魔境の森に捨てられたけど、最強のテイマーになって生還した~外れギフト【スライムテイム】はスライムを“無限に”テイムできるぶっ壊れチートみたいです~

むらくも航

第1話 外れギフトを授かった少年

 女神様、どうか良いギフトを下さい!


 心の中で叫び、正座のまま必死に願う。

 周りにも、同じ姿勢の人がたくさんいる。

 “ギフト”を授かる儀式の最中だからだ。


「これは……!」


 そんな中、神々しい光に包まれ、体の中に何かが灯った感覚がした。


 僕の中にギフトが宿ったみたいだ。

 内容を確認すべく、心の中で念じてみる。


 僕が受け取ったギフトは──


「【スライムテイム】……?」


 とんでもなく外れの予感がした。


 しかし、世間は後に知ることになる。

 これが無限の可能性を秘めた“ぶっ壊れギフト”であることを。







「もうお前に用はない。出て行きなさい」


 父上の静かな声が部屋に広がった。

 僕はうつむいたまま、次の言葉を待つことしかできない。


「その服も持ち物も、全て置いていけ。もうお前はフォーロス家の者ではない」

「……はい」


 父上に従うと、僕は代わりに懐かしのボロい服を着た。

 この布切れを見ていると、どうしても思い出してしまう。


 僕──アケア・フォーロスは、元々この家の者ではない。

 孤児院出身で、侯爵家であるフォーロス家に養子として迎えられていたに過ぎなかった。


 理由は、僕が【祝福の儀】を迎える十五歳前だったからだ。


「多少はマシなものを授かるかと思えば。期待した私がバカだったか」

「……すみません」


 ──【祝福の儀】。

 十五歳になった者が一同に会して、女神様からギフトを頂く儀式のことだ。

 

 ギフトとは、天からの才能と言っても良い。

 剣士系のギフトを授かれば身体能力が向上するし、魔法系ならば魔力が上がったりする。

 どんなギフトを頂くかによって、その後の人生が大きく左右されるんだ。


「やはり孤児などあてにならぬか」

「……」


 頂くギフトは、多少血筋が関係するものの、ほとんどランダム。

 だから、実子ではない者もあらかじめ養子にすることで、もし当たりギフトを引いた時に家の手柄にするんだろう。

 

