第55話
その後も順調に街道を進み、おおきな街についた。
ゴーは街の入口の門兵に自らの身分を明かして警護をしていると告げると、問題なく街に入ることができた。
「無事にロスタルの街につきましたね。ここからは北街道に向かうんですね?」
ゴーは何かを言っていたが、俺に聞こえなかった。
俺は景色に何か見覚えがあるような気がした。
キレイに敷かれた石畳。等間隔にならぶ街灯。
「あ、アレックス。ここって前に・・・俺とアレックスが二人ではじめてきた・・・」
「・・・そうだ。あの店に入ったな」
円形の噴水広場の前でアレックスが指を指した。
何か遠い昔に来たような感覚に襲われた。
まだあれからそれほど経っていないのに。
「今日はこの街に宿泊するかね?ここなら色々と必要な物も手に入るであろう。君たちの服もな」
「あ、ああそうだ。アレックス。服を着替えないと」
俺とアレックスは返り血を洗ったが、所々に赤いシミがついた服を着たままだった。
「・・・うむ。あの服屋に行こう」
アレックスは数歩歩いてから振り返り
「・・・お前にもマントを買おう。ゴーよ」
そう行って歩き出した。ゴーは足を揃えてアレックスの背中に敬礼していたが、俺と顔を見合わせて少し笑っていた。
宿につき、馬を預けて俺とアレックスは着替えた。
アレックスはゴーとエータにも服を変えるか聞いていたが、エータが
「ゴーは兵装の方が何かと都合がいい」
との事で、二人ともフード付きのマントを新調した。
俺は何故かアレックスとお揃いの白いシャツと黒のズボンを買って渡された。
ありきたりと言えばそうだが、お揃いなのが恥ずかしかった。
「お、おかしくないかな?」
俺は着替えてからモジモジしていたが
「よくお似合いです!」
「・・・夕食はあの店に行くか」
とバラバラの回答が帰ってきた。
エータは必要な物を買うから食事にいってきてくれと出ていった。
ゴーは金属の胸当てと皮の鎧を外して俺たちに同行することになった。
まだ日があり、すこし早いが噴水の前の店に行った。
店に入る前にゴーが俯いて
「・・・お恥ずかしい話しなのですが、あまり持ち合わせが・・・」
それを聞いて俺は今までお金を払ったことがないし、ここって確か高級店だったと思い出して一気に不安になった。
「あ、アレックス。お、お金は大丈夫で、ですよね?」
アレックスは無表情のままズボンのポケットから小さな皮の袋を出して広げて俺たちに見せた。
金銀に光るコイン20枚程を見て大丈夫なのかどうなのかわからなかったが、ゴーは固まっていた。
「え・・・白金貨?え?」
「・・・心配するな。好きな物を頼め」
アレックスは店の中に消えていった。
「ゴ、ゴーさん白金貨って何?」
俺はアレックスの背中を見つめながらつぶやいて聞いた。
ゴーはマジマジと俺の顔を見つめ
「あ、あの方は何者なんだ・・・」
青ざめた顔でそうつぶやいていた。
俺たちは微笑をたたえたボーイさんに席に案内されて座った。
「またのご来店ありがとうございます。今日もいいワインが入っていますよ」
そういってグラスに水を注いでいた。
相変わらずスマートで、だいぶ前に来た俺たちを覚えていて、できる男オーラが出ていた。
「また注文がお決まりになりましたらお呼びください」
そういって足音も鳴らさずに立ち去った。
店内は前回来たときよりも西日が入っている分明るく、思っていたよりも広かった。
既に数人の客がテーブルに座って食事をしたりワインを飲んでいた。
俺はいつも通りにアレックスにお任せしますと言ったら、ゴーは立ち上がり
「わ、私は外で待っていますので、お二人でごゆっくりお寛ぎください」
俺は「あ、空気読める人ってこんなことするのかも」なんて考えていた。
「・・・座れ」
