第54話
その後、俺とアレックスは焚火を囲んでマントを引いて寝ることになったのだが
「新参者の私が見張りを!」
そういったゴールアことゴーにエータは
「吾輩は眠らないから君も眠るが良い。吾輩は君を完全に信用した訳ではないから常に見張っているのは心得てくれたまえ」
そう言い放ったが、ゴーは
「はっ!」
と敬礼をしていて、俺はまた引いていた。
エータもエータだけど、この人なんか堅苦しいから苦手かもと思い始めて眠った。
翌朝になるとエータはゴーの分の食事も作ってくれていた。
ゴーは俺よりも早く起きたらしいが正座して俺が食事を取るのを待っていた。
「さ、先に食べてくれて大丈夫です」
そう声をかけたが
「主君より先に頂くなど!」
両手を大げさに広げて振っていた・・・やっぱり苦手かも。
ゴーは正式には軍を抜けた訳ではなく、
「先ほどの御仁たちに謝罪と、先導をしてくる」
と言い、当時いなかったが遅れてきた補佐官に後を託してここまできたらしい。
「私はそれなりに軍部に顔が聞くので、この先は楽に抜けられるでしょう」
慣れない馬に乗る俺の、馬の手綱を引きながらそんな事を言っていた。
俺たちは馬を手に入れに行くと話したら
「慣れる為に私の馬に乗ってください。よく訓練された軍馬ですから丈夫です!」
ドヤ顔でそう言われて乗せてもらったが、予想以上に高さがあって怖かった。
アレックスは一言だけ
「・・・馬に任せてリラックスしろ」
そんなアドバイスをくれたが、ガチガチに緊張してますはい。
「先ほどアレクシウス殿もおっしゃってましたが、肩の力を抜いてください」
手綱を引きながら指導してくれるのだが、ビビって力んでしまうのです。
「せっかく馬を手に入れたのに、むしろ移動速度が低下している。吾輩がケンを担ぎゴーが馬でついてくるのはどうかね」
冗談を言わないエータは真剣そうに見える表情でそんなことばかり言っていた。
曇り空の下、俺たちは街道を進んでいるとまたバリケードが見えてきた。兵士の姿もちらほら見える。
兵士達はこちらに気付いたようだが、ゴーの姿を確認すると姿勢を正し
「分隊長に礼」
ここのリーダー格っぽい人の号令で一斉に敬礼していた。
「馬がビックリして走り出したら大変だから大声ださないでほしい」
俺は内心そう思いながら馬上から見下ろしていた。馬は落ち着いていてほっとした。
ゴーはリーダーと何か会話をしていた。
「私は引き続き貴人の先導を行うので、諸君らは警備を怠らないように!」
そう言ってバリケードを抜けた。
やっぱりゴーはちょっとかっこいいし、しっかりした人なんだな、俺と違って・・・
そんな風に思っていたが、しばらくしてからエータが
「ゴー。やはり君には利用価値があるな。王都の出入りにも顔が聞くかね?」
「ちょっと、エータ!利用価値とかもうちょっと言い方考えてよ!」
俺はエータにだけは喋りやすいのは相変わらずだったが
「いえいえ、ケン殿。いいのですよ」
穏やかに微笑むゴーはエータに
「以前より東方方面での任務が多かったので、東門なら融通は聞くでしょう。その他の場所は警備状況や門兵の顔ぶれによるかと」
真剣な顔で答えていたが、俺は内心
「こんな真面目でしっかりした人が国を裏切っていいのかな?俺たちは悪い事してないけど・・・いや少ししているのか」
そんな後ろ暗い気持ちが芽生えていた。
「ふむ、では街の出入りなどで検問があるようなら君に任せてみよう。ケンは荒事が苦手なようだからな。我らが君主ケン」
エータの表情は変わらないが、俺は明らかにからかわれているのを感じて
「君主に対する態度をあらためなさいエータ」
馬の上から偉そうにそう答えたらアレックスとゴーは同時に「ふふ」と笑っていた。
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