魔境の森に捨てられたけど、最強のテイマーになって生還した~外れギフト【スライムテイム】はスライムを“無限に”テイムできるぶっ壊れチートみたいです~
むらくも航
第1話 外れギフトを授かった少年
女神様、どうか良いギフトを下さい!
心の中で叫び、正座のまま必死に願う。
周りにも、同じ姿勢の人がたくさんいる。
“ギフト”を授かる儀式の最中だからだ。
「これは……!」
そんな中、神々しい光に包まれ、体の中に何かが灯った感覚がした。
僕の中にギフトが宿ったみたいだ。
内容を確認すべく、心の中で念じてみる。
僕が受け取ったギフトは──
「【スライムテイム】……?」
とんでもなく外れの予感がした。
しかし、世間は後に知ることになる。
これが無限の可能性を秘めた“ぶっ壊れギフト”であることを。
★
「もうお前に用はない。出て行きなさい」
父上の静かな声が部屋に広がった。
僕はうつむいたまま、次の言葉を待つことしかできない。
「その服も持ち物も、全て置いていけ。もうお前はフォーロス家の者ではない」
「……はい」
父上に従うと、僕は代わりに懐かしのボロい服を着た。
この布切れを見ていると、どうしても思い出してしまう。
僕──アケア・フォーロスは、元々この家の者ではない。
孤児院出身で、侯爵家であるフォーロス家に養子として迎えられていたに過ぎなかった。
理由は、僕が【祝福の儀】を迎える十五歳前だったからだ。
「多少はマシなものを授かるかと思えば。期待した私がバカだったか」
「……すみません」
──【祝福の儀】。
十五歳になった者が一同に会して、女神様からギフトを頂く儀式のことだ。
ギフトとは、天からの才能と言っても良い。
剣士系のギフトを授かれば身体能力が向上するし、魔法系ならば魔力が上がったりする。
どんなギフトを頂くかによって、その後の人生が大きく左右されるんだ。
「やはり孤児などあてにならぬか」
「……」
頂くギフトは、多少血筋が関係するものの、ほとんどランダム。
だから、実子ではない者もあらかじめ養子にすることで、もし当たりギフトを引いた時に家の手柄にするんだろう。
そして、例に違わず、孤児だった僕もこのフォーロス家に迎えられた。
しかし、愛情はないからか、毎日ただ生き長らえるだけの日々だった。
食事は最低限。
住まいは本家とは違う汚い別館。
他にも色々と差別を受けて来た。
でも、良いギフトを授かれば認めてもらえると思った。
そうして、一発逆転を願い、先ほど行われた【祝福の儀】。
僕が授かったのは【スライムテイム】というものだった。
「ただでさえ使えないテイマー系。加えて“スライム”テイムとは。聞くに
父上の言う通り、テイマー系はいわゆる外れギフトだ。
理由は色々あるけど、一番の原因としては“英雄の不在”だろう。
剣士系、魔法系などには名誉を残した者がたくさんいるものの、テイマーにはそれが一人としていなかった。
さらに、スライムは言わずと知れた最弱の魔物。
協会では
「もう顔を見せるでない。去れ」
「……お世話になりました」
冷たい父上の言葉を最後に、僕は部屋を去った。
「アケア様!」
後方から高い声が聞こえて、僕は振り返る。
焦った顔で走ってきたのは、メイドのポーラだ。
「ポーラ、もう様はいらないよ。僕は勘当されたんだ」
「だからって、すぐに追い出すなど!」
ポーラは、養子の僕にも優しくしてくれたメイドだ。
でも、だからこそちゃんと言っておかなければ。
「もう僕に近づかない方が良い。これ以上僕に関わると、ポーラまで差別されてしまうよ」
「ですが、アケア様はどこへ行かれるのですか!?」
「僕は──」
自分でも心がズキっとしながら、口にした。
「“魔境の森”に送られるそうだよ」
「そ、そんな……!」
魔境の森とは、フォーロス家の領土の外れにあり、どの国にも属さない広大な森のこと。
文字通り“魔境”であり、超危険な魔物が住み着いているせいで、国すら手が付けられないという噂だ。
