第41話

ジンナの家のドアを軽く二度ノックをしてドアを開けて中に入った。

ジンナは部屋の奥にいるようで

「・・・ケン?」

と小さな声で問いかけていた。

「ジンナ、食事を持ってきたよ。今日は一緒に食べてもいい?」

ジンナは恐る恐るといった感じにケンの前に出てきた。

ケンに目を合わせないようにしているのがわかった。

「・・・ジンナ」

「わかっているの。ケンが出て行ってしまうのは・・・」

ジンナは少し離れた所で俯いた。

俺はテーブルに食事を置いてから椅子をひいて

「とにかく座って」

渋々とジンナが座ったので俺は向かいに座った。

「ジンナ・・・待っていてくれるか?」

俺は何て言っていいのかわからずにいたが、思っていた言葉を言った。

「・・・うん、でも・・・」

「全部終わったらここに帰ってくるよ。だから、それまで」

「うん、待ってる。でもね・・・」

ジンナは顔を上げてケンをじっと見つめ

「夜に一人でいる時に、もうケンが来ないんじゃないかって、出て行ったら帰ってこないんじゃないかって・・・私、私ずっと一人で・・・こんなに弱くなかったのに・・・」

ジンナは静かに泣き出してしまった。

俺は椅子から立ち上がりジンナを抱きしめて・・・心臓が口からでそうになって唇が乾いたが・・・キスをした。

ジンナはびっくりして目を見開いていたがケンを抱きしめた。

「・・・ごめん・・・ジンナがかわいくてつい・・・」

「もう・・・あやまらないで・・・」

そうしてしばらく無言で抱き合っていた。


「・・・ぐ・・・ぎがぁあああ」

「きゃっ」

ジンナが俺の胸の中でビクッとしたが、俺は少し飛び跳ねていた。

アレックスの声か?

俺とジンナは顔を見合わせ奥の部屋の診察台を見た。

アレックスは起き上がっており、全身の骨をきしませて伸びをしていた。

「・・・あ、アレックス」

「・・・ケン・・・か。俺は眠っていたのか・・・」

俺は病み上がりのアレックスに抱きついた。

「うう・・・アレックス、アレックス・・・俺・・・」

俺はアレックスに色々と話したかったが、何も言えなかった。ただ無言で泣いていた。

アレックスは俺を優しく引きはがしてから

「・・・泣くなケン。腹が減った・・・」

と優しく笑っていた。俺もおかしくなって笑った。

ジンナは黙っていたが、複雑な気分で見ていた。


その後、アレックスは食事をしてエータが診察していた。

「吾輩は医療用ではないので正確ではない。だが、アレクシウスは回復したと見て間違い無い」

そう言ったが、続けて

「以前と同じく長期の睡眠の後は生体機能が著しく低下している。明日から三日は食事と睡眠をしっかりとって適度な運動も取り入れて様子を見よう」

それから家に戻り、俺が眠っていたベットの隣の埃を被ったベットを使えるようにしたり、長老や村人数人がアレックスに挨拶に来たり、なんとなく落ち着かないまま、気が付けば夕方だった。

「はーっ、なんか疲れたな」

俺は溜息をつきながら、アレックスの椅子の前にドカっと座った。

アレックスは無言で俺の顔をじっと見ながら

「・・・ケン・・・世話をかけたようだな」

そう言って頭を下げた。

「え、ちょ、アレックス!そういうのもうやめてくれよ!」

俺は椅子から立ち上がりアレックスの頭を上げようと動かした。

また動かないと思っていた予想に反して、すっと頭は上がり

「・・・変わったな・・・ケン」

そういわれて俺は何か後ろ暗い気持ちになってしまった。

今でもふとした瞬間に、俺が・・・殺した「おじさん」は出てきてしまう。

そんな事を考えているのもおかまいなしにエータが食事の準備を進めながら

「ケンは君を救う為によく働いてくれた。それに『つがい』もできたしな」

俺はアレックスがじっと俺を見ていたのでエータの言葉が頭にあまり入らずにいた。

「つ、つがいってなんだ?つがい・・・あ・・・」

なんとなく鳥かごに入ったオスメスの二羽の鳥をイメージして顔が熱くなり

「つ、つがいって言い方は何!?」

そういったがアレックスは優しく微笑んでいたのを見て「まあいいか」と思っていた。



その後に久しぶりに3人でテーブルに座り食事をして話していた。

本当に久しぶりに穏やかな気分になれた。アレックスがいる安心感だろうか?

「とにかくアレクシウスは体調を考えて、異変があるならすぐに吾輩に知らせる事。よいな」

「・・・」

アレックスはちらっとエータの方を見ただけだったが、それで俺は十分だと思った。

エータも特に気にした様子は無く

「それと、今後の予定だが『屋敷』に行って馬を手に入れるか、『地底人』のところに先にいくか決めかねている」

エータはアレックスから俺の顔に視線を移してから

「吾輩とケンには新しい移動手段があるので、それの評価もアレクシウスにしてもらうのはどうかね?」

「ちょっとエータマジなにいってんだよ!?」

と俺は突っ込んだが、アレックスは

「・・・ほう。楽しみだな」

ニヤリとした顔で俺を見ていた。

俺はアレックスとエータの顔を見比べていたが、なんだか面白くなってきてしまい

「ははは、まあちょっと見せるだけだよ、ちょっとだけ」

と乗ってしまっていた。

「詳しい計画はまた明日以降にしよう。アレクシウスには睡眠が必要だ。ケン、君は『つがい』の食事を運ぶ仕事がまだ残っているのであろう」

「え、エータ!その『つがい』って言い方やめないか?」

「ふむ?ではなんと呼べばよいのかね?」

「・・・カップル?か、か、か、か、彼女・・・とか」

俺は自分でも顔が真っ赤になっているのがわかった。

「カップルは『つがい』という意味ではないのかね?ではケンとジンナ二人で『カップル』でジンナはケンの『彼女』と・・・インプット完了」

エータの冷静な言葉を聞いていても俺は恥ずかしくてモジモジクネクネしていた。

「エータ・・・ケンは何かの病なのか?」

不思議そうな顔をしているアレックスに見られているのが恥ずかしく俺はエータが準備してくれた食事を持って

「い、行ってくる」

と家を飛び出した。

背後で「ケンは十分に健康で健全だ」とエータの返事が小さく聞こえた。

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