第6話

昼前くらいだろうか?

馬車はとまり、ちいさな街についた。

そこでまた固いパンと紅茶を出してくれる小さな店の軒先のベンチで昼食を済ませると、また違う馬車に乗った。

アレックスは馬車の中では置物のように静かに目を閉じていたが、一度だけ咳き込んだ。

「だ、大丈夫アレックス!」

俺は、この無敵の吸血鬼の中に、弱さみたいなものを感じてはじめていた。

咄嗟にアレックスの背をさすったが、パッと手を払ったアレックスはまた静かに目を閉じて動かなくなった。

昼食を食べたからか、馬車の揺れのせいか、俺もだんだんと眠くなってウトウトしていた。

どれくらいたったのかわからなかったが、馬車がガタガタと揺れ、俺は飛び起きた。

「て、敵襲?なんだ?俺またピンチ?」

軽口のような言葉が浮かんだが、俺の心臓は鼻の穴から出るんじゃないかと思えるほどドキドキとしてビビりまくっていた。

馬車の御者側の幌をめくってみたら、地面が石畳ではなく、土のデコボコ道に変わっていた。

「もうすぐでっせ」

馬車の御者は馬の手綱を巧みに操り、馬車をなるべく揺れないように操作しながら前を見たままそれだけを言った。

「あ、ああ」

俺は邪魔したら悪いと思い、幌を元に戻し、アレックスの隣に座った。

アレックスに声をかけようか、どうしようかと一人悩んでいたが、馬車は速度を落とし

「つきましたぜ旦那がた」

と御者が後ろの幌をさっと開けてくれた。

俺たちは馬車から降り、馬車の御者にお礼をいい(アレックスは言っていない!)馬車を見送って到着した村に入った。

村というには小さすぎて、家か何かわからない木造の建物が5,6件あるだけだった。

アレックスは荷物を担いで

「ここからは歩きだ」

それだけを言ってスタスタ歩き出した。

俺はずっと座っていたからか、体が痛かった。一度大きく伸びをして空を見上げた。

太陽は傾いていて、俺は自分の長い影を一度見てからアレックスについていった。




遠くには山岳が見えた。

夕日を受けて赤く染まっているが、山頂付近には雪が残っているのか白く見えた。

この世界の季節はわからないが、今いるここは半袖でも大丈夫な気温だ。

と言うより、アレックスの歩く速度についていくのに必死で少し汗をかいていた。

俺は普段、仕事中は立ちっぱなしで体力的にはそこそこ自信はあった。

草原の中の道のようになった所、草が無く、両脇にあったりなかったりの石が並んでいる平坦な土の上を歩いているだけなのにヘトヘトだった。

アレックスは疲れを知らないようで、スタスタと前を歩いている。

ちょっと休憩しようと声をかけるタイミングを体感1時間前からうかがっていたが、ビビりな俺は無言であるいていたが、さすがに限界!

「はあはあ、あ、アレックス。少し休・・・」

「あそこだ」

アレックスはかぶせるようなタイミングで口を開き、前を指さした。

石を積んで出来たしっかりした建物が指さした先に見えた。

日が沈む前に目的地につけてよかった。のか?

俺は疲れ果てていたが、アレックスは建物目指して歩き出した。

俺も気力をふり絞り、建物へと向かった。

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