第40話

ジンナの家に食事を運ぼうと家に入ったらエータがジンナと話していた。

「アレクシウスの生体反応が強まった。そろそろ意識が回復する予兆だ」

エータは淡々と告げた。

「ま、マジか!?」

俺は嬉しかった。

が、ジンナの顔を見てはっとした。

ジンナは悲しそうな目をしていた。

アレックスが目を覚ませば、俺たちはまた出て行ってしまうのを知っているからだ。

「よかったね、ケン・・・」

ジンナは伏し目がちにケンを見て言った。

「ジンナ・・・」

俺はなんて答えていいのかわからなかった。

「アレクシウスは目を覚ましてもすぐには動けないであろう。それと血液も必要だな」

「け、血液?」

俺はジンナが気になっていたが、エータの物騒な発言に驚いた。

「それって・・・クラゲの時と一緒で遺伝子とかの問題?」

「それもある。が、それだけではないようだ。吾輩の分析データと過去のデータベースを比較しているが、過去のものは半分以上欠落していて明確な回答はできん」

やっぱりエータの内部的な修理とかバックアップデータとかの回収も必要なのか・・・後腕と。

「でも・・・違う。じゃあ起きてもすぐには出発はできないんだね?」

「君は喜んでいるのかね?まあアレクシウスが行動可能になるまでは3日はかかるであろう。その間に君は吾輩と『訓練』をする時間ができたな」

無表情に見つめるエータの顔はニヤリと笑っているように見えた。

俺はジンナの顔を見て少しだけ安心したように見えて「よかった」と思ったのに・・・エータの顔を見てげんなりした。


俺はアレックスの様子を見に奥の部屋に入った。

すーすーと昨日より寝息が大きいように感じた。

穏やかな顔で寝ている。いい夢でも見ているのかな?

そんな風に思って声をかけて起こしたら悪いので静かに退室した。

ジンナとの会話もほどほどに俺とエータは家に戻った。


アレックスの血の事やジンナの事を考えていたが、一度思い切ってエータに相談してみることにした。エータならからかったり冷やかしたりはしないはずだ。

「エータ。アレックスの血の事なんだけど・・・」

「吾輩もケンに尋ねようとしていた点だ。僅かでよいので恵んでくれるかね?」

俺はドキっとした。俺もそうしようかと考えていたのだ。

「・・・うん。死なない程度というか・・・ちょっとなら・・・」

少し不安だったが、そう答えた俺にエータは

「アレクシウスが君を殺すはずがないであろう。ただ、君が血を差し出して受け取ってくれるか吾輩には計算できない」

「それは・・・」

それは俺にもわからなかった。ただ吸血鬼なんだから俺の血でも飲むと思い込んでいた。

「それとは別なのだがね、ケン。君からジンナに頼んでくれないかね?」

「な、何を?」

俺はかなり嫌な予感がしていた。ジンナの悲しむ姿を想像しただけでイヤだった。

「ジンナの血液をもらえないかだ。それに君の血液を混ぜてアレクシウスに提供するのだ。何か文献の情報もある。『はじめての共同作業』という儀式だ」

「・・・は?」

俺は口を開けてエータを見ていた。

何かが間違えているのではなくて何もかも間違えていると思った。

俺は笑えないブラックジョークを言われた気分になった。

「え、エータ。ふざけているんじゃないのはわかっているんだけど・・・あんまりだ」

「そうかね?これは実に画期的な計画なのだがね。一度彼女と相談してもらえないかね?」

エータは大真面目らしい。

「うーん・・・まあ言えたら聞いてはみるよ」

なんか俺はどっと疲れた気がしてきた。

「と、とにかく今日はもう寝るよ。そういえば村の手伝いはもうしなくていいのかな?」

「ああ、その件なら大丈夫だ。畑の収穫と柵の整備なら吾輩が終わらせている」

俺はエータをたたえるのか、ほめたらいいのか、けなしたらいいのか、よくわからない感情になっていた。

「ま、まあ今日はもう寝るよ。朝はジンナの所に俺が行くから日の出前には起こしてくれよ」

「ああ、起こすのでゆっくり休みたまえ」

俺はエータに軽く手を上げてベットに向かった。


「・・・ン・・・んだケン。起きたまえ」

「・・・んー・・・うわっ」

目を開けたら、ドアップのエータの顔に驚いて飛び起き、エータに頭突きをした。

頭が割れそう・・・なんかこんな事、前にもあったような・・・

「いてて・・・おはようエータ」

「おはよう。よく眠っていたようだ。体調は良好なようだ」

おでこをさする俺を見てエータはそう言っていたが頭が痛い。物理的に。

「ジンナの食事を運ぶよ」

俺は起き上がりヒロミスの家まで行こうかと思っていたが

「食事ならできている。もちろん君の分もだ。持っていきたまえ」

俺はエータが気を聞かせてジンナとの時間を作ってくれたのかと思って

「ありがとうエータ!」

感謝を告げたが

「交渉の席には吾輩も同席したほうがいいかね?」

おそらくジンナの血の件だとわかっていたが

「いや、エータがくるとややこしくなるから」

俺は二人分の食事を持って家を出た。

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