第48話

街にも無事に入れ、俺たちは一階が食堂だか酒場だかで、二階が宿の大きな建物に入った。

「いらっしゃい、お?旅の行商かい?」

俺は建物に入りマントのフードを外した所で、従業員と思えないガッチリとした金髪角刈りのおじさんに声をかけられた。袖の無いタンクトップのような服だった。

俺は今更ながら異世界感に感動を覚えており、何もかもが新鮮に感じていたが、声をかけられて、ど、どうしようとビビり

「え、ええ・・・あの・・・」

「宿を借りたい。一晩いくらかね?それと少し野菜を見てみるかね?とれたてで鮮度が高い。多少は販売できる」

「ああ、宿だね。食事はどうする?野菜は・・・おーい親方!ちょっと来てくれ!」

俺はぼーっと見ていた。エータはやっぱりすごいんだな、なんてぼんやりとやり取りを見ていた。

「とりあえず部屋は一緒でいいか?四人部屋だから広いはずだ」

そういって部屋に案内された後にエータはまた荷物を持って出ていった。

俺はベットに「あー」と言って倒れこんだ。

アレックスは椅子に座り、俺を見つめ

「・・・変わったな、ケン」

ベットの上で大の字になった俺に突然アレックスはそう声をかけて、俺は

「はえ?」

と、顔だけを彼に向け、間抜けな返事をした。


エータはかなりの量の野菜を売ってしまったようで、小さくなった荷物袋を持って戻ってきた。

「せっかくヒロミスがくれたのに・・・」

俺がそうつぶやいたら

「ヒロミスは『過剰な分は廃棄しろ』と言っていたが、栄養価が高いうちに売却して使用した方が効率的であろう。吾輩の計算でこの後に使用できる分は確保してある」

俺は少し寂しさをおぼえた。

「それと吾輩はこの後に偵察にでる。食事は二人で下の階に行ってくれたまえ」

そう言って出て行ってしまった。


アレックスと二人で一階に行くと、マッチョな店員に

「ああ、そこにかけてくれ。親方が喜んでたぜ!いい野菜だとよ!」

そうして席に案内されてから、野菜がたくさん入ったスープのようなものを置き

「これはあんたたちだけに特別サービスだってよ。またいつでも売りに来いって伝えてくれって。自分で声掛けにくりゃーいいのにな!」

ウインクしながら楽しそうに言い、忙しそうに厨房に戻っていった。

俺はヒロミスの事を考えながら野菜スープを飲んだ。

優しい味付けながら力強さと甘さを感じて、目元がうるんでしまった。

「・・・うまいな」

アレックスが料理の感想なんていうんだとマジマジと見つめていたら、すっと手を上げて店員を呼び

「・・・ワインを。グラスは二つ」

そうさりげなくいった。

俺は酔う事に警戒したが、楽しそうに見えるアレックスを見て笑顔になった。


二人の穏やかな夕食は言葉少ないながらも楽しく終わり、部屋に戻り眠った。

翌朝、二人で朝食に行こうかというタイミングでエータが戻ってきた。

「いい知らせと悪い知らせだ」

神妙な表情に見えるエータは俺とアレックスの顔を見比べてから

「この先の北部都市群に向かう街道では馬車は問題なく使えそうだ。だが、予測通り、近隣地域で豚人の大集団の襲撃があったらしく、王都兵がかなりの数街道警備や戦闘に備えて駐屯している。馬車を使えれば早いが、街道を行けば王都兵との遭遇は免れないであろう」

