第56話
俺は気が付いたらベットで寝ていて朝日が眩しかった。
今回は飲みすぎないように気を付けていたのに記憶が既に曖昧だった。
俺以外は皆起きているようで、起きた俺に気付いたゴーが
「あ、おはようございます。ケンど・・・ケン」
なにかマヌケだった。
「お、おはようございます、ゴーさん」
「け、ケンど・・・ケン!約束が違うではないですか!」
ちょっと寝起きから大声出さないでください。
「え、ええと約束・・・約束・・・」
俺は全く思い出せなかった。
「お互い敬称をなくして呼び合い親睦を深めようって・・・」
ボウズ頭のおっさんが目を潤ませて俺に非難の目を向けています。
朝から暑苦しいです。
「あ、そ、そんな約束だったね、ご、ゴー」
「はい!ケン」
俺はにこやかなゴーを見て、どっと疲れた感覚に包まれた。
「それとこれ!エータ殿に頼んで買ってもらったんです」
体の胴体部分がすっぽりと隠れる五角形の盾、カイトシールドっていうのかな?
嬉しそうに両手で掲げて俺に見せている。
「これでケンをしっかり守ります。わが命にかえても!」
俺は「何が」とは言わないが色々と後悔をしていた。
アレックスは椅子に座って目を閉じていた。
「あ、あれ?エータは?」
「ああ、一度自宅に帰り、何かを取りに行くと言って出かけましたよ。出発までには戻ると」
「そ、そうなんだ。と、とりあえず朝ごはんにしよう」
俺は二日酔いなのかもしれないが、いつものペースになれなかった。
食事を取り、部屋に戻り荷物をまとめている所でエータが帰ってきた。
「おはようケン。体調はどうかね。今日は馬車移動だが、君の訓練をかねて単独で馬に乗りついてくるかね?」
「え、俺一人で馬に乗れないよ?」
「だからこその訓練ではないか。君の乗馬技術によってこの先の行動速度が変化するのは理解しているのかね?」
「え、でも・・・」
俺はものすごく不安になった。実際の乗馬ってこんなもんなのか?なんかもっと限られたスペースで練習するもんじゃないのか・・・
「私が馬で行きましょう。馬上戦闘にも慣れているし、この辺りの兵士も皆さまの手を煩わせずに対処します」
ナイスだゴー。俺は言葉には出さなかったがそう思った。
「ふむ、それは一理あるな。では出発しよう」
俺たちはいつも通りに馬車に乗った。
馬車は貸し切りで、他の乗客はいなかったが、御者のへたった帽子を被ったおじさんが
「へ、兵隊さんは護衛でついてきてくれるのか?」
もっと何か言いたそうだったが、納得してくれたようで無事に旅は進んだ。
道中も特に問題も無く、順調に北へ向かっているようだった。
街を離れ、景色が段々と田舎になっていくように感じていた。
畑や建物がなくなり、森は深くなり、石畳もデコボコが多くなっているみたいで多少揺れた。
昼前に街が見えてきた時に、エータは御者と外にいるゴーに向かい
「あの街で休憩しよう」
そう声をかけると、ゴーは街の前で馬を加速させて
「手続きをしておきます!」
そういって先行して馬を預けて待っていた。
俺はそんな「できる男」を遠い目で見て
「ああ、やっぱり俺って一番役立たずなんじゃないか」
そんな風に感じていた。
街についてからもゴーは御者に向かって
「馬は休ませておくから貴殿も休まれよ」
そういって馬二頭を引きつれて馬小屋のような場所へ連れて行っていた。
小さな街の小さな飲食店に入った。
他の客は一人だけ、カウンターにかけているだけだった。
俺たちは8人掛けくらいの大きなテーブルを占拠して、御者も一緒に食事をした。
俺は肩身が狭く感じて端の席に掛け、静かに食事を取っていた。
「御者よ。相談なのだが、この先のローレン領までいっては貰えないかね?」
「他の客も無いし、いいですが旦那。手形を持ってませんぜ?橋の手前でいいですかい?」
「ああ、心配は無用だ。屋敷まで行ってほしい。追い金はいくらかね?」
俺はそんなやり取りを見ていて「ローレン領」という言葉に引っかかった。
「ローレン様は領土を持っている領主なのか・・・ローレン・・・あ。え、あ?」
心の中でそうつぶやいてアレックスを見て
「アレックスって確か、アレクシウス・ローレンとかいう名前・・・やっぱりドラキュラ伯爵!?」
真剣に思考している脳内に、何故かドット絵の吸血鬼がコミカルな動きをしている映像が浮かんだ。
「日暮れ間近なら一日程度滞在の許可が取れるはずだ。では残金はその時ということで良いな?」
何か考え事をしている間に交渉はまとまったらしく、俺は「まあエータに任せとけば大丈夫だろう」程度に考えていた。それよりもローレン領が気になっていた。
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