第14話

「はあはあ・・・」

ケンの荒い息遣いだけが響く森の道を歩いていた。

その部分だけ草が薄いだけなのか、数人が歩いたからなのか、見失いそうな道だった。

鬱蒼と茂った森の中で、ケンは置いていかれないように必死だった。

「す、少し休みませんか先輩・・・」

俺は何故か「先輩」と口走っていた。

前を歩く二人がピタっと止まった。

俺はドキっとして心臓がとまりそうだった。

また・・・また、あの惨劇がはじまるのかと思うと、まだ太陽は高いのに目の前が真っ暗になったような気がした。

「・・・おい!」

アレックスが重低音で吠えた。

短い言葉だが、咆哮だった。

俺はその声で「ヒッ」っと飛び上がって声を出した。

「戦闘が希望でしたら、やぶさかではありません。出てきたまえ」

エータはフードを外し、三つの目をくるくるさせていた。

木の影から、毛むくじゃらの三角耳が見えた。

影から出て、両手を頭の上に組んだケモミミの少女?が出てきた。

「見つかっちゃった」

アレックスとエータの前に来て舌を出して笑っている。

か、かわいい!なんだこれ?犬みたい?

しっぽは見えないが、緑のシャツと茶色い、だぼっとしたズボンをはいている。

そして、そして明るい茶色と、ところどころ白い毛が顔から頭から腕も生えていた。

身長は130センチくらいか?エータより小さかった。

アレックスはケモミミ少女の手首をつかみ持ち上げた。

少女の足は地面から離れ

「い、痛いよ!」

「・・・もう片方の手の中も見せろ」

アレックスの目は赤く光っている。

「なんにも持ってないよ!ああ、痛い痛い、お願い離して!」

アレックスの爪がケモ少女の手首に食い込み、赤い雫が垂れた。

「お、おいアレックス!離してやれよ!」

俺は見ていられなくなって、アレックスの手をつかみ・・・動かなかった。ピクリとも動かなかった。

エータは少女の体を片手でまさぐり、何かをつかみケンの前に見せた。

それはちいさなナイフだった。

「ケン。学習の時間だ。これはなにかわかるかね?」

ケンの目の前5センチ程にエータはナイフを突きつけた。

「え、エータ。それはナイフだろ?で、でもナイフなんてこんな山の中にいたら持っててもおかしくないだろう?」

俺は鈍く光るナイフを見て、冷静に答えたつもりだったが、顔の横を汗が流れたのがわかった。

「うう・・・」

少女は手首をつかまれて暴れていたが、おとなしくなり泣き出してしまった。

アレックスは赤く光る目で少女を見ている。

「ふむ、ナイフを持っていてもおかしくはないか。まあ及第点だが、少女がこんな森を一人でいるのは不信に思わないのかね?」

「え・・・でも、それは・・・」

俺は言い淀んでいた。少女の見た目に惑わされるなと言いたいのか?

「と、とにかく!アレックス、もう離してあげないか?ナイフはエータが持っていればいいだろう?」

アレックスはケンの顔をじっと見た。そして手をパッと開き、少女を離した。

少女は憔悴しているようで、手を離されても立っていられずにドサリと地面に倒れた。

ケンは慌てて少女に近寄ったが、どうしていいのかわからず、とりあえず仰向けに寝かせた。

アレックスはケンを見たまま、自分の手についた少女の血をペロリとなめた。

「獣人よ。ケンに感謝せよ。吾輩やアレクシウスに敵意を向け、生き残れたことを」

「・・・え?敵意?」

上半身を起こしたケモミミ少女の耳は前にペタリと垂れていた

「・・・ごめんなさい」

俺はかわいい声で謝ったこの少女の頭を無意識に撫でていた。


「お、俺も疲れていたし、少し休憩にしよう・・・しませんか・・・してくださいお願いします」

俺は本当に疲れていてヘトヘトだった。

馬車を降りてから2時間くらい小走りだったと思う。

まだ日が沈むまで時間はありそうだし、休憩したかったのは本当だ。

ケモミミ少女に興味があったのも事実です!言い訳はいたしません!

土下座する勢いでアレックスとエータに懇願し、少し休んでいくことになった。

俺は木の根本の幹を背もたれに座り込んだ。

水筒をアレックスから受け取り、水を一口飲んで

「はあーーーー」

と大きく溜息をついた。

隣にケモミミ少女がちょこんと座った。

しぐさもなにもかもが愛嬌に満ちていた。

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」

隣に座った少女はペコリと頭をさげた。俺はまた頭を撫でてモフモフを楽しみながら

「俺はケン。君の名前を聞いてもいいかな?」

「あたしはリュナ。この森に住んでるの」

「そうなんだリュナ。よろしくね」

近くで見ると犬よりも鼻の部分、マズルっていったかな?が短くて正面から見たらクマのような印象を受けたが、目がクリっとしていてかわいかった。

「ケンはなんで助けてくれたの?」

「な、なんでってリュナみたいな女の子が痛がるのを見てられないよ」

「そなんだ。ケンは優しいんだね」

「あ、俺の飲みかけだけど、水飲む?」

ケンは持っていた竹の水筒を差し出した。

「ありがと。でも・・・それだと飲めないかな」

「え・・・あ、俺が口付けちゃったからね」

俺はちょっと、というかかなりショックを受けてうつむいた。

「ちがうの。あたしの口じゃ・・・ケンの手でお水ためられる?」

「え、ええ?」

俺の目をじっと見つめるリュナに俺がドギマギしていると、リュナは俺の手を取り、手の平をお椀に見立て

「ここに水を注いでくれる?」

俺は心臓が口から出るのかと思うほどドキドキしながら、無言で水を手の平に少し注いだ。

リュナは俺の手を両手で持ってペロペロと手の中の水を舐めて飲んでいた。

「あ、えーと、手の傷は大丈夫?」

「ありがとケン。あなたやっぱりすごく優しいのね」

「あ、うん」

俺は自分で顔が真っ赤になっているのが分かった。

女の子と会話したことも手をつないだこともないのに!

お、俺はロリコンじゃないはずだ!どちらかと言えば熟女の方が好みだったはずだ!

でも!俺ははじめて「この世界に来てよかった」と思った。


その後も俺とリュナは話しを続けていた。

アレックスは焚火を作っているようで、木を集めたり石を積んだりしていた。

エータは「少しこの周りの地形が見たい」と言ってどこかへいってしまった。


「あたし、あの人たち怖い」

「ああ、あの二人はちょっとね」

俺も怖いのです。でもそんなことは言えませんからお茶を濁しておく。

リュナはケンの顔をじっと見て

「ケンにもひどい事するの?」

ケンはドキッとしながら

「そんなこと・・・」

そんなことないと言い切れなかった。

「お友達なのにひどい事するなんて!」

「い、いやリュナ、そんなに怒らないで大丈夫だよ。ちょっと感覚が違うんだ」

「だって!だって!あたしの大好きなケンにひどい事するなんて許せない!!」

あのリュナさん、今なんて言ったんですか?後100回くらい言ってください。

俺は自分の顔が燃えてるのかと思うくらい暑かった。

「りゅ、リュナ、い、今大好きって言ったの?」

相手は子供だと俺は自分に10回ほど言い聞かせて聞いた。

「うん。やさしいケン大好き!」

そういって抱きついてきた。

俺もリュナを抱きしめた。すこし獣の臭いがしたが、かわいくて気にならなかった。

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