アレックスは終始無言で聞いてみたが、俺は少し疑問を感じた。

「馬車に乗っていれば、兵士に会っても問題ないのでは?」

「君とアレックス二人ならおそらく大丈夫であろう。そうか、吾輩だけが単独で行動という手段もあるな」

「え?な、なんで?」

俺は一人で納得しているエータに質問したが

「吾輩の顔を検められたら君はなんと答えるのかね?アレクシウスも質疑などされた場合は君のフォローが必要になるのも懸念材料ではあるな」

俺はなんとなくだが察した。

車に乗っているときに、飲酒運転の検問のようなものがあって、一人一人チェックされるようなもんかと思い浮かべた。

「なんらかの異能者がいる可能性もあるな」

「い、異能者って何?」

俺はエータの顔をマジマジと見つめて聞いた。

「君の記憶にたいしてしばしば懐疑的になってしまうのだが?君の『彼女』のジンナなど顕著ではないか?ユリという者もわかりやすい事例ではないかね?」

俺は「あっ」となってから、ある事を思い出した。

「そ、そういえば、前にこの世界に『魔法なんて無い』って言ってたけど・・・俺、俺エルフの魔法使いにあったよ!それで話せるようになったんだ!あれは・・・?」

「ふむ?その個体には興味あるな。おそらく脳の言語をつかさどる部位になんらかの作用を及ぼせる電磁波や、ジンナのように一部の遺伝子や細胞を変換しているのか。強制的に刷り込んでいる可能性もあるな。その個体はどこにいるのかね?」

「あ・・・もういないよ。あ、アレックスが・・・」

「そうか。なかなか貴重なサンプルだが仕方がない。今後捕獲できたら調査したいものだ」

俺はエータの話しはイマイチ理解できなかったが、魔法じゃなく何か科学的なモノだったのかとガッカリした。

「王都の上層部は自分達と違う者を認めない。どちらにしても吾輩は駆除対象になる」

「エータ・・・」

俺は悲しい気持ちになったが、「誰がエータを駆除できるんだろう?」と思った。


朝食を取って、北部方面の馬車に乗ることに決め出発した。

エータも同乗して、兵士の動きを探りながら、状況に応じてどう行動するかを変えた方が効果的に動けるとの結論になった。

宿を出るときに、マッチョの店員と一緒に『親方』と呼ばれたコック帽を被った小さいおじいさんが出てきて

「また野菜を持ってうちに寄ってくれ」

そう一言だけ挨拶をした。

マッチョは元気に手を振りながら

「ありがとうござーした!またこいよ!」

そんな体育会系の挨拶に見送られて馬車乗り場に向かった。


馬車乗り場は街はずれにあるようだ。

そこに向かう道中も、しっかりとした石畳の道路が続き、道路沿いには飲食店やなんだかよくわからない物を売っている屋台や、植物や花を売っている店もあった。

朝の街は人通りも多く、活気があり、俺は本当に異世界に来ていたんだと今更ながらワクワクした気分になってキョロキョロと周りを見ていた。

「ここは街道沿いの街だから人が多いな。迷子になるなよ。田舎者のケン」

「だ、大丈夫だよ!子供じゃないし!」

エータにそう言われてムッとしたが、アレックスは微笑んでいた。

俺はその顔を見ながら「エータがいうなら冗談じゃないのか?でも何か楽しいな」なんて感じていた。

馬車乗り場についたら、結構な人がいる。10人以上が馬車を待っているようだった。

「こ、これって乗り切れないんじゃ・・・?」

「そうかもしれぬな。馬車を貸し切ってしまった方が効率的だな」

そう言ってエータは近くの建物に入り、すぐにでてきた。

「現状は王都の兵士や物資運搬に馬車を割いていて、個人で借りる余裕はないそうだ。今日は3台北方に向かう馬車があるから乗れるが、待つのがイヤなら歩くかね?」

フードを深く被っているエータの目が一瞬キラリと光ったように見えた。

「ま、待ちましょう!」

それほど待つ事なく、2台目に来た馬車に乗り込めた。

大きな荷物を持った中年の夫婦っぽい人と、ヒゲの生えた襟付きのシャツを来たキザっぽいおじさんが同乗して、全部で6人のせて出発した。

大きな黒い馬2頭は、たいして重くないと感じさせる軽快なリズムで歩いていた。

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