第38話

エータはジンナと共にアレックスの診断をもう少し詳しくすると言った。

俺はジンナの食事を運ぶからとジンナの家を出てヒロミスの家を往復した。

何か恥ずかしくてジンナの顔を見れなかった。

食事をテーブルに置いてジンナに向かい

「ま、また明日の朝ね」

と言って家に帰って来てしまった。

一人になると少し不安だったけど、エータが戻ってきて安心したのかよく眠れた。

そして翌朝寝坊して、朝日が眩しかった。

「おはようケン」

俺はジンナの食事を運ばないとと思い慌てて起きたがエータが

「ジンナの食事なら吾輩が運搬しておいた。君の食事もできている。落ち着いたら食べたまえ」

となにか優雅な振る舞いのように手を広げていた。

「ぷっ、エータその動きは何?」

「動作を入れた方が人間らしい挙動と試したのだがね。君には不評だったかね」

俺は面白くなって笑いながら

「ははは、え、エータ。面白いからいいよ!高評価!」

と親指を立てて見せたら

「爆撃開始のサインかね」

そう言われて黙って食事をした。


昼前には長老宅に行く事にして、少し散らかった室内を掃除することにした。

何日も何もしていなかったのに室内は汚かった。玄関の横に立てかけてある槍を見た。

「ケン。もう君は無理に武器を持つ必要はない。今後の危険の排除は吾輩とアレクシウスにまかせたまえ」

エータは槍を見つめる俺にそう声をかけた。

「・・・あの時、槍を拾った時・・・」

俺は槍を手に取った。血はついておらず、先端はキレイに磨かれていた。

「・・・アレックスが倒れた時、俺は・・・覚悟していたつもりだった」

俺は俯いた。エータは黙っていた。

「ごめんエータ。中途半端で。でも、でも俺は・・・変わりたかったんだ」

俺は槍を両手で握りしめてエータに振り返り

「でも、もう大丈夫・・・だと思う。だから・・・」

「君の意志を尊重しよう。我々は『仲間』だからな」

「ああ・・・ありがとう」

俺の頬を涙が一滴伝ったが笑顔になれた。



その後、家を出て長老宅に向かった。

途中で見かけたりすれ違う数人の村人が、ケンに向かって深く頭を下げていた。

俺は一応会釈を返したが、自分のしたことを思うと、あまりいい気分ではなかった。

長老の家が見えた時に、家のドアが開き数人の人が出てきた。

「ほう、我々の接近に気付いたようだな」

エータは何かに関心したようにつぶやいた。

俺はビビって身構えたが

「ケン!」

と叫んで手を振っている人影に見覚えがあった。柵の修理を共にしたユリであった。

長老宅に入り、ユリに席に座らされた。

そしてユリと、俺が・・・助けた人と子供とおそらく父親が座った俺に跪いた。

「我が弟の妻と子を救ってくれたこと。感謝する」

ユリは俺の靴に額をつける勢いだった。

俺は慌てて立ち上がり

「ちょ、皆さん頭を上げてください!」

ユリを起こしながら大声でいった。

「ケン様。あなたには感謝しきれぬ恩義があります」

そんな事を言いながらユリの弟と奥さんも頭を下げていたが

「皆頭を上げよ。恩人はその行為を望んではいませんぞ」

穏やかにいう長老ガイウスの発言でようやく頭を上げて立ち上がってくれた。

俺はほっとしながらも、少しだけだけど「間違ったことはしていなかったんだ」と思う事ができた。


それから皆で食事をすることになった。

俺は椅子に座っていろといわれて、隣にちょこんと座っている子供と皆が準備する様子をみていた。

あの時は必死でわからなかったが、この子供には唇の代わりにクチバシがあった。それ以外は人間と同じように見えた。たまにケンの方を見て笑っているような表情をした。

周りの大人達もフードや顔の布を外し椅子に座り食事をした。

ユリもその弟も奥さんも皆黄色っぽいクチバシがついていたが、ケンはもう驚かなかった。


あの日は、子供が夜泣きをして眠ってくれず、外に出たがったのですこし散歩にでたらしい。

ユリの弟は眠っていたらしく、子供の大きな鳴き声を感じて向かった所でケンと妻子を発見して村人を集めて助けを呼んだとの事だった。

ケンが殺した人は「野人」と言われる小人で、稀にこの地域に来て人や家畜を襲って食べる駆除対象だと言っていた。

彼らは気配を消すのは上手だが、ユリには見つけられる。

「しかし、ケンが倒してくれなければこの子もここにはいれなかった」

子供の頭を撫でながらそういわれて悪い気はしなかったが、あまり喜べもしなかった。

エータと長老はずっと黙って話しを聞いていたが

「長老、そろそろケンは訓練の時間だ」

「む、そうなのですな。では今日はこの辺りで解散としましょう」

そういって皆に見送られながら族長の家を出た。

俺は家を出てしばらくしてエータが気を使って連れ出してくれたことに気付き

「・・・エータ。ありがとう」

とお礼をいった。

が、エータは

「君はたしかに居心地が悪そうであったな。それに」

エータは立ち止まり俺に振り向き

「訓練をするのは事実だ。君は『変わりたい』のであろう?」

俺はなにか無性に嫌な予感がしてきた。

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