第24話 アケアとマルム
「来たか、クズども」
とある倉庫裏にて、マルムが口を開いた。
魔族騒動から数日。
フォーロス家領地に戻ったマルムは、護衛役にしていた冒険者を強制招集していた。
もちろんフィルも含まれている。
「先の件は散々だった。なぜだか分かるか?」
「「「……っ」」」
ギロリと睨むマルムに対して、冒険者たちは口を開かない。
機嫌を損ねると面倒だと分かっているからだ。
すると、マルムは自ら言葉にした。
「お前たちが使えなかったからだよ」
「「「……!」」」
やはりと言うべきか、マルムは冒険者たちのせいにする。
功績を上げるために前衛を自分一人にしていたのは棚に上げ、彼らを囮にしたことも認めない。
「じゃあ言いたいことはわかるな」
「え?」
にやりとしたマルムは、あくどい顔で手を伸ばす。
「てめえら全員、違約金を払え」
「「「……!?」」」
「そうだな、一人100万コインってところか。安いもんだろ?」
この領地における平均月収は20万前後。
明らかにおかしい条件だ。
ましてや、母が倒れて大変なフィルは反抗せざるを得なかった。
「そんな横暴な! 私たちの依頼は、護衛として付いた時点で達成しているはずです!」
「は? 役に立ってねえんだから達成もクソもねえだろうが」
「そ、それはマルム様が……!」
「あん?」
対して、マルムはフィルに剣を向ける。
「それ以上口応えするなら、前の話の続きをしてもいいんだぜ?」
「……!」
前の話とは、フィルに“奴隷になれ”と言った件だ。
マルムもフィルが受け入れるとは思っていないため、金を払わせるつもりだろう。
ならば予想通りだったと、フィルは諦めたような顔で口にした。
「やはりそうなるんですね」
「あん? ……っ!」
すると、フィルは懐から小さな球体のようなものを出す。
ぷにぷにとした体に、マルムは思わず目を見開く。
「ぷよっ!」
「スライムだと!?」
そうして、冒険者たちの後方から少年が現れた。
「それはさすがに言いがかりですよ。マルム・フォーロス様」
「……! て、てめえ!」
その姿には、マルムは一気に頭に血を昇らせる。
ゆっくりと歩いてきたのは──アケアだ。
「本当に生きてやがったのかよ! 今までどこで何してやがった!」
「……」
マルムの怒号にアケアは答えない。
代わりに、今回の件の続きを話す。
「今は関係ないでしょう。それより会話を聞かせていただきました。今のは明らかに契約違反です」
「はあ!? 指図すんじゃねえぞ、このクソ貧乏孤児が!」
マルムは怒りを爆発させる。
ずっとバカにしていた者が、先の騒動で大活躍したからだ。
だが、まだ優位に立っているつもりのマルムは上から問う。
「なぜてめえにそれが言える?」
「僕も資格をもらいましたから」
「そ、それは……!」
対して、アケアが出したのはBランク冒険者の証。
マルムが喉から手が出るほど欲しい資格だ。
「ついでにこちらもありますよ」
「なっ、公認冒険者資格だと!」
さらに、アケアは公認冒険者の証まで出してきた。
本来はAランク以上が必要な資格だが、魔族騒動の謝礼として、アケアに限り
期間限定で公認冒険者となったアケアならば、とある権利を行使できる。
「公認冒険者の権利に
「てめえ……!」
公認冒険者は、双方が合意しない冒険者間の取引を中止できる。
強者による
アケアは冒険者たちに振り返って口にした。
「もう皆さんが違約金を払う必要はありません」
「「「……っ!」」」
冒険者たちの顔が一気に晴れる。
フォーロス家が領土を治めているとはいえ、ギルドは独立機関だ。
これでマルムの金儲け計画は潰されたことになる。
「ふざけ、やがって……」
マルムの悪行を
ならばと、マルムはとあることを決意した。
「じゃあもう潰せばいいか」
途端にニヤリとしたマルムは、剣をアケアに向ける。
ここで直接痛い目に遭わせることにしたようだ。