 そして、例に違わず、孤児だった僕もこのフォーロス家に迎えられた。

 しかし、愛情はないからか、毎日ただ生き長らえるだけの日々だった。


 食事は最低限。

 住まいは本家とは違う汚い別館。

 他にも色々と差別を受けて来た。


 でも、良いギフトを授かれば認めてもらえると思った。


 そうして、一発逆転を願い、先ほど行われた【祝福の儀】。

 僕が授かったのは【スライムテイム】というものだった。


「ただでさえ使えないテイマー系。加えて“スライム”テイムとは。聞くにえない外れギフトのようだな」


 父上の言う通り、テイマー系はいわゆる外れギフトだ。

 理由は色々あるけど、一番の原因としては“英雄の不在”だろう。

 剣士系、魔法系などには名誉を残した者がたくさんいるものの、テイマーにはそれが一人としていなかった。


 さらに、スライムは言わずと知れた最弱の魔物。

 協会では初めて聞いた・・・・・・ギフトだったそうだが、不遇と不遇を組み合わせたギフトが当たりのはずなかった。


「もう顔を見せるでない。去れ」

「……お世話になりました」


 冷たい父上の言葉を最後に、僕は部屋を去った。





「アケア様!」


 後方から高い声が聞こえて、僕は振り返る。

 焦った顔で走ってきたのは、メイドのポーラだ。


「ポーラ、もう様はいらないよ。僕は勘当されたんだ」

「だからって、すぐに追い出すなど!」


 ポーラは、養子の僕にも優しくしてくれたメイドだ。

 でも、だからこそちゃんと言っておかなければ。


「もう僕に近づかない方が良い。これ以上僕に関わると、ポーラまで差別されてしまうよ」

「ですが、アケア様はどこへ行かれるのですか!?」

「僕は──」


 自分でも心がズキっとしながら、口にした。


「“魔境の森”に送られるそうだよ」

「そ、そんな……!」


 魔境の森とは、フォーロス家の領土の外れにあり、どの国にも属さない広大な森のこと。

 文字通り“魔境”であり、超危険な魔物が住み着いているせいで、国すら手が付けられないという噂だ。


 つまり、実質的な流刑のようなものだろう。


「どうしてそんなひどいことを!」

「おそらく父上にも面子があるんだと思う。自分の手で始末すると体裁が悪いから。あくまで魔境の森へ探索に行かせる名目でね」

「アケア様……」


 少しあっさりした僕の態度に、ポーラの口が塞がらない。

 僕も不思議と落ち着いていられるのは、ずっと覚悟していたからだろう。

 だからせめて、最後はちゃんと伝えたかった。


「ごめんね、お世話になりっぱなしで」

「そんなことありません! むしろアケア様は、いつもメイドの盾になってくださいました。私たちで悪く思っている人は一人もいません!」

「そうかな、ありがとう」


 そういえば、よくあいつ・・・からポーラ達を庇ったこともあったっけ。

 ふと思い出すと、ちょうどその人物が歩いてきた。


「よお、こんなところにいたのかよ」

「……マルム」

「マルムな? クソ孤児が」


 マルムは、フォーロス家の実子だ。

 僕と同じ年で、共に先ほどの【祝福の儀】を受けてきた。

 でも、彼は“当たり”を引いた。

 

「それにしても良かったぜ。【剣聖】を与えられた俺は人生イージーだ。てめえみてえな貧乏人と違ってなあ!」

「いたっ!」

「アケア様!」


 マルムにドカっと蹴られ、ポーラに手を伸ばされる。


 マルムの【剣聖】は剣士系の上位ギフト。

 誰もが羨ましがるギフトを当てたんだ。

 乱暴を受けても、僕は何も言い返すことができない。


「ふん、外れすぎて張り合いにすらならねえか。分かったらさっさと行って、そのまま野垂れ死ねよ!」

「……くっ、はい」


 魔境の森には、僕だけで行くことが命じられている。

 僕は悔しながらも、最後にポーラに別れを告げた。

 

「今までありがとう」

「アケア様! どうか、どうかご無事で……!」


 涙目を浮かべるポーラを後に、僕は馬車に乗った。







「ここが魔境の森……」


 馬車に揺られ、数時間。


 捨てられるように置いて行かれ、僕は魔境の森に降り立った。

 雰囲気から、ここが改めてどんな場所かを感じさせられる。


 鬱蒼うっそうとした、領地では考えられない高さの木々。

 昼間なのに暗い雰囲気だが、決して静かではない。

 どの方角からも魔物の声が聞こえ、常に争い合っているみたいだ。


「でも、前に進むしかないんだよな」


 ここから一歩下がれば、フォーロス家の領地。

 勘当された僕は、二度と領地を踏むことを許されていない。

 残された道は、どんなに危険でも進むことのみだ。


「い、行こう」


 恐怖しながらも、僕は前に進んだ。





 恐る恐る森を進んでしばらく。

 ついに魔境の森の魔物に出くわしてしまう。


「ブモオオオオオオオオ!」

「……っ!」

 

 体長が縦横五メートルほどもある、巨大な豚。

 これは『ギガピッグ』だ。


 図鑑で見た情報を思い出すまでもない。

 こんなの何をしても勝てっこない。


「ブモッ!」

「速い! がはっ……!」


 突進の直撃はなんとか避けたものの、少し当たっただけで僕は吹っ飛ばされた。

 そのまま木に叩きつけられ、全身に痛みを感じる。


「なんて力だ……」


 これまで、実は陰で努力をしてきた。

 ランニングや剣の素振り、街で譲ってもらった本を読み込むなど。


 でも、それでどうにかなる相手じゃない。

 完全にこちらが捕食される側だ。

 これが魔境の森の魔物なのか。


「う、うぐっ……」


 体は悲鳴を上げ、恐怖で震えている。

 僕はここで殺されるのか。

 そう半分諦めた時、手元に何かがふよっと乗っかる感触があった。


「ぷよっ!」

「スライム!」


 手より少し大きいサイズのスライムだ。

 攻撃の意思はなく、俺に寄りかかるように気持ち良い肌をすりすりしてくる。

 でも、こんなことをしている場合じゃない。

 

「ブモォォ……」


 ずしん、ずしんと、ギガピッグは一歩ずつ向かってきている。

 このままでは確実に食われるだろう。


「どうにか、しないと……!」


 そんな時だった。

 目の前に、メッセージが浮かび上がったのは。


≪スライムをテイムしますか?≫

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