第12話

馬車は日が沈むと同時に街に入り、ケン達は馬車を降りた。

街の門の前から見える景色は、石垣と堀と跳ね橋があり、石畳は街頭が定期的に並び、レンガや石を積み上げた建物の多い大きな街のようだった。

現代の日本からはかけ離れたきらびやかな景色だったが、ケンは気分が沈み、下を向いて前を行く二人にだまってついていった。

宿に入り、部屋につくとケンはベットにもぐりこみ動かなくなった。


アレックスとエータは部屋から出ていき、宿と併設の酒場で食事を取ることにした。

「エータよ、ケンはなんだ?恐怖か?」

「心理的なショック状態だと思うが、吾輩には理解不能だ」

「・・・そうか」

「アレクシウス。君の方が理解できるのではないかね?」

「・・・」


アレックスはケンの部屋を訪れ

「食事を置いておく」

それだけを言い出ていった。


ケンは、盗賊が死んだ瞬間、ブルっと震えてドサりと人形のように落ちた映像が頭の中をグルグルと回っていた。エータの「非効率だ」というセリフと共に。

「エータは確かにすごい。判断も間違っていない。でも、でもどうしてあんなに冷たいんだ?人の命も計算できるものなのか?ただの数でしかないのか・・・」

眠れぬ夜は深けていく・・・



翌朝もケンは起きてこなかった。

アレックスは朝食を持ってケンの部屋を訪れた。

ケンは昨晩の食事に手をつけてなかった。

「・・・」

アレックスはケンのベットの横に立った。ケンも気配を感じて身構えたが、抵抗しても無駄だと思いじっとしていた。

アレックスはケンにかかっている毛布をバサっとはぎ取った。

ケンは「ああ、いよいよ俺の番が来たのか」と静かに目を閉じた。

ケンは肩をつかまれ、引きずられるようにベットの脇に立たされた。

フワっとした感覚がケンを包んだ。

「いたくない、あ、あれ?」

ケンは静かに目を開けるとアレックスが両手でケンを抱きしめていた。

「ちょ、ちょっと、ちょっと。あ、あ、アレックス何してるんだ?」

「昨日は眠れたか?」

「は?え、あんまり・・・」

ケンの頭の横にアレックスの頭が反対向きにあるので表情はわからない。

ケンの後頭部にアレックスは手を回し

「今日はゆっくり休むがよい。食事も食べたかったら取るがよい」

「え・・・」

俺は涙が押さえられなかった。抱きしめられた安心感か、温かさか、胸の中から出てくる熱いものを押さえられなかった。

アレックスに抱きついて慟哭した。

アレックスは俺を優しくベットに寝かせ

「必要な物を買いに行く。また昼食を持ってくる」

と言い、部屋からでていった。

俺は、心臓がドキドキしていたが、気持ちが不思議と落ち着いていた。

アレックスのあの行動は・・・俺を心配して?

前から時々感じていたが、アレックスは俺に気を使っているのは確かだ。

信頼してもいいのか?

エータは・・・やっぱり感情はないと思う。あまり信用してはいけないと思った。

アレックスには心があるように感じた。

そんな事を考えていたら眠っていた。


ケンが起きたら夜だった。

ベット脇の机の上にはアレックスが持ってきてくれた食事が置いてあった。

さすがに空腹を感じたので、顔を洗ってから食事をもらおうと思い部屋を出た。

この宿に来た時の記憶も曖昧で、部屋から出ていないから宿の主人に手洗い場を聞いてみようと思い、受付を探して階段を降りた。

階段から受付が見え、その先のあけ放った扉から喧噪が聞こえてくる。

どうやら酒場みたいだった。

フードを深く被った不審者に見えるエータと向かいに座るアレックスを見つけてしまった。

俺はアレックスに会うのに気まずさや恥ずかしさを感じていたが、エータが迎えに来た。

「おはようケン。ちょうど向こうで食事を始めるところだ。ケンの分も追加しよう」

そういって丸いテーブルのアレックスの向かいに座らされた。

俺はなんでそんな状態かわからないけど、恥ずかしくてアレックスの顔をまともに見れなかった。でも気になって上目使いでチラチラと見てしまった。

アレックスは目を閉じてワインを飲んでいた。いつも通りだった。

「ケン、君の体温が上昇している。顔の赤みは感冒の初期症状だと思われるが、頭痛やだるさはあるか?」

エータのつっこみ?で俺は自分の顔が熱いことを自覚して、余計に恥ずかしくなってしまった。もう情けない姿をアレックスに見せたくない!

「・・・食事を取っていないからだろう。食べて休め」

アレックスはすっと手を上げて店員を呼び、注文をした。

前からイケメンだとは思っていたけど、動きが洗礼されていて美しいと思って見とれてしまった。

「ふむ、なるほど。ケン。君はアレクシウスに好意を抱いているのだな。恋をした人間の挙動と一致する」

「ば、ばかエータ何言ってるんだお前このやろう」

アレックスが注文を終えて、ボーイさんが忙しそうに走って行き、すぐにグラスを持って俺の手に渡した。

あ、これなんか既視感。

「・・・飲め」

アレックスがボトルを持って、俺を、俺の目を見つめていた。

数秒見つめあってから、ワインを注いた。

俺はドキドキしてアレックスから目が話せなかったが、アレックスは目を閉じてしまった。


ここのワインは前に飲んだワインほどはおいしくなかった。

アレックスはあの後もずっと目を閉じており会話もなかった。

エータが「明日の日の出前に出発すれば、日の入りまでに目的地につく距離だ。今日は早めに休んだ方がいいだろう」

といって各々部屋に戻り就寝した。

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