しかし、真っ向からではない。
「貴族に手を出したらどうなるか、分かってるよな?」
「……」
「それが元養子なら、なおさら聞こえが悪いよなあ?」
過去の話を持ち出し、これでもかというほど立場を悪用する。
アケアはただ首を縦に振るのみだ。
そんな状況に見かねたのか、後方のフィルが声を上げた。
「ア、アケア君!」
「大丈夫。みんなは手を出さないで」
「……っ!」
アケアはこくりとうなずく。
フィルもその表情には安心感を覚える。
どうしてかは分からないが、アケアなら大丈夫だろうと。
すると、いきなりマルムが襲いかかった。
「よそ見してていいのかあ!?」
「……」
「がっ!」
だが、次の瞬間に転んでいたのはマルムの方。
アケアはマルムの進行方向を完全に見切り、回避と同時に片足を残していたのだ。
結果、マルムは地面に頭から突っ込む。
「すみません、マルム様が速すぎて足を引っ込められませんでした」
「ざけんじゃねえっ!」
その後もブンブンと剣を振るうが、アケアに当たる気配はない。
スライムを連れていないことから、これは完全に両者の実力だ。
「クソ! クソがっ!」
「……」
「外れギフトの分際で! 貧乏孤児の分際でえええ!」
最低限の移動でよけ続けるアケア。
全力で剣を振り続けるマルム。
どちらが先に疲れるかなど明白だ。
「なんでだ! 俺は最上位ギフト【剣聖】だぞ!」
だが、動きが段々と鈍くなろうと、マルムの口が塞がることはなかった。
すると、若干呆れつつあるアケアも昔の口調で返す。
「……シルリアに言われたんじゃないのか」
「ああ!?」
「ギフトは確かに大きな要因だよ。でも、それを生かしてどう努力するかが一番大事なんだ」
「て、てめえに何が分かる!」
それから、すっと後ろに回り込んだアケアが口にした。
「君より下位と呼ばれるギフトでも、君以上に強い人を僕はたくさん知ってる」
「……!」
「少しは自分を見直すべきだ」
「殺す!」
それでも、マルムは聞く耳を持たず。
「……変わらないな」
ふうと一息ついたアケアは、それからも回避し続けるのだった。
「ハッ、ハッ……」
マルムは膝に手をついて息を切らす。
すでに剣を上げられないほどだ。
対して、息一つ乱れないアケアが声をかけた。
「もういいんじゃないか」
「だ、黙れ……!」
「君も限界を分かっているはずだ」
「ぐっ、あぐ……」
マルムはその場で前に倒れる。
アケアとの攻防で、マルムは【剣聖】由来のスキルを使用していた。
努力をしていない怠惰な体では、その反動が重すぎるのだ。
これで、アケアもようやく
「そういうことだから。これ以上彼らとの取引は無し、彼らに危害を加えた場合もギルドから厳重な処罰が食らうと思っておくんだ」
「ク、クソがあっ!」
アケアは冒険者たちを連れて去っていく。
こうして、冒険者たちは無事に保護されるのであった。
アケアが去った後。
「敵いませんでしたね」
「……! てめえは!」
ぽつんと残されたマルムの前に、“つなぎ”だと言う男が現れる。
すると、マルムは責任を転嫁した。
「嘘つくんじゃねえよ! 例の物、全然効果無えじゃねえか!」
「ええ。ですからあれは試用版です。本当に力が欲しければ、本物を使うしかありません」
「本物を……」
マルムはすでに何らかの施しを受けていたようだ。
「ですがよろしいのですか? 本物には大きな副作用が──」
「うっせえ!」
だが、男の忠告を遮ってマルムは手を出す。
「さっさとよこせ! あのクソ孤児を今度こそ殺す」
「……フフフッ、かしこまりました」
マルムの要求に、男はニタアっと口角を上げる。
まるでこうなることを狙っていたかのようだ。
「では
「……! があああああああああ!」
こうして、新たな陰謀がアケアの周りで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます