第40話牛魔王の代償

 拳を食らい吹き飛んだ右腕は、くったりと横たわり、死んだっぽい。

 大変にめでたい事だ。

 盛大に祝杯ミルクでも飲むか!


「ぐすん……元魔王さん……私の為に死んでしまうなんて……」

「いたた……あ、生きてますよ?」

「ふぇ?」


 無駄に硬くてムカつく野郎だ。

 魔の者達はどうして思い通りにならんのだ。

 ストレスは溜まる一方だぞ。

 それもこれも右腕のせいだ。

 しかし私は魔王だ。


「良かった……本当に生きてて良かった……ぐすん……」

「元魔王なんで! どんな攻撃も耐えられます! キュピン!」


 後頭部はハゲてるけどな、現実を見やがれ。

 キザにポーズも決めてやがって、許さん。


「ふん!」

「あだ?!」


 貴様は四つん這い椅子がお似合いだ。

 座り心地はクソだが、小休憩には申し分ないな。

 

 それにしてもだ。

 角の件を後々、牛女に催促されるのは面倒だ。

 捥ぎ取った角は返却するか。


「牛女」

「ひゃ、ひゃい!」

「角は返してやる」

「い、いいんですか?」

「ただし、代償を求める」

「な、なんですか」


 タダで返すなんて、あり得ない話だろ?

 さて、代償は何がいいか……お、そうだ。

 牛女について気になる事があったんだ。


「牛女、代償として貴様についてる魔王を禁ずる」

「え。た、ただの牛って事ですか!?」

「だな」


 超越乳が乳牛そのものだろう。

 だから、牛女は今後こうなる。


「正確には乳牛ちちうしだ」

「家畜みたいで嫌です!」

「魔王の命を拒絶するのか?」

「めめめめ滅相もありません! 私は今より乳牛でございます!」


 ガクブルと涙目で納得したみたいだな。

 これで三階層は用済みだ。


「あ、あの勇者様? いつまでお座りに?」

「椅子が口を開くな」

「お、重た?! な、何したんですか!?」

「ただの重量倍化だ。さぁ、腰が砕けるまで重くしてやる」

「や、やる事が外道過ぎる!」


 外道で何が悪い。

 これがあるべき魔王の姿だぞ。

 空っぽな頭に刻み込みこんどけ。

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