第8話
翌朝起きたらアレックスはもう起きており、リビングのテーブルに座っていた。
エータはキッチンで朝食を作っているようだった。
「おはよう・・・ございます。アレックス、エータ」
「・・・」
「おはようケン。よく眠れたか?外に井戸と便所がある。好きにつかってくれたまえ」
エータは首だけをこちらに向けて体は反対を向き、片手で器用にフライパンをゆすっていた。
外に出たら少しひんやりした。まだ日が出て間もないようだった。
やはり雪のかぶった山が見え、そちらから吹く風が冷たかった。
井戸と言われ、ロープのついた桶を引き上げるスタイルかと思ったら加圧ポンプ式のノズルのついた近代的な井戸だった。
トイレを済ませ、井戸で手と顔を洗った。
この世界ってロボットと吸血鬼がいるの?ハイテクなのに中世なの?なんか俺のイメージしている異世界がどんどん崩壊していく・・・
そんな事を考えながらリビングに戻り、エータが作ってくれた朝食をアレックスと食べた。
アレックスは終始無言で、目を閉じている事が多かった。
食事を終えると
「休む」
とだけいい、リビングから出ていってしまった。
エータは食事の片付けをしていたが、ケンも立ち上がり
「手伝うよ、何すればいい?井戸で洗い物?」
「吾輩がやるので心配無用。君は吾輩に質問があるのだろう、それをまとめると良い」
そういってエータはてきぱきと片付けから洗い物まで終わらせてケンの前に紅茶を差し出して座った。
ケンは一連の動作を目で追って何も考えられなかった。強いていえば「すげー」しか考えてなかった。
「まずは確認だが、君はアレックスに『吾輩をなおせ』と言われたのかね?」
「いや、アレックスは『俺たちを救ってくれ、殺してくれ』と言ってたよ」
「・・・なるほど、君はその真意は聞いていないんだな?」
「そう・・・だね。アレックスは優しいんだけど、あんまり喋らないからね。俺も本当は喋るのは苦手なんだ。コミュ症だし小心者だしね・・・はは、我ながら情けない・・・」
「コミュ症とは?何かの略号かね?」
「ああ、コミュニケーションが苦手なんだ。思ったこともうまく言えないし、相手がどうしてほしいとかもよくわからなくて」
「ふむ?それはおかしいな。現時点で吾輩との会話は成立しているのは、自分自身を過小評価しているのではないのか?小心者というのは、生物は基本的に己の保身に重点を置くのは至極当然なのだから、捕食者を前に傍若無人な態度を示すのは蛮勇なだけである」
「ああ、えっとそういう事では・・・なんかうまく伝わらないのはエータがAIだから・・・か?あ、エータはAIを組み込まれているの?CPUとかは?」
「吾輩は人格AIを用いてはいるが、内臓されたデータ解析AIとディープラーニング機能を個別で備え、それらを統合的に判断した結論を人格AIを介して表面化させるトリプルAIをニューロンネットワークを介して使用している」
「ええと?まあすごいAIだと思ったらいいのかな?」
「まあ、端的に言えば人間の頭脳レベルは超えていると推測されているので、その認識で間違いはない。ただ。吾輩には大きな欠点がある」
「腕がないとかじゃなくて?」
「外部機構に関してはそれは確かに大きな欠落ではある。内部的にメモリーの容量が常に飽和している状況が永続的に起こっている」
「そ、それは記憶媒体とかの事?」
「そうだ。1000年を超える記憶は、随時消去と新規で書き込まないとならない状況に陥り、一部の記憶が消去されてしまい、不完全な記憶として残ってしまっている。部分的にプロテクトされている物もあり、吾輩の意志では消したい記憶を選択できず、古い物から随時更新されている」
「え、ええ、えええ?ちょっと待って!1000年???」
それ以降もエータと会話を続け、気が付いたらお昼になり、昼食後も会話を続けた。
アレックスは昼食時は起きてきたが、またすぐに「休む」といい部屋にこもってしまった。
