第11話

簡単な準備を済ませて、俺たちは「何か」を探す旅に出る事になった。

その「何か」は俺の理解できるものだとPC、エータに接続して操作できるコンピューター。

後はエータの地図作り?エータがその目で見た物と過去の地図が合致すれば過去の文明の遺物を探すのが各段に楽になるらしい。言いたい事はわかるけど、半信半疑。

それと地底人。物理的に金属を加工する地底人・・・

そ、それってドワーフじゃないですか!

前にエルフの青年を見てから、新しい異世界要素キタコレ!

神様、可能ならエルフの女性にあ、あわ、あわせてください!!


と、とりあえずエータは外見がロボットで、現地人に見られると衛兵やら兵士やらを呼んでしまう可能性大との事なので、ベットのシーツをローブっぽくしてかぶせて移動する事になった。

街についたらエータをうまく隠せるようなちゃんとした衣装?衣服?を買うまでは、子供のお化けごっこスタイルで移動することになった。


「ケン、君は馬に乗れるか?」

エータの家を出て5分程度でエータがそう問いかけてきた。

「え?乗ったことないよ馬なんて」

「そうか、君がいた世界では騎乗動物は存在していないのか?」

「いや、そういうワケじゃないけど、乗馬ってお金持ちの人たちの趣味みたいな?庶民は動物園で子供の頃に記念撮影でまたがったくらいじゃないかな」

「ふむ、では長距離走、持久走は得意か?」

「は?え、まあ体力はあると思うけど、学生時代のマラソンとかは嫌いでした・・・」

「では選びたまえ。これから馬に乗る訓練をするか、持久力を上げる訓練をするか」

「あ、あの先生。じゃなかったエータ。その二択しかないの?」

エータは白いシーツの3つの目の部分だけをくりぬいた顔でこちらを見た。

見た目と話している内容の差が酷く、ケンはエータの話しがコミカルに思えたが内容は厳しかった。

「この移動速度を基準に考えると・・・遺物の探索、地底人の鍛冶、移動時間・・・それらを加味するとおおよそ20年程度の時間が必要な計算だ。途中で馬車の利用なども考慮・・・」

エータは何かを説明していたが、俺は20年とか、年単位の時間計算を聞かされてやっぱり逃げたくなってきた。

「・・・俺が教える」

突然何を言い出すんですか旦那様?

「・・・馬もある。ケン、お前一人が馬に乗ればよい」

「それってつまり、アレックスが馬の乗り方を教えるから、俺に馬に乗れと?」

「・・・」

「ふむ、では『屋敷』に向かえばよいのだな?」

「・・・ああ。・・・ケンよ」

「は、はい!」

アレックスは立ち止まり、まっすぐにケンを見た。

ここ数日、ケンはアレックスの姿をほとんど見ずにエータと会話ばかりしていた。

久しぶりに見たアレックスは、何故か普通の人に見えた。怖くなかった。

「母に会わせる。・・・侮辱したら・・・殺す」

「ヒッ」

嘘つきました。怖いです。心臓がバクバクしてます。またおしっこもれそう。目が赤く光ってました。

エータがフォローするように話し始めた。

「アレクシウスの母は見た目は人間ではない。会話する器官も有しておらず、一般的な人間が何の情報も持たずに見れば予期せぬ行動を起こす。君には既に『アレクシウスの母』という情報を与えたから大丈夫だろう」

ちょっとエータさんそれフォローなの?本人を前に言っていい内容?

アレックスは無表情だから大丈夫かな?

「目指す場所は決まった。行こう」

シーツにくるまれたオバケはヒラヒラと先頭へ移動し、音もなく歩き出した。


「はあはあ、なああんたたちに疲労ってないの?来た時のアレックスはもしかして気を使ってゆっくり歩いてたとかなのか」

俺はフラフラしながら、最後に馬車を降りた看板の前にたどり着いた。

行きは体感2時間くらいだったけど、今は1時間かかってないような気がした。

エータが馬とか持久力とか言っていた意味がわかってきた。

そしてアレックスが気を使って歩いていたんだろうと薄々わかった。

「馬車が来るまで休んでおくとよい。ここで吾輩の服を買うのは無理であるな。次の街で宿を取り、今夜はそこで休息するかね?」

俺は馬車乗り場の後ろにある木の柵にもたれかかっていたが、地面にへたり込んでしまった。

アレックスは俺に竹でできたと思われる水筒を差し出した。

俺は喉がカラカラで黙って受け取り水を飲んだ。

「ありがとうアレックス」

俺は水筒の水半分を飲んでアレックスに返そうと思ったが、アレックスとエータは街道の先を見ている。俺も立ち上がって見たが、見通しはそこそこ良い土の道と、広々とした草原と畑の景色しかみえなかった。

