第25話新魔王の一目惚れ

 右腕の下へ戻ったはいいが、そこに広がった惨劇とも言える景色に、私は自然とモザイクを掛けた。


「液塗れだったな」

「視界が潰れる恐れがある、悍ましい光景ですね」


 モザイク処理の力が無ければ、右腕のア〇顔ダブルピースなるものを、直視する羽目になっていたぞ。

 未だにビクンビクンと、体が動いて気持ち悪いのなんの。

 何時まで経っても治まる気配がなさそうだな……よし。


 ここは私が直々にリフレッシュを掛けて、強制的に賢者タイムを終わらせてやる。

 ただ、直接触れなければならないのが、リフレッシュの唯一の汚点。


 つまり、私は液体塗れのモザイク野郎に、触れなければならないのだ。


 ありえんが、コイツが復活しなければ、先へ進めん。


「淫猥紳士、何か長い枝はないか?」

「枝より、こちらをどうぞ」


 グイングイン動きながら、微細な振動を持ち合わせるキノコだな。

 人間の世界でいう、大人の玩具と非常に酷似してるな、エロいぞ。


 とりあえず、この淫猥キノコで右腕に触れ、リフレッシュを掛けてやろう。

 ぬちゃぬちゃと聞くに堪えん音を消し、どうにか右腕を正常にする事が出来た。


「はっ。ワシは天界に行っていた気が……あ、勇者様」

「目覚めたな。トリップする程、快楽に溺れていたな」

「えへへ~」

「キモい」


 淫猥紳士に別れを告げ、寝床探しを再開した。


「キノコの森じゃ、寝床はありませんでしたか」

「まぁな」


 体内時計的には、そろそろ就寝時間だろうが、未だに満足いく寝床がない。


 そんな私の視界に、さっきまで気付かなかったものが映った。

 魔王城の本城に隠れてて分からなかったが、何やら小さな塔がポツリと建っていたのだ。


「おい。小さな塔が見えるが、アレはなんだ?」

「あー……もしもの時に建設していた、人間の姫を捕らえる塔ですね」

「姫を?」


 となると、姫用の寝床も存在しているということか。

 私にピッタリな場所ではないか!


「そうと分かれば、行くぞ」

「了解です!」


 足早に歩みを進め、小さな塔の最上部へとやってきた。

 右腕がいそいそと鍵を開けると、そこには素晴らしき光景が広がっていた。


「結局、一度も使わずじまいでしたけど、どうですか?」

「一目惚れだ……ここにするぞ!」


 豪華なクイーンベッドは勿論の事、収納たっぷりな衣類棚、寝っ転がれるふかふかな床、高い天井には美しき壁画。


 まさに魔王である私が住むべき、最高の寝床だ!


「お気に召されて何よりです! じゃ、今日はこれにて失礼します!」

「あぁ、ご苦労だった。明日も頼むぞ」

「はい!では!」


 寝床探しから解放されて、ウキウキで帰って行ったな。

 まぁ、今の私は頗る機嫌が良い……。

 そのぐらいは大目に見て、明日にでも蹴りを食らわせるか。

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