つまり、実質的な流刑のようなものだろう。
「どうしてそんなひどいことを!」
「おそらく父上にも面子があるんだと思う。自分の手で始末すると体裁が悪いから。あくまで魔境の森へ探索に行かせる名目でね」
「アケア様……」
少しあっさりした僕の態度に、ポーラの口が塞がらない。
僕も不思議と落ち着いていられるのは、ずっと覚悟していたからだろう。
だからせめて、最後はちゃんと伝えたかった。
「ごめんね、お世話になりっぱなしで」
「そんなことありません! むしろアケア様は、いつもメイドの盾になってくださいました。私たちで悪く思っている人は一人もいません!」
「そうかな、ありがとう」
そういえば、よく
ふと思い出すと、ちょうどその人物が歩いてきた。
「よお、こんなところにいたのかよ」
「……マルム」
「マルム
マルムは、フォーロス家の実子だ。
僕と同じ年で、共に先ほどの【祝福の儀】を受けてきた。
でも、彼は“当たり”を引いた。
「それにしても良かったぜ。【剣聖】を与えられた俺は人生イージーだ。てめえみてえな貧乏人と違ってなあ!」
「いたっ!」
「アケア様!」
マルムにドカっと蹴られ、ポーラに手を伸ばされる。
マルムの【剣聖】は剣士系の上位ギフト。
誰もが羨ましがるギフトを当てたんだ。
乱暴を受けても、僕は何も言い返すことができない。
「ふん、外れすぎて張り合いにすらならねえか。分かったらさっさと行って、そのまま野垂れ死ねよ!」
「……くっ、はい」
魔境の森には、僕だけで行くことが命じられている。
僕は悔しながらも、最後にポーラに別れを告げた。
「今までありがとう」
「アケア様! どうか、どうかご無事で……!」
涙目を浮かべるポーラを後に、僕は馬車に乗った。
★
「ここが魔境の森……」
馬車に揺られ、数時間。
捨てられるように置いて行かれ、僕は魔境の森に降り立った。
雰囲気から、ここが改めてどんな場所かを感じさせられる。
昼間なのに暗い雰囲気だが、決して静かではない。
どの方角からも魔物の声が聞こえ、常に争い合っているみたいだ。
「でも、前に進むしかないんだよな」
ここから一歩下がれば、フォーロス家の領地。
勘当された僕は、二度と領地を踏むことを許されていない。
残された道は、どんなに危険でも進むことのみだ。
「い、行こう」
恐怖しながらも、僕は前に進んだ。
恐る恐る森を進んでしばらく。
ついに魔境の森の魔物に出くわしてしまう。
「ブモオオオオオオオオ!」
「……っ!」
体長が縦横五メートルほどもある、巨大な豚。
これは『ギガピッグ』だ。
図鑑で見た情報を思い出すまでもない。
こんなの何をしても勝てっこない。
「ブモッ!」
「速い! がはっ……!」
突進の直撃はなんとか避けたものの、少し当たっただけで僕は吹っ飛ばされた。
そのまま木に叩きつけられ、全身に痛みを感じる。
「なんて力だ……」
これまで、実は陰で努力をしてきた。
ランニングや剣の素振り、街で譲ってもらった本を読み込むなど。
でも、それでどうにかなる相手じゃない。
完全にこちらが捕食される側だ。
これが魔境の森の魔物なのか。
「う、うぐっ……」
体は悲鳴を上げ、恐怖で震えている。
僕はここで殺されるのか。
そう半分諦めた時、手元に何かがふよっと乗っかる感触があった。
「ぷよっ!」
「スライム!」
手より少し大きいサイズのスライムだ。
攻撃の意思はなく、俺に寄りかかるように気持ち良い肌をすりすりしてくる。
でも、こんなことをしている場合じゃない。
「ブモォォ……」
ずしん、ずしんと、ギガピッグは一歩ずつ向かってきている。
このままでは確実に食われるだろう。
「どうにか、しないと……!」
そんな時だった。
目の前に、メッセージが浮かび上がったのは。
≪スライムをテイムしますか?≫
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