第35話
月明りの下、ジンナはケンの家を見つめていたらケンがヨタヨタと出てきた。
もう4日も何も食べていないのに嘔吐しようとしていた。
見ていられなくなりジンナはケンに駆け寄った。
ケンの家に入り、ベットの縁に座らせた。驚くほど軽かった。
「ケン!お願い。ちゃんと眠って。ごはんを食べて」
ジンナは涙を流しながら
「このままじゃ・・・ここままじゃ死んじゃう!」
ケンはうなだれていたが一度だけ顔をあげジンナを見て
「・・・うん」
と返事をした。
「ケン!?と、とにかくお水を飲んで」
ジンナはケンに水の入ったコップを渡そうとしたが
「・・・うん」
という返事だけで受け取らなかったので口にコップをつけて傾けたがほとんどをこぼしていた。
ジンナはどうしていいのかわからなくなった。
ただケンがいとおしくて抱きしめてベットに倒れこんだ。
「ケン、私ね」
ケンを胸に抱き寝転びながらジンナは話し出した。
ケンはたまに「・・・うん」と誰かに返事をしていた。
「ケン、私が昔・・・助けた人にね。人を殺す仕事をしている人がいたんだ」
ジンナは過去に街から担ぎ込まれた男の話しをした。
彼は通常なら助からないような致命傷を負っていた。
事故や災害ではなく、人間の手によって出来た傷であった。
ジンナの治療で一命を取り留めたその人物はジンナを見てもまったく動じずに
「また死ねなかったのか」
とだけ言った。
詳しく聞いた訳ではないが、その人物は人を殺す事を仕事としていた。
ずっと「そろそろ自分の番ではないのか?」と思っていると言っていた。
人を殺すのはどんな感じかをジンナは聞いた所
「一人目は顔を忘れた事は無い。二人目はまあこんなものかと思った。三人目から後はもう人数も覚えていない」
そんな事を言っていた。
その話しを聞いているのかわからない、胸に抱いたケンに聞かせた。
「だからね、ケン。もしね・・・」
ジンナはケンの顔を無理やりに自分の顔に向かせてから
「もしね、ケンが・・・私を殺して楽になれるのなら・・・殺して」
ジンナはケンのうつろな目をじっと見つめた。
ジンナの目から涙は止まらなかった。
「・・・うん」とまた曖昧な返事をしたのだった。
その後にケンは体を丸めて膝を抱えて小さく丸くなって震えた。
頭だけゆっくりとジンナの顔の方へ向け、目をじっと見つめた。
数秒見つめあった後に、小さな小さな声で
「・・・死にたい」
と言った。
ジンナはケンの顔をずっと見つめていた。
「・・・ねえケン。私の事・・・好き?」
「・・・うん」
ジンナは少し笑顔になった。そして続けた。
「じゃあ嫌い?」
「・・・うん」
わかっている、私の事を好きな人なんていない。でもケンを、大切なケンを苦しみから解放したい。
「・・・そう・・・死にたい?」
ジンナの涙は止まっていた。
「・・・うん」
「なら・・・私が殺してあげる。すぐに私も・・・」
ジンナは本気だった。
震えは手だけではなく、眼球までが震えていた。ケンの顔がぶれて見える。
ケンがいない人生はもう考えられなかった。
ジンナのミミズの腕がスルスルとケンの首に巻きついた。心臓の鼓動の強さや速さのせいか、ミミズの腕も大きく脈動している。
「ケン・・・大好きだよ・・・」
ゆっくりとミミズの腕が閉まっていく。
ケンはケフケフと弱弱しくむせだした。
「・・・うん・・・ジンナ」
「け、ケン?」
「俺も・・・ジンナが・・・好き」
ジンナはミミズの腕を解き、ケンを抱きしめて大声で泣いた。
ケンは静かに眠った。
ジンナはしばらくケンの寝顔を見守った。
ケンの唇にキスをしたかったが、今ここでするのは卑怯だと思い、額に口づけをして静かに離れた。
「ケン・・・また後でくるね。おやすみ」
ジンナは起こさないように慎重に静かにケンの家から出ていった。
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