第20話竜人族の逆鱗

 褒められるのも飽きたところで、近場の渓谷へと赴いた。


「えーさっき言った通り、渓谷をモチーフにした、竜人族の住処になります」

「ほぅ……」


 頭上で何頭か羽ばたいているな、なんだか生臭そうで気に食わない。

 雷の雨を降らせて、こんがりと焼き尽くすのもアリだな。


 まぁ、大空のように心豊かな私だ、全滅は止めておくぞ。


「あ、そうそう勇者様。竜人王君に会ったら、ちゃんと謝って下さいね」

「誰だそいつは」

「貴方の角の犠牲になった、あの竜人王君ですよ!」

「あぁ鱗男か」


 数時間も空いたんだ、存在感の薄い奴を忘れても致し方がない。


 そうだ、今の内に角スペアの鱗を、ここらで収集してもいいんじゃないか?

 見たところ、選り取り見取りな大トカゲが無駄に飛んでいるからな。


 よし、一狩り行くか。


「右腕。落ちる連中の対処は任せた」

「え? 何のことですか?」

「今から逆鱗狩りをする」

「ダメダメダメ!? 勇者様は竜人に恨みでもあるんですか!?」

「ない。せい」


 脚力強化で驚異のジャンプ力を発動。

 右腕が一気に豆粒サイズになったな。


 お? お手軽な大トカゲが目の前に来やがったな。

 群青色の綺麗な逆鱗だな……採用だな。


「そこのお前、いい逆鱗だな」

「な、なんだアンタは?!」

「魔王だ。ふん!」

「あぎゃあああ!?」


 まず一枚、やはり私の眼に狂いはなかったな。

 次は黄金色に輝く、あの個体にするか。


 成果としては七色の逆鱗を手に入れ、ホクホクな気持ちで地上へと帰還した。


「満足した」

「ちょっと勇者様! こっちの身にもなって下さい! 応急処置も大変なんですから!」

「労えと? おこがましい」

「この人は人じゃない!」


 口より手を動かした方が、貴様の為でもあるんだぞ。

 悠長な時間の浪費は、私には苦痛でしかないのだからな。


 が、貴様の剥げてしまった後頭部に免じて、少々手を貸してやってもいい。

 丁度、翡翠色の大トカゲが伸びているから、コイツにするか。


「感謝しろ」

「ん? あ!? 公開処刑はダメですって!」


 パーフェクトヒールの力も知らないなんて、右腕は勉強不足だな。


 私が触れただけで止血も完璧、傷口も綺麗さっぱり、その他諸々の外傷や内傷も完治したぞ。

 我ながら惚れ惚れするな。


「はっ」

「ひ、翡翠竜人君? へ、平気かい?」

「心が清々しいー……はわぁー……」

「精神にまで影響したか」

「何しちゃってんの?! あ、翡翠竜人君! 勝手に飛んで行かないでぇええ!」


 さて、他の大トカゲ共もパーフェクトヒールを掛けてやるか。

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