第58話本物のサキュバスの行方

 立派な館が見えてきたが、圧倒的な色気を感じるな。


「って事で、ここから先は勇者様お一人で……」

「貴様の拒否権は今後もない」

「なぁー……」


 貴様なんぞ首根っこを掴んで強制連行だ。

 

 ほぉ、豪華絢爛な内装だな。

 魔王の広間よりもグレードが上なのが気に食わん。


「さっさと案内しろ」

「は、はい……で、では行きま」


『ようこそ……魔女のムラムラ館へ』


「……ん? エロい声が聞こえたぞ?」

「見られているんですよ……はぁ……」


 手足が一緒に出て滑稽だな。

 階層の主と何かしらあったのだろうな。

 移動の暇つぶしがてら、聞いておくか。


「サキュバスが実体を持つ幻影なら、本物はそもそも存在しないのか」

「いえいえ、ちゃんと実在してますよ」


 右腕のちゃらんぽらんな話曰く、サキュバスは魔王城外の場所で町を築いているとの事だ。


「それ相応の理由があるのか?」

「ま、まぁ……」


 とっくの昔に魔の者達を、シモの方で食べ尽くし、魔王城にいる意味がなくなったそうだ。

 で、自分達の町を築いた方が、効率良くねぇ? って話になり、魔王城外に町を築いたらしい。


 つまりヤレるだけやって、ポイ捨てされた魔王城という事だ。

 誠に哀れ。


「サキュバスにお世話になった魔の者達が不満を募らせて、連れ戻せと猛抗議してきたんです」

「その解決策でここが生まれた訳か」

「そうなります。尽力してくれた七階層のリーダーには、頭が上がらないんです」


 媚び諂う姿が容易に想像できるな。


「なるほどな……待て。貴様の妻がサキュバスクイーンなら、連れ戻すのも容易だっただろ」

「……妻に頼める度量があるなら、ここまで苦労してませんよ……」

「そんなもん知らん」

「ぐすん……勇者様に優しさはないんですか?」

「貴様にだけ無い」

「酷い!」


 貴様の自業自得に擁護する程、暇じゃないんだ。

 全くふざけた元魔王だ。

 本当に面倒くさい奴だ。

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