第43話
俺は寝不足もあったのか、少し酒に酔ったようにぼんやりとして椅子に座っていた。
ジンナは俺とジンナの混ざった血を瓶に移し替えてコルクのような栓をして、その上に紙で瓶の上半分を覆い紐で縛っていた。
ミミズの手なのに俺より器用だな、なんて思って見つめていた。
「できたわ。私とケンの・・・」
そう言って俺に差し出してきた。
俺はエータの「はじめての共同作業という儀式」という言葉を思い出し、すこしだけ思い出し笑いをして受け取ったが、本当に「儀式」のようだったと感じていた。
「ありがとうジンナ」
ビンを受け取りながら
「本当にイヤじゃなかった?」
そう聞くと彼女は真剣な顔をして
「ケンと一つになれてよかった」
そんな彼女の頭を撫でて、もうそろそろジンナの食事を取りにいかないとと思い一旦帰る事にした。
「食事を持ってまたくるよ」
そう言って俺は家に戻るとエータが食事を既に作り終えていた。
「ただいまエータ。食事を運ぶよ」
「おかえりケン。その瓶は何かね?」
エータはさすがによく見ていて、そう問いかけてきた。
「ああ、アレックスに上げる血。俺とジンナの血を混ぜたもの」
そう言ってエータに手渡すと、エータは片手で受け取り高々と掲げて
「でかしたぞケン。これだけあればアレクシウスの機能回復に期待できるだろう」
そういってくれて俺もすこし誇らしい気分になった。
が・・・
「吾輩も少し拝借しても良いかね?分析したい」
じっと見つめるエータの顔をみて
「コイツとも血の繋がりができてしまうとか」
そんな事を俺は考えていた。
ジンナの食事を運び、自分も食事をしたら猛烈な眠気に襲われた。
俺はフラフラとベットに倒れこみ寝た。
起きたら昼を回っているようだった。
アレックスもエータも家の中にいなかった。
井戸に行き顔を洗い、家に戻ろうかと思っていたが、なんとなく昨日エータと訓練した場所が気になって、そこにエータとアレックスがいるような気がして向かってみた。
いた!やっぱりいた。
二人は結構離れた距離で向かい合って立っていた。
俺はだいぶ離れた場所から見ていたが、これ以上近寄ってはいけない気がした。
アレックスもエータもただ立っているようにしか見えなかったが、エータの三つの目はせわしなく動いていた。何かを計算しているようだった。
しばらく様子を見ていたが、二人が一歩下がった。
「ケン、もう来ても大丈夫だ」
エータはケンの方を向かずにそう声をかけた。
俺は恐る恐る近づいて行った。
「これって・・・もしかして・・・二人でイメージトレーニングで戦っていたのか?」
俺は少し興奮して
「なんか漫画とかでみた!瞑想しながら戦うんだよな!そんなのってホントにあるのか!?」
そう思って、まだ立っている二人の間に来て「あ、多分違う」と気付いた。
二人の間にはたくさんの足跡があった。
「今のは吾輩たちが実際に動いた後を見直していたのだ。あの場面でこうしていたら、ここの動きはよかったとな」
エータはまだ目をクルクルと動かしながら答えた。
「え、でもアレックスは安静にしていないとじゃないのか?」
「安静とは言っていないがね?適度な運動と食事と睡眠だ。それが君を含む生命体の自己回復を促進するのだよ」
俺は「これが適度なのか?っていうかお前ら訓練しなくても誰も勝てないよ」と思っていた。
「アレクシウスの体調を鑑みて、実際の衝突は最低限に押さえているから安静な部類には入るのではないのかね?なあアレクシウス」
「・・・ものたりん」
近くに来たアレックスは不機嫌そうにそう答えていた。
やっぱりこの人達、俺には怖いのです。
それから三人で家に帰り、今後の計画を立てることになった。
エータの地図は前回の更新で古いものの、かなりの精度で位置を把握できるようになったらしい。
以前にもちょっと聞いていたが、今いるのは王都から見た「南東部」で地底人の生息域は「南部~南西」方面とのことだった。『屋敷』といわれる地域は「北部」になるので、馬を取りに北部に行ってから南部に行くのは非効率との事だった。
「吾輩としてはこのまま南部へ行って地底人と交渉をしてから周囲の遺跡を探り西部を回って北部に戻るのが効率的だと思うがどうかね?」
との事で、確かに一度北部へ行ってからまた南部へ行くのは効率は悪いように感じる。
けど!
「移動が馬で楽になるのなら、馬を手に入れたほうが・・・それに」
俺はちょっと疑問に思っていたことがあるので、この機会に聞いてみようと思った。
「それに、王都の周りだったら街道とかも整備されていて移動もしやすいのでは?馬車とかも多いんじゃないのか?」
「ふむ」
エータはそれだけ答えてアレックスを見ていた。アレックスもエータを見てからケンに目を向け
「・・・無駄な戦いが増えるが」
それだけを言った。なんとなくわかっていたような答えだった。
「ケン、我々は『お尋ね者』なのだ。この村の者たちもそうだ。人間は違うものを受け入れない」
「で、でも前に街の宿や酒場に入れたじゃないか!この村にも街まで買い物や取引に行く人もいるし!」
「・・・ケン。誰もがお前のような人間ではない・・・」
「え?」
俺はなんで俺の名前が出てきたのかわからなかった。
「そうであるな。君のように吾輩やアレクシウスに理解を示す人間はここ5~600年ほどは見ていないな」
俺はなにか嫌なことを思い出した。
前の世界での人種差別とか、身分制度とか、社会人になってもみたことのあるいじめ問題とか・・・
「お、俺は・・・住んでいた世界が違うから・・・」
アレックスは急に立ち上がり、俺をじっと見つめ
「・・・お前は特別だ、ケン」
「確かに君は他の世界から来て、この世界と価値観が違うのかもしれない。だが、いつの時代でも人間の根底は変わらない。吾輩の2000年を超える記録がそれを証明している。その中でも君は稀有な存在だ。まあ一部の記録は欠落しているのだがね」
俺は今まで生きてきてこんな風に「自分を認めてくれる」事を言われた事がなかった。
すこし照れてしまい。俯いて頭を掻いた。
「で、でも俺にとってはアレックスもエータも大事な『仲間』だから・・・」
「・・・『仲間』か・・・」
「そんな事をいう人間は過去にいたかねアレクシウス?吾輩の記録にはない」
俺は『大事な仲間』と言ってしまったのが恥ずかしくなってきた。
「ゴホン、と、とにかく、俺は馬に乗りたい・・・です」
アレックスが一瞬「あ」っと何か思い出した顔になり
「・・・移動手段を見ていなかったな。エータとケンの・・・」
「ああ、明日にでも披露しよう。簡単に説明してしまえば吾輩がケンを担いで移動するのだがね。アレクシウスが担ぐのも視野にいれよう。この村に来た時のようにな、ケン」
俺はさっきまで少しほめてもらって誇らしい気分だったのに!ほこらしさを返せ!
「え、エータ!前にも話したけど、担ぐのは最低限にしてくれて・・・してほしいです・・・してください」
「君の意志は尊重しよう。だが、一度アレクシウスに披露して意見を聞く事も重要だと思うのだがどうかね?」
俺はこのロボットに意志があって楽しんでいるのではないかと疑い出した瞬間だった。
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