第13話スライムの巣窟
ちゃんと右腕の定食を完食させた後、私達は第一食堂を後にした。
今の満腹な私に敵なしだな、ハハ。
「さぁ、行くとするか」
「吐きそう……」
そんなことよりも私は、糞オーガに触れられた部分を、隅々まで落とし去りたい気分なんだ。
こんな広々とした魔王城になら、風呂の一つや二つなければ可笑しい話だ。
ただ私には洗浄の力、リフレッシュという便利なものがある。
が、気の持ちようが違う。
上っ面だけを綺麗にしたのがリフレッシュだとすると、心身ともに美しく綺麗になるのが風呂だ。
つまり雲泥の差も同然。
だからこそ今は魔王城見学をすっぽかしてでも、風呂を断固として所望する。
「右腕、ここらで体を洗う場はあるか」
「そりゃありますよ。ほら、あの角の先です」
ほぅ、第一食堂と近場なら、食事の流れでそのまま風呂に入れるな。
ふふ、なんて素晴らしい場所にあるんだろうか。
今からとても楽しみだ!
右腕よりも先に行って、直接この目で確かめねば!
「あ、ちょ! 勇者様!? って速!?」
すぐに追いつくだろうし、このまま放置しても問題ないだろう。
私は止まらない高揚感のまま、角を曲がり、目をがん開きし刮目した。
「……ただの通路しかないではないか」
「お、おぇ……ちゃ、ちゃんと壁際を見て……うぷぅ……下さい」
脇腹か口を抑えるかの、どちらかにしろ。
しょうがなく右腕に案内を譲り、壁際を沿いながら数分。
不意に現れた階段を降った先にある、暗い道で立ち止まった。
「じゃーん! ここがスライムの巣です!」
「……スライムだと?」
スライム、魔の者の中では最弱ポジションだ。
私が初めて殺めた魔の者でもあるな。
適当に握り潰した感触は、今でも覚えてるぞ。
が、それがなんなんだ?
私の要望に応えられず、適当に魔王城見学を再開してるのなら、ボディーブローで強制的に反芻させてやる。
「ん? 行きますよ勇者様」
「奥からぬちゃぬちゃな音が聞こえるぞ。平気なのか?」
「スライムですんで我慢して下さいませ」
随分といけしゃあしゃあでいられるな。
口振りと態度からしても、相当自信があるみたいだ。
今はまだ頗る機嫌はいいが、もし結果的に私が粘液まみれになれば、コイツをスライムに改造してやる。
そうならないことを念頭に置いてなければ、右腕を嘲笑ってやろう。
それはそうと気掛かりな点があってな、聞かなければ気が済まない。
「右腕」
「何ですか?」
「スライムの巣は何故、こんな何もない壁沿いにあるんだ」
「あれ? 気付きませんでした? ここって第一食堂の厨房裏の向かいなんですよ」
言われて見れば、反対の壁沿いに妙な扉があったな。
「それでですね? 残飯処理をスライムに任せるのに、ここが最適だったんですよ」
「ほぅ、理にかなっているのか」
スライムは雑食だからな、ゴミ処理には適任だ。
右腕にしては頭が回るな、ただ点数は上りはせんがな。
「まぁ、スライムって魔の者でも、何言ってるか分かんないんですけどね」
「なに? 意思疎通が出来なければ、統率が取れないだろ」
「あーだこーだ言わない点では楽なんですけど、ご心配はいりません! さぁ、付いて来て下さい!」
部下をいい様に利用するゴミ屑だったか。
貴様も残飯と一緒にスライムに食われてしまえばいい。
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