第39話 いきなりの刺客

 「ま、ハーティより強いのは確かね」


 アケアの前に、伯爵級魔族のハーティアが立ちふさがる。

 彼女は、先日対峙したハーティの双子の姉だと言う。


「ハーティより強い……」

「ま、やってみれば分かるわね」


 すると、ハーティアは笑みを浮かべて魔力を放つ。


「──【冥界球ハデス・ボール】」

「……!」


 ハーティと同じ、魔族特有の魔力を込めた大魔法球だ。

 しかし、そのが違う。


「それそれ~っ」

「くっ!」


 先日のハーティは一発ずつだった。

 だが、ハーティアは背後に三個の【冥界球ハデス・ボール】を浮かばせ、一気に放つ。


 必要な魔力量は単純に三倍。

 同時に操る難易度はそれ以上だ。

 これだけでもハーティより強いことがうかがえる。


 何とか回避したアケアは、ふとあることに気づく。


「まさか、お前も覚醒ギフトを!?」

「持ってるわよ~。【覚醒・魔導士】ってのをね」

「……ッ!」


 ハーティの持っていた【魔女】とはまた違う。

 魔導士は、魔女よりも覚える魔法が少ない分、攻撃に特化している。

 つまり、今の状況ではより厄介な相手だ。


「でも、それだけじゃない・・・・・・・・けどね」

「え?」

「ま、いいからいいからっ」

「……! ぐっ!」


 会話を挟んだと思えば、ハーティアは不意打ちで魔法を放つ。

 ペットとじゃれているような表情のまま、絶え間ない攻撃を続けてくるのだ。

 対して、アケアは回避に徹している。


 もっとも、着実に準備は進んでいたが。


(よし、いいぞ!)


 アケアは一人じゃない。

 真骨頂は、スライム達とのコンビネーションである。

 ハーティアのヘイトを集める間にも、スライム達を配置させていたようだ。


『コソコソ』

『そっちだよ』

『気づかれないよーに』


 そして、スライム達が配置についたのを確認。

 アケアはすぐさま念話で指示を出す。


(みんなで一斉に行こう!)


 すると、周りから一気にスライムの気配が浮かび上がった。


『『『全方位砲撃ー!』』』

「……!」


 密かに配置された全方位から、スライム達が魔法を放つ。

 気づくのが遅れたハーティアには確かに直撃した。

 だが、煙の中からは声が聞こえてくる。 


「んもー」

「……!」

「乙女に見えないところからってひどくな~い?」

「くっ、強い!」


 煙が晴れると、ハーティアは「めっ」と頬を膨らます。

 多少の傷はついているが、まだ余裕を保っているのだ。

 ハーティアの強さを実感しながらも、アケアは違和感を抱いていた。


(なんだこの、力が阻害そがいされている感じは)


 自分やスライム達の攻撃が、イマイチ機能していないように思える。

 だが、じっくり考える時間をくれる相手ではない。


「もー、反撃しちゃうんだから!」

「みんな、透過を使って回避!」

『『『ひえー!』』』


 スライム達の位置がバレたのだ。

 ハーティアは、より厄介なそちらから排除しようとする。

 だが、ここまでがアケアの計算通り。


(みんな、力は溜めたね)

(((うんー!)))


 いま姿を見せたのは、ほんの200匹程度。

 残りの1000匹近くは、まだ身を隠している。

 全ては次の攻撃のため。


「ふう……」


 ハーティの時は、わざわざ【スライムドーム】を形成した。

 周りへの被害を考えてのことだ。

 だが今は、その必要も遠慮もいらない。


「【スライム大集合スライム・ユニオン・フォース】」

『『『うおー!』』』


 アケアが呼びかけると、スライム達は一斉に魔法を放つ。

 主であるアケアに魔法を集めているのだ。

 

「しまった!」


 ハーティアはスライム達に気を取られていたようだ。

 その隙に、アケアは準備を始めた。

 焦ったハーティアも、とっさにアケアに手を向ける。

 

「させないわよ!」


 しかし、アケアにはまだ友達がいた。


『いけードラン!』

「ぎゃうう──ギャウウウウウ!」

「……ッ!」


 すると、一匹のスライムからドランが飛び出す。

 すぐさま覚醒したドランは、自慢の息吹を放った。


「くっ!」

「ギャウ」


 アケアの絆が繋いだバトンだ。

 この隙に、アケアは準備を完了させた。

 ハーティに使った必殺技を、今度は完成形・・・で。


「うおおおおお!」」

「……ッ!」


 前はただ集めただけの力の結晶を、コントロールする。

 ハーティは前方に触れるだけで消失したが、今回は“全て”ぶつけるのだ。


「【スライム大集合砲スライム・ユニオン・フォース・バズーカ】……!」

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