アレックスは一言だけでゴーを座らせて空気を凍り付かせた。
「ま、まあゴーさん。アレックスに任せておけば大丈夫ですよ・・・た、多分」
作り笑顔でそう行ったが、ゴーの額には汗が光っていた。
アレックスはスッと手を上げてボーイを呼んで注文をしていた。
「では同じものを三名様分ずつとグラスは三つですね?」
微笑をたたえてそういった。ま、まあいつも通りだった。
「ゴ、ゴーさんお酒は?」
「まあたしなむ程度は。それと敬称は不要です」
相変わらずの堅苦しさを感じていたが、少しリラックスした表情だったので安心した。
ボーイさんは俺たちの前にグラスを並べワインを注いで
「こちら※%&ワインの今年の収穫からできたものです」
みたいな謎の説明をわかった風な顔で聞いていた。
アレックスはグラスを持ち
「・・・では、乾杯だ・・・」
俺は何か味気無さを感じて
「出会いを祝して!」
そう言ってグラスを三人でチンとならした。
ゴーは穏やかな表情に見えた。
ワインは相変わらずうまかった。
この前より酸味がキツく感じたが、すっきり飲みやすかったので、俺は飲みすぎないようにと自分に言い聞かせた。
料理が運ばれた時にゴーは静かに話し始めた。
「少しだけ私の話しを聞いて頂いてもよろしいですか・・・」
そんな感じだったので、既に気が大きくなった俺は
「もーゴーさんもうちょっと固さを取ってくれ!」
そう声をかけてゴーの話しは始まった。
なんでもゴーさんは過去に二人戦友をなくしているとの事だった。
俺に似て優しい男で、二人が二人とも「お前は生きろ」と言ってゴーを庇い死んでしまったとの事だった。
姿形は違うが、俺の中にその者たちを見て、この店に来てからの俺の気遣いに感動し
「私は国の為、王の為と思い軍に所属していましたが、違いました」
俺をじっと見つめて
「あなたのような方を生かす為に私は生き延びたのだと思います。かつての友も納得してくれるでしょう」
そんな事を言い出して、俺はどう答えていいのかわからずにワインをちびちび飲んでいた。
「あ、アレックスに殺さ・・・やられそうになっていたのを止めたのは・・・」
俺はワインを一口飲んでから続けた。
「もう人が死ぬのを見たくなかったんだ。止めるのが遅くなってしまったけど・・・」
ゴーは静かに首を振り
「それは違います。アレクシウス殿も友人のケン殿を守る為に手段を選ばなかっただけです。私は恐怖しました。天災は誰にも止められません。しかし、ケン殿はそれを成した」
なにか涙ぐんでいるゴーを不思議な気持ちで見ていた。
「・・・ケンは、コイツは特別だ」
目を閉じたままアレックスはそう言った。
「と、とりあえず堅苦しいのは終わり!ゴーさん!?」
「い、いや、剣を捧げた相手に無礼をするなど・・・」
「よーしわかった!命令だ!俺を『ケン』と呼べ!!」
「し、しかし・・・」
俺は酒に酔ってそんな事でゴーに絡んでいてふと思い出した。
「あ、アレックス・・・あの時。アレックスさまと呼んで怒ったのは・・・こういうことだったのか?」
俺はアレックスの顔をマジマジと見つめた。
アレックスも目を開けて俺を見つめて静かに頷いた。
「ご、ごめんアレックス。俺・・・全然そういうのわからなくて・・・」
俯いた俺にアレックスは静かに
「ケンよ。謝るな。謝るのは俺の方だ」
「え、な、何を謝ることがあるんだ?」
「・・・苦労をかけている」
俺はアレックスの優しさや自分の情けなさに一筋の涙が頬を伝った。
「・・・泣くな。お前には感謝している」
そんなことをいうから俺はさらに泣いてゴーに肩を借りて宿に帰った。
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