第31話
翌朝ケンは日の出前に起きて、ヒロミスさんの家に向かった。
ヒロミスさんは既に起きていて、外で何か作業していた。
「お、おはようございますヒロミスさん」
「ああ、おはようケン。さっそくで悪いけど、朝ごはんを運んで来てくれるかい?それと水も減っていたら井戸からはこんでおくれ」
「え、えっとジンナの所ですね?わかりました」
「ああ、それと・・・ちょっと来ておくれ」
ヒロミスは立ち上がりケンを家の中に招き入れた。
「これとこれを持って行って。戻ったらこっちのこれを食べとくれ」
深くフードを被っているので表情はわからなかった。声もぶっきらぼうだったけど、俺は温かさを感じていた。頭を下げて
「ありがとうございます」
「もうそんな堅苦しいのはヤメだヤメ!とにかくアンタの食事も長老に頼まれてるし、それに・・・」
ヒロミスは俺の近くに来てポンポンと肩を叩いて
「ちょうど収穫も近いし、忙しくなる時期だ。働いてもらうよ!」
表情はわからない・・・けど悪い顔で笑っているのが想像できた。
ジンナの家に食事を運び、水瓶の水を補給してからアレックスの寝顔を見て
「あ、アレックス、ジンナ、い、いってくる!」
ジンナは小さな声で
「・・・いってらっしゃい。気を付けて・・・」
そして俺はヒロミスさんの家に戻った。
ジンナと話しをしたかったけど、初日からダラダラしてはダメだと思った。
「日頃から迅速に行動したまえ」とエータにも言われていたし・・・エータ元気かな。
ヒロミスさんの家に戻ると家の横の納屋と思われる小屋からリヤカーのような物に荷物を乗せていた。
「も、戻りました!て、手伝います」
ヒロミスさんは片手をパーにして俺に見せて
「とにかく食事をしな。そうだね、洗い物も片づけてから水瓶の水を運んでおくれ」
「は、はい・・・ありがとうございます」
「バカだねアンタ!礼を言うのはアタシの方だよ!あそこに食事を運ぶだけでも大助かりだ」
そんな事をいいながら裏の畑に言ってしまった。口は悪いのかもしれないけど、すごくいい人だ。
俺はそんな感動をしながら用意してくれていたスープとパンをいただき、仕事を手伝っていた。
ヒロミスさんの畑は、そこそこ広く麦やトウモロコシの他にも見たことのない植物を育てていた。
俺は農業なんて経験がなかったし、前にいた世界では耕運機やトラクターなんかのイメージが強く、手作業でどうしていいのかもわからなかった。
ヒロミスさんに「咲きすぎている花は取って、雑草は生えていたら小さいうちに抜いて、枯れた葉っぱは手でちぎって、うねが崩れそうなら補強して」
とよくわからない事をたくさん言われ、言われた通り以外にする以外はなにもできなかった。
ただ、汗をかいているのがなんとなく心地よかった。
「ケン!そろそろ昼食にしようか」
そういってお昼ごはんもごちそうになることになった。
そしてヒロミスさんの家で食事をすることになったのだが、予想外の出来事が起きた。
「おいケン。アンタ、服を脱ぎな!」
「え?はあ?」
「いいから早く脱げっていってんだろ!」
こ、これはアレですが?せ、セクシーな動画で見る女上司の命令だ、みたいなアレですか?
俺は挙動不審な行動を繰り返し、オロオロしていると
「いいから早くこれに着替えな!あんたその服しかもっていないんだろ?洗っとくよ」
・・・なんかちょっとだけ期待していたのはダメですか、そうですか。
「こ、こ、ここで着替えるんですか?」
俺は未だにすこしドキドキしてヒロミスさんに聞いたら、ヒロミスさんが目の前に来た。
そして被っているフードを外した。
「え・・・え・・・ええ?」
俺は目を逸らせなかった。ヒロミスさんも俺をじっと見ている。四つの目で・・・
「あれ?なんだい。思ったより驚かないんだね。面白くない」
ヒロミスさんは見た目は、目以外は普通の人と同じように見えた。
年齢は50くらいなのか?白髪の混じった長い髪を後ろで一つに縛っている。
フードを被っているからか、まったく日焼けしていない肌は白く透き通るようだった。
目は・・・通常より少し小さいのかもしれない。縦にも横にも二つあった。
眼球の色がそれぞれ黒、赤、緑、青と異なり、白い肌に相まって美しかった。
「キレイだ・・・」
俺は見とれて口走ってしまった。
「あ、アンタ。ババアをからかうんじゃないよ!」
ヒロミスさんは笑いながら俺の肩をバシっと叩き
「ほら、アタシも見せたんだ、あんたの裸も見せな!」
ニヤリとしてケンをじっと見つめた。
俺は恥ずかしかったけど、なんとなくそうしないと公平じゃないように感じて目の前で着替えた。
ちょっとゴワゴワした素材だったが、明るい茶色のダボっとした上下に着替えた。
「お、似合うじゃないか。どうみても農民だ!はっはっは」
俺は恥ずかしくてモジモジしていたけどヒロミスは豪快に大笑いしていた。
「さあ、食事にしよう!脱いだ服は端に置いときな」
「は、はい」
「それとケン。もうそんな堅苦しい返事はヤメな。アタシもヒロミスと呼びな」
ケンはアレックスと出会った時の事を思い出していた。アレックスもこの人も同じことを言っている。優しい人なんだと確信して
「じゃ、じゃあヒロミス。しょ、食事にしましょ・・・しよう!」
「ま、いいわ。ケン、昼からもしっかり働いてもらうよ!」
俺はこの後もヒロミスに怒鳴られながらも楽しく手伝いをした。
ヒロミスもよく笑って楽しそうに見えた。
こうして俺の新生活初日は順調に過ぎ、ジンナの家の食事を持たされてその日は帰宅した。
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