ロボとの遭遇
第7話
その家の前についたときに、ドアが開き中から・・・
「無事についたな、友よ」
出迎えてくれたのはロボットだった。それ以外に表現できなかった。
ねずみ色のくすんだ鉄の体、右腕は肘から先がなかった。
胴体部分は何枚かの鉄の板がうろこ状に中身を保護するように覆っている。
顔は丸いが、両目は二つ・・・ではなく人間で言う額部分にもレンズがついて独立してそれぞれが動いていた。
所々顔やら関節やらから機械の音と共に緑や赤い色が光っていた。
アレックスはロボットにハグをして
「またせたな古い友よ」
そう言っていた。
俺はついに自分の頭がおかしくなってしまったのかと思い、これは現実ではなく夢なのだと思うことにしてみた。
理解できない状況が昨日から続き、身体的な疲労も重なり、まともな判断が出来ない状況にあった。
もうここはそんな映画や漫画の世界で、俺はもう普段の自分のように、いや、普段の自分を演じている事もやめて自由にふるまう事にした。
「アレックス、友を紹介してくれるかい?」
俺は当然のようにそんな事をいった。
俺の後ろで見ている、冷静な俺は「お前、やめとけ!」と警鐘を鳴らしているが、もうどうでもよくなった気分だった。
アレックスはロボットとの抱擁をとき
「コイツは鉄の擬人。名はいー・・・擬人よ。名はなんだったか?」
「やれやれ、紹介に預かり切れなかったが、吾輩はE-3型タイプT」
「擬人よ、コイツはケンだ。ヤマダケン。お前をなおすものだ」
「ヤマダケン、おぼえたぞ」
ロボットは左手を差し出した。握手か?
「よろしくな、ええとE-3タイプT?」
ケンは左手を握り軽く振ってみた。重厚感や質感は日頃の勤務中に触れる車と同じだった。
一気に現実に引き戻された感じがした。
「E-3タイプT。それは名前ではなくて型番ではないのか?」
「ほう、理解が早いのはいい事だ。吾輩に個別名はない。E-3式は量産期ではないが、個別の名称は存在しない」
「アレックスは普段なんて呼んでいるんだ?」
「彼は『鉄の擬人』か『擬人』か『古い友』あたりだな」
ロボットは楽しそうに会話をしているように感じた。
ケンはだんだんとさっきまでの、自分がおかしくなったとか、ヤケになった感覚が薄れていっていた。酒に酔ったのが覚めてきたように・・・。
「E-3タイプT・・・Eをエと呼んで・・・えーT・・・」
アレックスが
「家に入れ」
と、我が家のような振る舞いでケンとロボットを誘い、家の中に消えていった。
家の中は暖炉があり、燭台やランプもあり明るかった。ケンはロボットに促されるままに室内のリビングの椅子に座らされて、ロボットが出してくれた紅茶をアレックスと一緒に飲んでいた。
「あ、ええとアレックス。あなたが治してほしいと言っていたのは彼?」
ロボットはアレックスとケンの座る対面の椅子に座った。
その様子をケンは目で追っていた。実にスムーズな動きだった。
身長も肩幅もケンより小柄だった。ケンの見立てでは、ベースフレームは鋼鉄ではなく、より丈夫な素材でできているのではないか。そして駆動音はおどろくほど小さい。暖炉で木がパチパチとなる音よりも歩いているロボットの音は静かだった。
「そうだ、吾輩を修復できるかケン」
「その右腕を修理すればいいのかな?」
ケンは隣に座るアレックスを見たが、目を閉じて紅茶に口をつけていた。相変わらず話す気はないらしい。
ケンはロボットに対して興味を抱いていた。
おそらく人工知能を搭載した自立歩行型のロボットなのだろう。
ケンが勤めていた会社にもロボットが展示してあった。
受付の横で挨拶をし、簡単な受け答えをするロボットがあったが、比じゃないテクノロジーを感じていた。
「そうだケン、先ほど吾輩の名を考えてくれていたのではないか?」
「え、そ、そうなんだ。何か希望はあるかな?」
「君は優しいのだな。吾輩の希望を聞いた人間は隣のアレクシウス以来だ」
ケンは隣のアレックスを見たが相変わらず目を閉じて動かない。
このロボットはアレックスを「人間」と言った??
さすがに本人目の前で確認できないが、ケンはロボット相手に話すと言うのが気楽だと考え始めていた。
「そうなんだ、俺が考えた名前の候補を伝えておくよ。E3タイプTから少し文字って『エータ』というのはどうだろう?」
「エータ。良いのではないか。インプット完了」
「え?じゃあもう決定?」
「ああ、吾輩の事はエータと呼ぶがよい、アレクシウスも良いな?」
「・・・」
アレックスは無言で片目だけを開け、また閉じた。
「あの、アレックス。出来たら返事くらいはしてほしい・・・です」
俺は遂に思っていた事を素直に伝える事に成功した!
でもすぐに後悔した。今じゃなく、ここでもなくこの相手でもなかったのでは!?
「アレックス。なるほどケン。君は親しみを込めて吾輩の名前やアレクシウスの略称をつけるのだな。家畜にも名前をつけるのだろう?」
俺がビビっているのをよそに、エータは何か分析した結果を報告しているようだが、俺は自分の心臓の音以外が聞こえなかった。
エータが話している間も、横目でチラチラアレックスの様子をうかがっていた。
遂に両目をめんどくさそうに開き、俺をとらえた。
「ケン・・・よ」
「は、はい!」
俺は椅子から立ち上がって元気よく返事をした。
「エータを頼む。俺は少し休む」
そう言ってドアをあけ隣の部屋へ行ってしまった。
俺はヘナヘナと脱力して椅子に座った。
「ケン、君はアレックスとコミュニケーションが取れるのだな、希少だ」
「な、何言ってるんだよ。コミュニケーションが取れていたら、こんな苦労しないよ!」
不思議とエータ相手には話しがしやすかった。
「アレックスは『エータを頼む』と言ってでていったぞ?お前が吾輩に付けた名前を暗に認めた証拠ではないか」
「あ・・・」
俺も確かにその言葉を聞いた。そして嬉しくなった。
「そうだねエータ。すこしエータの事を教えてくれないかな」
エータのおでこの目が赤く光った。ケンの顔や目や首を照らす。
俺は「やっぱりコイツもヤバいやつだったかも」と身構えたが
「ああ、それも重要だが、ケン。君は疲労度が高いようだ。本日は休養したらどうだ?寝室に案内しよう」
そういって静かに立ち上がり
「こちらへ」
と先導してベットへ案内してくれた。
ケンはすぐにベットに横になった。
いろんな事が頭に浮かんだが、すぐに眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます