第26話
エータ運送によって俺達はその日の日暮れにはジンナの村に戻ってこれた。
俺は体は疲れてないはずなのにフラフラだった。
嘔吐しすぎて喉がいたくガラガラ声で
「じ、ジンナ!アレッグズ!だ、だだいま・・・」
とジンナの家までたどり着いた。
ジンナは先ほど起きたようで
「おかえりなさいケン。それと・・・エータ?だったっけ」
と出迎えてくれた。
ほんの四日程度会わなかっただけなのに、ジンナが前よりもかわいく見えた。
俺は軽く咳払いし(わざとじゃなくて喉がいたかった)
「あ、アレックスの様子は?」
と目をそらしながら聞いた。
「変わりはないわ。少しだけ水を飲ませたけど、ホントにこれだけでよかったの?」
ジンナは俺とエータを見比べながら不安そうに聞いていた。
「ああ、わずかな水分すらもとらなくて大丈夫なはずだが、ここは乾燥しているからな」
エータは荷物袋を下ろし、鍋を出しながら答え
「これを解析できるかね?アレクシウスの一部と結合あるいは変換できれば回復の兆しがあると思われるのだが、どうかね?」
ジンナはちらっとクラゲを見てから俺の顔を見て
「やってみる・・・けど」
俺は少し嫌な予感がして
「けど、何?」
と聞くとやっぱり
「ケン。あなたは出ていって。疲れているみたいだし寝たら?」
「・・・」
俺、何か悪い事しましたかジンナさん・・・
「ケン。ドクターの要望は素直に聞きたまえ。吾輩は何か手伝うことはあるかね?」
「あなたはあの人の様子がわかるのよね?変化があるか見ていて」
俺はそんなやり取りを疎外感に包まれて見ていた。
ワガママいって邪魔をしたら悪いと思い、そっと出ていき隣の家のベットに向かった。
アレックスの寝かされてる台の部屋にエータとジンナは移動した。
「まず、このクラゲという生命体は知っているかね?」
「はじめてみたわ」
「そうか、この生命体は刺胞という器官があり、獲物を採取する際に毒を注入してマヒさせる機能を持っている。君の治療方法とはその右腕で対象物を解体して幹部に遺伝子レベルでの結合や変化を促すのだろう?」
ジンナは布や桶を並べ、アレックスの服を脱がせていた。
「これは私を刺して毒にするって言ってるの?右腕・・・多分そのとおりよ。よくわからないけど」
「毒に対する耐性はあるのかね?君がマヒしてしまっては元も子もないのだがね?」
「多分大丈夫よ。前にも・・・毒蛇で治療したわ」
「君は対象を捉える所をケンに見せたくないのだね?」
ジンナの動きが止まった。そして自身の右腕をじっと見つめ
「私は・・・もう傷つきたくない。この手が物を食らうのは・・・私でもおぞましい。ケンに・・・見られたくない」
「そうか。でははじめよう。吾輩が一匹取り出せばいいかね?」
ジンナはエータが「私の気持ちを理解しているのか」と不思議だった。
エータが手にもったクラゲを右腕のミミズが丸のみした。
しばらくの間、ミミズの右腕は赤くなったり黒くなったりしながらのたうち回った。
ジンナは自分のミミズの右腕を無表情に見つめていた。
動きが収まった所で全裸にしたアレックスの首にミミズが噛みついた。
ミミズの口からねばっとした紫の粘液が溢れ、アレックスの血と混ざりあい赤黒い液体にアレックスは覆われた。
意識のないアレックスの息が荒くなり、時折「うっ」と小さなうめき声をなんどか上げていた。
エータはアレックスの寝ている台のジンナの対角に移動し、アレックスの顔を覗き込み
「意識レベルの上昇は見られないな。呼吸と脈拍は若干早いがバイタルサイン基準値内だ」
ジンナのミミズはアレックスの首から離れた。
「うまくいってはいると思う・・・けど、すぐには元に戻らない・・・と思う」
ジンナは俯いて答えた。
「実に見事なものだ。この施術は連続しては出来ないのであろう?また日を改めるのかね?」
ジンナは少しの間黙って俯いていたが、顔を上げて
「普通の『人間』ならね。この人ならすこし時間を開ければ続けても大丈夫だと思う」
「そうだな。アレクシウスの肉体は普通ではないな。回復能力の高さから新たな遺伝子を排除してしまう可能性もあるから、ある程度の時間をあけて連続的に施術するのが効果的ではあるな」
エータは鍋のクラゲを見てから
「残り4匹だが足りるかね?」
「多分足りるけど、意識が戻るまではしばらくかかると思う。多分10日とかそれくらい」
「そうか、では君も少し休むかね?必要なら食事の準備をするが?」
「ありがとう、井戸で手を洗ってくる」
「吾輩はここでアレクシウスの容態を見守ろう」
ジンナは頷いてから家を出て井戸に向かった。
ケンが寝ていると思われる隣の家の部屋の窓は、もう灯りが消えていた。
その後もジンナの治療は行われ、明け方にはクラゲを全て使い切っていた。
「後はアレックスの体内機能が正常な状態に戻るのを待つだけだな」
「そう・・・ね。さっきもいったけど、今日明日に意識は戻らないと思う」
「理解している。概ね十日から十五日といった所であろう。君は疲れているだろうし、吾輩が食事を作ろう。何かアレルギーはあるのかね?それと、そこにある食材を使っていいのかね?」
エータはアレックスの顔を覗き込んだまま身振り手振りで話していた。
「ありがと。食べられないものは無いわ。水浴びをしてくる」
ジンナは実際に疲れていて、食事も取らずにこのまま寝てしまおうかと思ったけど、エータの気遣いに感謝して水浴びに向かう事にした。
外はまだ暗く、ケンの寝室も灯りのついた感じは無かった。
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