第30話
「ジンナ、起きてる?」
俺は寝ていたら悪いと思い、普段より少し小さめな声で奥の部屋に声をかけた。
「ケン?」
ジンナは起きていたらしく、奥の部屋から出てきた。
「ジンナ。俺、この村でしばらく手伝いをすることになったよ」
俺はすこしだけ胸をはってジンナに言った。
が、ジンナの反応は薄かった。ちらりとだけケンの顔を見て
「そう。がんばってね」
「お、おう・・・と、ところでアレックスは?」
「変わりはない。隣の部屋で寝ているわ」
「み、見てきてもいいかな?」
「うん・・・エータは一緒じゃないの?」
「ああ、エータはしばらくの間一人で色々と調査しに行くって」
「じゃあケン一人?」
「そう。よろしくねお隣さん。そ、その・・・困ったら助けて・・・く、くださいね」
ジンナはまたちらりとだけケンを見て
「うん、でも、私がケンにできることなんてあるかしら?」
俺は何を言っているんだと思った。俺なんかより、よっぽど皆の役に立っているのに・・・
「ジンナは俺だけじゃなくてアレックスも助けてくれたじゃないか!」
俺は少し声を大きくして答えたが、ジンナは相変わらず無表情だった。
「あ、ジンナの身の回りの世話もするよ。ヒロミスさん?の分は俺がやることになった」
「え?な、なんで?」
ジンナは少し困惑したように答えた。
俺は勝手にジンナが喜んでくれるのかと思っていたが違ったみたいだ。
よく考えたらジンナは女の子で身の回りの世話は女性限定だったのかもしれないと、今更ながら思った。
「あ・・・やっぱり男の人だと女の子のジンナの身の回りは・・・ごめん、ヒロミスさんにも明日あやまって続けてもらうように・・・」
ジンナの顔に一瞬笑顔が浮かんだ。しかし、その笑顔は一瞬で消え、冷たい声で話し始めた。まるで自分自信を守る壁のように。
「・・・いいよ、ケンがしてくれたら」
「え?いいの?じゃ、じゃあ何かあったらいつでも言ってよ!料理とか出来ないから誰かの運ぶだけとかになると思うけど。あ、アレックスの様子を見てくる」
俺はなんか嬉しくなって笑ってしまったのが恥ずかしくなり、逃げるように隣の部屋に入った。
「ケン・・・近くにいてくれて・・・でも。ずっと私を見ていたら絶対に・・・」
ジンナは口の中で小さくつぶやいた。
アレックスはキレイな顔でスヤスヤと眠っていた。
「・・・アレックス。俺、がんばるからな!」
アレックスの寝顔にそう言ってから、俺は明日に備えて早く寝ようと思い戻ることにした。
「ジンナ、また明日来るから。おやすみ・・・違う!また後で」
そう言って出ていこうとしてから、思い出して
「あ、ジンナはいつ起きていつ寝るの?」
そう聞いた。ジンナは机で食事を取っていたが固まっていた。
「じ、ジンナ?だ、大丈夫?」
俺は玄関の前にいたが、ジンナの元に近づいて言った。
「・・・私は太陽に当たれない。私だけが・・・」
小さな震える声でジンナは言った。ケンは戸惑ったが「できることをする」と決めたんだと自分に言い聞かせ
「じゃあ日が沈んでからと、日の出前に来る。だから、大丈夫」
俺はそう言って家から出ていった。
「・・・ケン・・・お願い・・・優しくしないで・・・」
ジンナは誰もいなくなった部屋で小さくつぶやいた。
ジンナは最近眠っている間に何度も同じ夢を見ていた。
優しく微笑んでくれるケンがジンナの手を握ってくれる。
ジンナも嬉しくなり握り返すと・・・
ケンはミミズの手に慄き、恐れたように手を放し後ずさりをして消えてしまう。消え去ってしまう。
ジンナの気持ちが強くなればなるほど夢を見た後、夢だとわかっているのに喪失感が強く涙を流していた。
現実の彼女はますます自分を抑え込むようになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます