第9話人狼の雄と雌
魔王城見学の移動をしているが、右腕が私の顔色を窺い、頻繁にコチラを見てきやがる。
こちとら苛立ちが煮え滾る寸前だぞ。
そんなんだから歩きが疎かになってるんだ。
貴様はあくまで私の右腕。
ストレフリーを提供する身だと自覚するべきだ。
なのに右腕は相反する行動ばかりだ。
腹が立ってしょうがない。
「おい、さっきからチラチラとなんだ」
「あの~……いつ頃行きますか?」
「何のことだ」
「あれですよ。人間に無害アピールする、あれ」
「もう済ませた」
「え」
コイツは知らないのも無理はない。
悠長に菓子作りに夢中だった時に済ませたのだからな。
私は一度訪れた場所でなら、空間移動できる力がある。
待ち惚け食らった持て余した時間を有効活用すべく、私は人間の王の下へ戻り、適当に無害アピールを済ませ魔王城へ戻ってきたんだ。
あとであとでと、後回しになれば、面倒になったのは目に見えていたしな。
「そ、それで反応は?」
「王共は顔面蒼白で頭を縦に振り、納得していた」
「えー……マジっすか」
「なんだ不服か?」
「い、いえ」
歯切れの悪い返事だ。
ギザギザな歯が邪魔になってるんじゃないか?
あとで矯正でもしてやるか。
それにしても、王や側近の者達はいつも私に怯えていたな。
歴代勇者の中で最強と呼ばれているからだろうか?
まぁ、今となっては魔の者達を統べる王になった私だ。
そんな些細なことを気にしていたらやっていけないな、ハハハ。
ともあれ、右腕が立ち止まったが、扉の先が喚き散らされているな。
「えーここは第一食堂になります」
「妙に騒がしいな」
「丁度、飯時なんで。さぁ、どうぞ」
ほぅほぅ……野性味溢れた野蛮な食堂だな。
数百体は余裕で座れる雑多席で、魔の者達がお祭り騒ぎだ。
これが食事風景だというなら、私は連中を正さなければならない。
「おいおいおい。見掛けねぇ顔だな?」
「挨拶も無しに素通りする訳じゃないだろうねぇ?」
人狼の雄雌か。
これが俗に言う新人狩りというやつだろうな。
先輩風を吹かせ、後輩をいびるド底辺な行動だ。
だが、相手が悪かった。
序列の優劣を見誤った獣どもには、現実を突きつけてやろう。
「なんか言ったらどキャヒィン!?」
「いだだだだ?! ひ、髭を引っ張らないでおくれぇぇえぇ!?」
「ん? ちょ、ちょっと勇者様?! 何やってんですか!?」
「無礼を正してるところだ。次は全毛刈りだ」
「やめてあげて!」
右腕の奴め、邪魔ばかりしおって。
人狼共はガクブルと縮こまって、少しは大人しくなったみたいだ。
もし他の者にも同じ過ちを犯せば、標本にしてやる。
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