エータとの会話の内容は想像を超えていた。
今から1200年程前、エータは前世代の文明によって作られたロボットだった。
その文明はケンの生きていた現代の世界よりも進んでおり、AIやロボットがかなり社会進出しており、自動車や飛行機もオートメーション化されていたようだった。
その世界でAIは進化の過程で人類が効率化を妨げていると思考するAIが誕生し、反人類AIと人類保護を目的としたAIや人間の軍隊との大規模戦争が始まり、ほとんどの文明もロボットも崩壊してしまったようだ。
エータはその末期の時代に作られた型式のロボットで本来の役目は斥候や偵察に使用される目的で作られたが、誰が何の目的でプログラムしたのかはわからないが
「この世界を見守れ」
と漠然としたメインプログラムが根底に組み込まれていると言っていた。
昼からの会話でケンはさらなる秘密を明かされた。
エータは崩壊した建物に埋もれ、動けなくなっていた所を、なんとアレックスに発掘されたのだ。
アレックスはエータを発見し、半ば埋もれた状態のエータを力ずくで引き出し、地面にたたきつけた。
エータの防衛システムが起動し、エータはアレックスの排除の為戦闘体制に入る。
エータは斥候タイプで主戦場タイプのロボットではなかったが、高火力のプラズマ砲が右腕に設置されており、アレックスとの殴り合いの中、チャージの終わったプラズマ砲を至近距離でアレックスの頭部目掛けて発射したが、信じられないことにアレックスは躱した。
しかし、超絶火力のプラズマ砲の余波で、アレックスの右腕と右足はちぎれ戦闘不能になった。
ちなみに山の山容もそのときに変わり、この家から見える山の一部が人工的にまん丸に穴が開いているのが確認出来た。
エータもプラズマ砲の使用に一時的に多くのエネルギーを使用し、休止状態になり停止した。そのときにエータが見たのはアレックスの体が修復していく様子だった。
アレックスの修復はエータの稼働エネルギー充電よりも早く、エータの右腕を両腕で握り、エータを地面に125回ほど叩きつけ、最後は力任せに引きちぎってしまったらしい。
エータの体内にはナノテクノロジーで出来た修復システムがあったが、基本骨格まではさすがに修復できず、エータは永遠に右手を失ってしまった。
エータはこのときに初めてアレックスと会話に踏み出し
「君はなんだ?私のデータベースにはないが?」
と問いかけたらしい。
アレックスは
「お前は喋るのか?」
と驚いていたが、戦いをやめず、動けるようになったエータとまた殴り合いを再開したらしい。
俺の感覚はまともだと思うが、そんな戦いをコイツ等は3年続けたらしい。
エータに「この世界の1年って何日?50日くらいか?」
と確認したら「350~370日で推移している」と現実的な数値を言ったので嘘ではないのだろう。
その長い戦いの中で
「お前の目的はなんだ?」
「私は生命体ではないので生きてはいないから死なない」
とエータからちょこちょこ話しかけていたらしい。
最後はアレックスが
「お前はなんだ?あの熱線は俺を滅ぼせるものなのか?」
と聞いて、突然に戦闘は終わったらしい。
俺はこのわけわからん異世界に来た事も、今までエータから聞いた話しも全て信じられなかったが、最後に言った内容で今夜は眠れなくなりそうだった。
「吾輩とアレクシウスとの戦いでこの星にあるメインシステムが損傷を受けた。出力が不安定になり、概ね100年後に時空の歪みが起きて、別の次元と繋がり、何か、もしくは誰かがこの世界に来るか、他の世界にいくのかもしれない」
そしてこう続けた
「私の演算では、あの場所あの時間に誰かが来ると結果が出た。それがケン。100年前の計算通りに現れ、それを伝えていたアレクシウスが迎えにいったのだよ」
・・・
俺がこの世界に来たのはお前らのケンカが原因だったのか!!
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