第5話魔の者の証
「わ、ワシの夢が……」
「いいか右腕。私は今、人間味が溢れすぎて魔の者とは程遠い」
「で、ですね……そ、それで?」
「分からないのか? 私が魔の者として違和感がないよう、案を出せと言ってる」
「違和感……あ。なら、ワシの角なんかどうですか?」
なに?
角が頭部から外れたぞ。
頭蓋を突き抜けた脳みそが、変形したものかと思ったが、違ったか。
確かに角があれば、雰囲気的に魔の者へ近付ける。
が、薄毛が所々に付着して気持ち悪い。
「いらん」
「1万エーンした飾り角がぁあ!?」
片手で砕ける低耐久性のお飾りなんぞ、身に着けるだけ恥さらしだ。
何か代わりになるもので、飾り角を作れないだろうか。
「右腕。宝物庫なる場はどこだ」
「そんなものありません!」
「なら、貴様のへそくりを……何か来る」
扉からではない、天井からだ。
凄まじい風音を鳴らすそれは、天井を景気よく破壊し、私達を覗き込むように姿を見せた。
どうやら大翼を生やした赤い大トカゲみたいだ。
中々にカッコいいじゃないか。
「魔王様! この竜人王! 人間が魔王になるなんて許せません!」
「ちょ、ちょっと竜人王君?! 天井!? めっちゃでかい穴空いたじゃん!」
数十m級の巨躯から人の姿へと変わるのか、興味深い。
人間の青年らしい見た目だが、顔面に鱗の残りカスがへばりついているな。
正直気持ち悪い、早くご退場願おう。
「鱗男。私の気が変わる前に去れ」
「あぁ? てめぇだな? 人間如きが調子乗んな」
「りゅ、竜人王君……大人しく帰った方が……」
「何をおっしゃいますか! こんな人間の女なんか、雑魚の屑のド底辺でぼげすっ!?」
「いちいち長い」
「竜人王君んんん?!」
か弱き乙女の一撃ビンタで、軽々しく壁まで吹き飛ぶのか。
見掛け倒しも甚だしい。
しかも失神して、大トカゲの姿にも戻っている。
変体の維持力の圧倒的な低さも、盗み聞きしていた点もマイナス評価だ。
本日をもって鱗男の王の名は、魔王の権限で剥奪せねばな。
ん?
ほぅ……よくよく見れば、光沢のある紅蓮色の鱗が顎下にあるじゃないか。
私の飾り角の素材に打って付けだな、是非とも頂こう。
「あ、ゆ、勇者さん?」
「なんだ」
「そのー……もしかしてなんですけど……竜人王君の顎下の鱗狙ってます?」
「ただの鱗だろ」
「全然違いますって! 竜人族の逆鱗は強さの象徴でもあって、大きさや色艶で」
「ふん」
やはり手に取って見ると、より素晴らしい素材なのが分かる。
是非とも私の飾り角として役立てよう。
しかしなんだ。
鱗男の捥ぎ取った個所の血が止まらないが、魔の者なら自然治癒ぐらいできるだろ。
「ちゅ、躊躇がなさすぎる!」
鱗一枚如きで五月蝿い奴だ。
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