第37話

翌日、俺は昼過ぎに起きた。

なんだか長い間悪い夢を見ていた気がする。

みんなに心配かけてしまったな・・・

俺の中にある「人殺し」は消えない。

それでも・・・前に進まなきゃ・・・と思う。


俺は起き上がり井戸で水浴びをしてから長老の所に行こうと考えて家を出た。

井戸に行き、桶に水をためて覗き込んだ。

水に映る自分の顔を見て

「・・・誰だこれ・・・ずいぶん痩せたな」

「ケン!?起きたのかい?」

ヒロミスが陽気な声で話しかけてきた。

「ヒロミス・・・どうしてここに?」

「そりゃアンタのメシの準備さ。アンタが寝てる間に収穫も進んだよ」

その後もたわいもない会話をしていたら

「長老の家にいくのかね?あの『エータ』ってのも帰ってきてるよ」

「・・・え?」

俺は驚いて固まってしまった。

「なんか長老と話してたけど、長老からは『ケン殿には言わないように』って言われててね。もう起きたならいいだろ!」

そういって俺の背中を叩いて

「ほれ、いってきな!」

と言った。俺は少し戸惑ったが、長老の家に向かった。


長老の家のドアの前に行きノックをしようとしたらドアがあいた。

「やあ、ケン。少し痩せたかね?」

「え、エータ・・・」

俺は人目も憚らず、エータに抱きつき泣いてしまった。

「ケン殿・・・とにかく部屋に入ってかけてください。エータ殿も」

長老ガイウスに肩を抱かれ、俺は椅子に座らせてもらった。



長老の家で、エータの帰還と長老の話しを聞いた。

エータは3日程前に戻ってきていたようだった。

そこで長老にエータ不在の間に起きた事件や、今のケンの状態を聞いたらエータは

「吾輩は今のケンに会わないほうがいい。それと長老、ケンに事件の話しは今後一切しないように」

と言われて、その通りにしてきたとのことだった。

俺は「何故?」と思ったが、エータが帰ってきてくれてほっとしていた。

「で、でもなんでエータは戻ってきたのに・・・俺のところに来てくれなかったんだ?」

エータは長老を見てから俺の顔を見て

「ふむ。君なら理解できるかもしれないな。吾輩には戦時PTSD症状の対処方法が記録されている。これも不完全なのだがね」

「それって戦争のショックとかで・・・」

俺は天井を見上げた。曖昧な記憶だったが、何かで見た事を少しだけ思い出した。

「さすがだケン。吾輩は感情を持っていないからな。そのような行動は理解できん。それに・・・」

あれ?合理的なエータにしては何か歯切れの悪い言い方だな。

「それに何?」

「君は吾輩が『恐ろしい』のだろう?ならば余計に悪化させてしまう可能性があるのでね」

俺はまた涙を流した。

なんで・・・なんでこんな俺に・・・ロボットのエータまで優しいのかと。

「うう・・・ぐずっ。エータは恐ろしいよ。けど・・・けど、エータは友達じゃないか!仲間じゃないか!」

俺は立ち上がってエータにそういったが、エータは

「そうかね?まあ落ちつきたまえ」

そう言ってまた椅子に座らせてから、変わらない表情で

「ケン。君が元気そうで安心した」

そう言ったのでケンは「機械が安心?」と思い笑えてきた。

長老ガイウスは優しくほほえんで見守っていた。


エータと共に長老宅を出る際に長老ガイウスが

「ケン殿に助けられた者がお礼を言いたいと言っていたのですが・・・」

俺は一度エータの顔を見てから頭をかいて

「・・・はい。どうしたら?」

「そうですね。明日にでもここに来るように伝えますので、明日また来てもらえますか?お昼の食事をご一緒するのはどうですか?」

俺は食事をする自信がなかったが、エータが

「それでよいのではないかケン。吾輩も調理の手間が省ける」

と気をきかせたのかどうなのかわからない理由で決まってしまった。


その後エータと俺は家に戻ってエータと話しをした。

俺の事件のあらましは長老からほぼ聞いていて、これ以上の説明は不要と言ってくれた。

エータは過去に訪れた事のある地底人の居住地域に行ったらまだ存在していたことを確認していた。

地底人とエータの腕の修理について交渉をしたのだが、まとまらなかったようだ。

エータに交渉できないのに、何を思ったのかエータは

「アレクシウスの力も借りたいのだが、君の知恵が必要なのだよ、ケン」

エータに出来ない交渉が俺にできるわけないのに・・・

「あ、アレックスだけじゃなくて俺もなのか?」

俺はちょっと、というかかなりビビっていた。

「君の持っている知識は吾輩とは異なる。それに君の発想はなかなかいいではないか」

ちょっとなにが「いいではないか」かわからなかった。

だけど・・・エータが戻ってくれて、こうして前と同じように会話することに俺は癒されていた。

今後の予定について、屋敷に先にいくか地底人の居住区にいくか話している所に・・・ノックもなしにジンナが来た。来てしまったのだ。

「ケン。こんばんは!・・・あ・・・」

ジンナは元気よくドアを開けて笑顔で入ってきてエータに驚いて固まった。笑顔のまま。

「こんばんはジンナ。実に元気そうでなによりだ」

エータは何事もなく俺に向き直り

「屋敷で先に馬を手に入れた方が君の負担は少ないが、吾輩の運搬に慣れたほうが効率的だと思うがどうかね?」

と話しの続きをしていた。

俺は固まっているジンナとエータを見比べて黙り込んでしまったが、閃いた!

「じ、ジンナも起きたみたいだし、アレックスの様子を見に行かないか?」

「そうであるな。計画はアレックスも交えて決めるのが妥当であるな」

俺はほっとして立ち上がるエータについて外に出ようとした時に

「君たちはもう交尾はしたのかね?」

「ちょ、おま、バカエータ何言っているんだよお前マジ!」

俺は大声でそんなことを言ったが、ジンナは真っ赤になってフリーズしていた。


俯きっぱなしのジンナと共にアレックスの様子を見にきた。

相変わらずキレイな顔立ちで穏やかに眠っていた。

エータはアレックスの顔を覗き込んで

「処置から8日目か。順調に遺伝子は組み変わっているようだな」

そう言ってエータは俯いているジンナの前に立ち

「アレクシウスの治療に感謝をする」

そう言ったが、ジンナは俯いたまま

「か、からかうのは・・・やめてくれ!」

多分だけど先ほどの件にたいする文句を言っていた。

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