「どうするねアレクシウス」

「・・・4・・・か?」

「いや5だ。左右に分かれるかね?」

俺には見えないなにかの話しをしているが、嫌な予感がする・・・

「・・・俺が行く。ケンを頼む」

そういってアレックスは街道の真ん中を堂々と歩いて行った。

「ケン、戦いの心得は?」

目の前のシーツオバケは3つの目をバラバラに動かしながら問いかけてきた。

「ひ、人を殴ったこともないよ・・・」

俺はまだ何も起きていない、誰もいないのにビビりまくって小さな声しかでなかった。

30メートル程街道を歩いたアレックスを目で追っていると、街道の草むらから這い出るように、黒い服の人が湧いて出てきた。顔も黒い布で覆っている。

俺は現実逃避をしたくなり、エータに

「布をかぶるのが流行ってるのか?」

と聞いてみた。その間にアレックスは黒いヤツら4人に取り囲まれた。

エータはケンの顔も見ずに

「君がいた世界には強盗や盗賊はいないのかね?どんな世界にもいるはずなのだが」

エータが言い終わる前に盗賊だか強盗だかわからないヤツらはアレックスに

「おー!これはこれは金持ちそうな旦・・・」

と話しの途中でバタバタと全員道に寝てしまった。

俺はアレックスを凝視していた。まばたきもせずにじっと見ていた。

すこしかがんだと思ったら正面の黒服の背後に回り込み、片手で首をつかむと一瞬でひねった。ほんの一瞬の出来事だったが、俺の目にはゆっくりとした映画のワンシーンのように映った。

アレックスは何事もなかったかのようにこちらへ向かって歩きていた。


「ケン。2歩前へ」

「ん?え?」

ケンはエータに手を引かれ前につんのめった。

エータは強く地面を踏んだような動作をした。

「ぐあああひぃいい!ま、待ってくれ」

後ろで叫び声が聞こえた。

ケンは転びそうな体制を整え振り返った。

手にカマを持った黒服が、が?

地面に大の字になった黒服の太もも辺りにエータの足がある。すこし離れた所にちぎれた足が血を吹いて転がっていた。

俺は呼吸が出来なかった。呼吸をしていないのに、濃い血の臭いがする。

「ひぃひぃ、ま、ま、ひぃひぃ、ま、まて。殺さないで・・・」

黒服の男は痛みと恐怖で泣きながら、アレックスに髪の毛をつかんで立ち上がれない体で立たされていた。

ちぎれた足から血がドバドバと流れでている。

アレックスは正面から黒服の首に噛みついていた。

わーわーわめいていた黒服は静かになった。ブルっと一度震えて動かなくなった。

「ケン。所持品を少し拝借しよう。吾輩にあうサイズの衣装ならよいが、手を貸してくれるか?」

エータはケンの方に顔を向け話しかけた。

ケンはひざまづいて吐いた。

エルフの青年の生首を見た時も衝撃だった。

目の前でさっきまで動いていた人が・・・死んだ?

怖くて体の震えが止まらなかった。寒い。

ケンは泣いた。子供のように声を出し、もう帰りたいと考えていた。

異世界転生で「俺つええ」とか憧れていたけど、人が、さっきまで動いて話していた人が死ぬ瞬間を見てしまったら、もう無理だった。

アレックスはケンのそばにしゃがみこんだ。

「休め」

それが最後の記憶だった。


「うわっ」

俺は大声を出して飛び起きた。馬車の中だった。シーツにくるまれて床に寝かされている。

「なんかーありましたーかい?旦那ーがたー。コウモリでもーはいりやしたかー?」

馬車の前から間延びした声が聞こえた。

「大丈夫だ。心配ない。進んでくれたまえ」

「はいよー」

馬車はまた加速したようだった。

アレックスは座って目を閉じている。

エータは茶色いフード付きのマントに包まれていた。中は盗賊の黒服っぽかった。

「気が付いたかねケン。君のマントも買ってある。渡しておこう」

「・・・」

ケンは返事をする気力もなかった。

アレックスもエータも人が死ぬ事や殺す事をなんとも思っていないようだった。

何年も生きて命も狙われることもあっただろうからだろうか。

そんな事を考えて寒気を覚えエータに渡されたマントに体を包んだ。

ケンはいつか自分もあんな風にコイツらに殺されるのかと怖くてたまらなかった。

カマキリが、まだ足を動かしているバッタを、頭から食べるのを子供の頃に見た。

自分がそのバッタになった気がした。

なんの感情も無く人を殺す。まるでロボットのようなアレックスと本物のロボット。

抵抗も命乞いもなんの意味もない。淡々とした作業。

「え、エータ・・・さ・・・ん」

「なんだケン。敬称など無意味な物は必要ないぞ」

「と、盗賊は・・・最後の一人は・・・殺さなくてもよかったんじゃ?」

「生かしておく理由がないな。非効率だ」

「そ、そう・・・」

ケンは馬車の天井を見上げた。夕方みたいで幌が赤く見えた。

「盗賊を排除するのは、人民の命を守り、街道の往来を保護する善行ではないのかね?」

ケンは無言で顔を横に向け目だけでエータを見た。

「君は盗賊の生存を許可したとして、馬車が来れない状況になったら、吾輩たちと同じ速度で移動しなければならないが、可能かね?」

「そう・・・だね」

馬車の中は静かになり、ゴロゴロと回る車輪の音とひづめの音がリズミカルに響いていた。

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