み、ダイレクト入室させて頂いた。
何もいないじゃないか……無駄にデカい犬っころはどこにいる!
天井には!
いない!
壁には!
いない!
山積みの積荷は……微かに物音がする……そこか。
もし鼠ならば、私に無駄な時間を使わせたことを悔い、鼠をこの世から滅す。
ガサゴソと動く箇所へ近付き、私は声を掛けた。
「出てこいケルベロス」
さぁ……鼠かケルベロスか、この目で確かめさせ……。
「キャン♪」
「……子犬?」
「クゥーン♪」
三つ首ではあるが、あまりにも幼すぎないか?
抱きかかえても暴れることはない、むしろ甘えている。
性別は……雄だな、去勢はしていないみたいだ。
「あ、そこにいましたか。餌の時間ですよー♪」
「おい右腕。これはどんなホラ話だ」
「ホラ話もなにも、前の大きなケルベロスちゃんは魔界に引き取られたんで、この子が代わりに来ただけですよ」
「キャン♪」
「顔を舐めるな……」
私のケルベロス番犬プランが失敗に終わるのか?
代わりに子犬ブリーダーになるしかないのか!
ならん、そんなことはあってはならん!
「勇者様? ケルベロス君を降ろしてくれませんか? 餌あげられないんで」
「あってはならん……」
「……なんて?」
「私の愛犬が、こんなちんけな器であってはならん!」
「ワシの犬ですって。ほら、早くして下さい」
ケルベロスよ、貴様は今から私の力を分け与え、相応しい姿にする。
必ず耐えるんだぞ。
「ゆ、勇者様? なんだか空気がビリビリするんですけど……」
「行くぞ。せい」
「あ、ちょっと待っぎゃああああああ!?」
巻き添えを食らう右腕の事なんぞ、糞程どうでもいい。
が、ケルベロスこと犬太郎の為に、私は妥協しないぞ。
魔の者は魔力の多さで変異すると、伝記に記されていた。
なので、私の力を魔力に変換し、犬太郎へと分け与え、変異させるつもりだ。
見る見るうちに巨大化する犬太郎は、西塔が耐え切れない重さまでになり、塔は呆気なく崩壊した。
よし、これで私の手を煩わせずに、魔獣管轄の場を消すことが出来た。
瓦礫の山と化した地には、私に相応しい愛犬犬太郎が、空高々に吠えていた。
《ギャウ!ギャウ!ギャウ!》
「勇ましくなったな、犬太郎。おーよしよし♪」
「はへぇ~……」
一度に三つ首に甘えられると、こんな風になるのか!
ふふ、可愛い奴だな、まったく。
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