第40話 厄介な環境

 「【スライム大集合砲スライム・ユニオン・フォース・バズーカ】……!」


 スライム達の力を結集させたアケア。

 その力を魔法の大砲のように放つ。

 ハーティアには確かに直撃したはずだ。


 しかし──

 

「そんなもんかぁ」

「えっ」


 ハーティアの声が聞こえ、アケアは目を見開く。

 分かりやすく動揺した表情である。

 煙の中から姿を見せたハーティアが、平気そうだったからだ。


「もうちょっと強いと思ったんだけどねぇ」

「そ、そんな……!」


 ハーティアはうふんっと笑う。

 多少の傷はついているものの、まだまだ余裕を保っている。


「ま、瘴気これのおかげでもあるんだけどね」

「ど、どういう意味だ!」


 平気そうなハーティアには、理由タネがあるようだ。


「あなたも瘴気の発生源は推測してるでしょう?」

「魔族側が何かをかくまっているんだろ?」

「そ。我らが“王”をね」

「……!」


 アケア達の推測は当たっていた。

 彼らは、森の最奥で動けない状態の“魔族の王”を保護しているのだ。

 その“王”の影響で、瘴気が発生している。


「じゃあ瘴気これがどんな影響を及ぼすか気づかない?」

「まさか……!」

「ふふっ、ご名答♡」


 ぺろっと舌を出すハーティアは言葉にした。


「瘴気は魔族の力を強め、他種族の力を弱める。もちろんスライムちゃん達もね」

「……!」

「体感わたし達の強さは二倍。あなた達の力は半分ってところかしら」


 これがハーティアを倒すに至らなかった理由である。

 むしろ傷をつけたことを褒めるべきだろう。

 アケアの【スライム大集合砲スライム・ユニオン・フォース・バズーカ】はそれだけ強かったと言える。


 だが、この“厄介な環境”では勝てる見込みは少ない。


「残念だけど、ここまでかしら」

「……!」


 ハート型の尻尾先に、特大の魔力を浮かべるハーティア。

 その威力は先程の比ではない。


「見せてあげるわ」

 

 今まで力を抑えていたように。

 この厄介な環境を利用するように。

 ハーティアは周辺一帯を消滅させるほどの魔法を発動させようとしている。


「今のあなたじゃ受けられないかもね」

「くっ!」


 アケア達の力が半分なら、もちろん防御も半分になる。

 そこへ本来の倍の力を持つハーティアの魔法は、致命傷になりかねない。

 間違いなく、アケア史上最大のピンチだ。


 ハーティアは容赦ようしゃなく魔法を放った。


「バイバーイ♡」

「……っ!」

 

 その瞬間、どこかからアケアに念話が届く。


『こっちじゃ!』

「!?」


 直後、ハーティアの魔法は地面に直撃する。

 ドガアアアアと轟音ごうおんを立てて、周辺一帯をさらにした。

 煙が晴れた後は、アケア達の姿がない。


「……ふーん」


 普通に考えれば、アケア達は消滅したのだろう。

 だが、ハーティアはふっと笑みを浮かべた。


「まあいっか」


 そうして、ハーティアは去っていく。


「次会うのを楽しみにしてるわね」





 その頃、地中・・


「うわああああああ!」

『『『わーーーーー!』』』


 ズザザザと地中を下っていくのは、アケアとスライム達。

 ハーティアによる大魔法の衝撃で、吹き飛ばされているのだ。

 だが、先頭に知らないスライムがいる。


『ちょうど良い! このままくだってゆくぞ!』

「『『『えーーーーーっ!』』』」


 何が何だか分からないまま、アケア達は地中に激しく沈んでいった。





『着いたぞい』

「……ん?」


 頭上からふと声が聞こえて、アケアは顔を上げる。

 地中を下る中で、目を瞑ってしまっていたようだ。


「え!?」

『『『ええ!?』』』

 

 すると、目の前の光景にスライム達と一緒に驚く。

 そこに広がったのは、“原住スライム達”が暮らしている様子だった。


『こんにちはー』

『人間さんだー』

『スライムさん、僕たちと色違い?』

『ほんとだーふしぎー』


 スライムらしく、人懐っこく話しかけて来る。

 だが、瘴気に侵されて色は少しにごっていた。


 そうして、一匹の原住スライムがアケアに声をかける。


『驚いたかの』

「あ、あなたは……!」


 白い二本の髭を生やした原住スライムだ。

 その姿には、アケアは声を上げた。


「あなたが助けてくれたんですか?」

『左様』

「あ、ありがとうございます!」


 ハーティアが魔法を放つ直前、このスライムはアケアに念話を送った。

 その後、地中に潜る形でここまで案内してくれたようだ。

 すると、そのスライムは自己紹介をした。


『わしは賢者スライムと呼ばれておる』

「け、賢者!?」

『うむ。観測している限り、一番長生きだからのう』


 どことなく長老スライムと似ている。

 だが、格はこちらの方が上かもしれない。

 長老スライムは「お株を奪われた……」とショックを受けている。


 そんな様子は置いておき、アケアは説明を求める。


「ここは一体どこなんでしょうか」

『ここは“スライム地下帝国”。我々──お主からすれば、原住スライムの住処じゃ』

「スライム地下帝国……!」


 子どもの感性を持つアケアは、どくんと胸が高鳴る。

 だが、賢者スライムの顔はあまりかんばしくない。


『じゃが、ここもじきに瘴気に侵される』

「……!」

『アケア殿と言ったか。どうやら我々の使者は役目を果たした様じゃな』


 使者というのは、最初に出会った原住スライムだろう。

 その子も「うんうん」とうなずく中、賢者スライムは頭を下げた。


『どうか我々と協力して、魔族を倒してくれぬか』

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