第2話 希望を見出した瞬間

 「ブモォォ……」


 ギガピッグがこちらに向かってくる中、手にスライムが乗ってくる。

 すると、目の前にメッセージが浮かび上がった。


≪スライムをテイムしますか?≫


 これは、ギフトをサポートする『ギフトウインドウ』か。

 どうせ僕だけの力では敵わない。

 だったらもう、迷っている暇はない。


「スライム、君をテイムするぞ!」

「ぽよ~っ!」


 その瞬間、僕の体とスライムの体が光に包まれる。

 同時に、新たなギフトウインドウが浮かび上がった。


ーーーーー

アケア

MP :10/10


ギフト:スライムテイム(1)

スキル:【スライムテイム】【スライム念話】

魔法 :なし

ーーーーー


 これはステータスが見られるギフトウインドウだ。

 新たなものがあるなら、とにかく使ってみるしかない。


「【スライム念話】!」

『アケア、アケア!』

「あ、スライムの言葉が分かる!」


 スライムとコミュニケーションが取れるようになった。

 これならやりやすい。

 だけど、色々と聞いている暇はない。


「君は何ができる?」

『【火球】なら打てるー!』

「魔法を!?」


 そんなスライムは聞いたことがない。

 でも、今は賭けてみるしかない。


「じゃあ頼む!」

『うん! うおー!』


 スライムはギガピッグに向け、あーんと口を開けた。


『【火球】ー!』

「ブモオッ!」


 宣言通り、スライムから火の球が放出される。

 だが、しゅうううと煙が晴れると、ギガピッグは再び姿を現した。


「ブモォ……」

「全然効いてない!?」


 本当に魔法を放ちはしたが、スライムはスライム。

 やはり威力が足りなかったみたいだ。

 それどころか、ギガピッグは今の攻撃で完全に怒ってしまった。


「ブモオオオオオオオオ!」

「まずい!」

『ひいー!』


 ギガピッグは僕たちをギロリと睨み、一気に突っ込んで来た。

 すぐさま背を向けて逃げるが、スライムはタッと僕と逆方向に走り出す。


『ぼくだけ・・じゃ勝てっこないー!』

「え! スライム!?」


 そして、そのままぴゅーっとどこかへ行ってしまった。

 まさか、逃げちゃったのか!?

 

「ブモオオオオオオオ!」

「くうっ……!」


 ギガピッグから離れるよう、僕はとにかく全力で走る。

 火事場の馬鹿力とでも言うのか、なんとか体を動かした。


 しかし──


「ブモオオオオオオオオ!」

「……ハァ、ハァ」


 しばらくして、いよいよ追い詰められてしまう。


 前は狙いを定めたギガピッグ、後ろは巨大な岩壁。

 もう逃げる場所は無い。


「こ、ここまでなのか……」


 十五歳まで、陰で体を鍛えてきた。

 そのおかげで多少は動くことができる。


 でも、授かったのは【スライムテイム】という謎の不遇ギフトだ。

 この状況でどうにかできるギフトではない。

 

 ──そうして、若干諦めかけた時だった。


『『『やめろー!』』』

「え?」


 草陰から大量の・・・スライム達が飛び出してきた。

 スライム達はギガピッグに一斉に突進し、意識を逸らしたのだ。


『アケア! 遅くなってごめんね!』

「仲間を呼んでくれたの!?」

『うん! あっちにもー!』


 スライムは逃げたわけではなかった。

 一人では敵わないと悟り、最善の行動をしてくれていたんだ。

 また、反対方向からもたくさんのスライムが救援に来てくれた。


 すると、大量のギフトウインドウが浮かび上がる。

 

≪スライムをテイムしますか?≫

≪スライムをテイムしますか?≫

≪スライムをテイムしますか?≫

    ・

    ・

    ・


「これは!?」


 さっきと同じギフトウインドウだ。

 でも、数が多すぎる・・・・・・


「こんなの聞いたことがないぞ!?」


 定説では、テイマーがテイムできる魔物は、一匹や二匹程度。

 テイマーで最上位と呼ばれるギフトでも、三匹まで・・・・というのが常識だ。

 だからこそ、テイマーは不遇ギフトと言われていた。


 だけど、目の前に広がったウインドウは──およそ“百”。

 もしかして、見えているスライムを全員テイムできるのか。


「ブモオオオオオオオ!」

「……! 戸惑ってる暇はないか!」


 ここまでくれば、もうどうにでもなれ!

 そんな思いで、全てのウインドウを一括で承認する。

 すると、僕とスライム達の体が一斉に光を帯びた。


『『『うおー! やるぞー!』』』

「みんな……!」


 どうやら本当にスライム百匹をテイムできてしまったみたいだ。

 一致団結したスライム達へ、僕は声を上げた。


「みんな【火球】は使えるか!?」

『『『うんー!』』』

「よし! だったら全員で一か所に集めるんだ!」

 

 完全なる思い付きだった。

 それでも、なぜかこのスライム達となら出来る気がした。


「いくぞみんな!」

『『『おうー!』』』


 一つならば、弱々しい【火球】。

 ただし、それが百集まれば、上級の魔法と同等の威力となる。 


『『『【業火球】ーーー!』』』

「ブモオオオオオオオ!」


 百の【火球】を組み合わせ、上位の魔法へと進化した【業火球】。

 その威力によって、ギガピッグの身を焼き焦がした。


「やった……やったんだ! 魔境の森の魔物を倒したんだ! みんなすごいよ!」

『『『わーい!』』』


 魔境の森は、序盤でも超危険地帯だ。

 それこそ、冒険者ランク上位一%未満であるAランク相当の力が必須と言われている。

 そんな魔境の森の魔物を倒せるなんて。


「これが僕のギフト……」


 テイマー系ギフトの特性として、テイムした魔物の力は主にも還元される。

 魔法やMPなど、テイムしている間は・・・・・・・・・ステータス強化の恩恵を受けるんだ。

 その証拠に、ギフトウインドウには魔法が色々と追加されていた。


ーーーーー

アケア

MP :750/1000


ギフト:スライムテイム(100)

スキル:【スライムテイム】【スライム念話】【スライム収納】【スライム合体】【スライム分解】

魔法 :火魔法

ーーーーー


「す、すごい……!」


 初めの一匹をテイムした時は、MPが10だった。

 つまり、スライム一匹のMPが10ぐらいなんだろう。


 ギフトの右側の数字はテイム数のようなので、単純に百匹増えてMP1000ということか。


「魔法も使えるようになってる」


 魔法スキルの火魔法をタップすると、【火球】と【業火球】が出てきた。

 火属性の魔法でまとめられているんだろう。

 

 また、スキルも増えていた。

 これはたくさんスライムをテイムした結果なんだろうか。

 スライムには色々とできることがあるらしい。


「【スライムテイム】か……」


 このギフトは、スライムしかテイムできない。

 けど逆に、スライムに特化した・・・・ギフトと言える。

 状況から考えるに、スライムならば“無限に”テイム出来るのかもしれない。


「これは……」


 一体なら最弱でも、百体集まれば“魔境の森”の魔物にも勝てる。

 それに、スライムは最弱だが、それゆえに最も数が多い魔物だ。

 テイムするほど力は大きくなり、その度に僕にも還元される・・・・・


 つまり──可能性は無限大。


「これはもしかして、ものすごいギフトを授かったんじゃないか?」


 それはまさに、誰もが死ぬはずの魔境の森にて、僕が希望を見出した瞬間だった。

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