第13話
日の出前に寝ていたケンは、エータに叩き起こされた。
アレックスは既に身支度を整え、宿のカウンターで紅茶を飲んでいた。
「お、おはよう・・・ございます」
ケンは寝ぼけていたのだが、アレックスを見て目が覚めた。
「・・・」
「ケン、朝食は馬車の中か、待ち時間に取ってくれ。日の出と共に馬車が出るとのことだ」
フードを深く被った、不審人物にしかみえないエータはそういって出ていった。
アレックスも荷物を背負いエータに続いた。
俺は「エータは不審者には見えないのかな?」などと思いながら薄暗い外に出た。
大きな街だったが、早朝ということもあり、人も少なく静かだった。
街外れの石造りの門の前に来た。木で出来た門は開いており、数人の兵士?衛兵?が門周辺に立っていた。
俺は「ここがどこで、今からどこに向かうのか」が気になりだした。
門の内側にある、前に見た木の看板、おそらく馬車乗り場の表示だろう、の前に並んだ。
並んだというのも、俺たちがここに来た時には既に二人並んでいた。
ケンと似たような茶色っぽい服に、茶色か黒かわからない髪とズボン。
年齢はケンと同じか少し上か?
うーん俺が言うのもなんだが、特徴が無く地味な二人だ。
二人とも大きなリュックを背負っている。
ケン達が後ろに並ぶと、二人は軽く会釈をした。
ケンも無言でペコリと頭を下げ挨拶を返したが、アレックスは無反応で遠くを見ていた。
「やあ、おはよう。もう馬車がくるころかね?」
エータはフランクに話しかけたが、俺はエータの服装の不信感や、ロボットとバレるのではないかとヒヤヒヤしていた。
二人は気にした様子もなく、少し背の大きなふくよかな方が
「おはようございます。そろそろ日の出だし、もう来るでしょう」
と丁寧に返事をしていた。
俺は馬車の中で、目的地や今後の予定を聞きたかったが、他人が気になり諦めることにした。
少ししたら空が明るくなって馬車が来た。
太陽が東から昇っているのなら、今から向かう道は北に向かっている?
そんな事を考えながら馬車に乗り込んだ。
馬車の中でもエータは気軽に二人に話しかけていた。
この二人は街に住んでいて、同じ商店で働いているが、北の農場が豊作で手が足りないから手伝いにいくようだった。ケンは「出稼ぎみたい」などと思っていたが、自称コミュ症なのでだんまりを決めていた。
アレックスはいつも通り目を閉じて置物になっていた。
「吸血鬼」の話しも出ていたが、ケンは冷静を装い、アレックスを見ないようにしていた。恥ずかしくて直視できないのも理由だった。
前にも聞いた「豚人」の他に、「狼男」という新たなファンタジー要素がすこし気になった。
おそらく昼前くらいに二人は途中下車した。
再出発した馬車は貸し切りになり、俺は話しをするチャンスだと思ったが、
「旦那がた。昼メシはどうしますか?昼過ぎになるがメシを食える店がある街に寄れますぜ。味はまあ、聞かんでくだせえ」
というダミ声がかかり、エータは
「うむ、寄ってくれ」
と即答した。
「エータ、『急げば今日中につく』って言ってたのに?」
「ふむ、君とアレックスは食料を持っているな。何か忘れてはいないかね?」
「え?」
「御者にも食事が必要だ。馬も適度に休ませた方が効率はあがるだろう」
「あ・・・」
俺は浅はかな自分の発言に下を向いた。
エータは無機質だ、感情がない、と思っていたが、ちゃんと計算しているのか、的確だった。
「俺は・・・俺はただのバカだ・・・」
ケンは下を向き黙り込んで座っていた。
アレックスがケンの後頭部にそっと触れ
「・・・今から学べばよい・・・」
「そうだぞケン。未知を既知とするのは生存術だ」
アレックスとエータに慰められて、俺は余計に情けない気分になった。
馬車は順調に進み、草原と畑の中の小さな街の屋台のような店であんがい固くなく上手いパンとスープで昼食を済ませ、終点で降りた。
「「ここからは歩きだ」」
アレックスとエータがハモり気味に言ったのが面白かったが、俺は絶望して笑えなかった。
馬車の終点はさっきの昼食を食べた村のような小さな街より大きく、街の外周は木の柵がぐるっとあった。
二階建ての石造りの家か何かわからない建物もあり、子供たちが路地を走って遊んでいた。
ケンはこっちを見ている男の子に手をふり現実逃避をしていた。
「あー俺もあの子供たちみたいに無邪気に走り回って遊びたいなー」
ケンが手をふった子供はじっとケンを見ていたが、子供ならではの高い声で
「キャー!」
と悲鳴を上げて走り去っていた。
ケンは愕然として固まっていたが、
「さて挨拶は済んだかね?出発するぞ」
エータはケンの方も見ずに歩き出した。アレックスは既に離れた場所を歩いていた。
「あ、ああ・・・」
ケンも上の空で返事をしてトボトボ歩き出した。
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