第34話 アケア領

 「もし代わりに領主を務める者がいると良いのですが」


 魔族との戦いを経て、領土を治めるフォーロス家はいなくなった。

 そこで次なる領主を決める話になると、周りは一斉にとある方向を向く。

 視線の先には──アケアだ。


「え?」


 信頼良し、実力良し、実績良し。

 過去にはフォーロス家の養子だったこともあり、アケアは最適の人材だった。

 だが、アケアは大慌てで手を横に振る。


「僕が領主ですか!? 無理ですよ!」

「いやはや、ですがアケア様ほど最適な者はおらぬと言いますか……」


 ギルド長の言葉に、周りはうんうんとうなずく。


「ですが……」


 ただ、アケアはノリ気ではない。

 責任が重いというのもあるが、とあることを心配していた。


 アケアはせっかく自由の身になったのだ。

 冒険者としての活動や、森でのんびり過ごすこともしたい。

 まだ見ぬ国へ行ってみるのも良いかもしれない。


 そうなった時に、領主というのは足かせになる。

 それを察したフィルは、周囲に待ったをかけた。


「アケア君はせっかく自由になれたんです! だったら活動を尊重をするべきじゃないでしょうか!」

「なるほど。確かにアケア殿の活動に支障をきたすのは、我々としても本望ではありません」

「ほっ」


 すると、アケアはほっと一息をつく。

 だが、話は終わっていなかった。


「であれば、お名前だけでもお貸しいただけませんか」

「えっ」

「領主には威厳が必要です。内政は全員が一丸となってやりましょう。アケア様にはご負担をかけませんので、どうか!」

「うーん……」


 ギルド長をはじめ、周囲はバッと頭を下げた。

 負担がかからないというのなら、アケアも判断を迷う。

 フィルがちらりと様子をうかがう中、アケアは首を縦に振った。


「わかりました。そういうことであれば」

「本当ですか!」

「あの、僕は本当に内政はできませんからね?」

「ええ、構いません! 以前よりフォーロス家の内政には腹を立てることもありました。ここは我らがより良くなる様頑張って見せます!」


 その言葉に、周囲は嬉しそうにうなずいた。


「ギルド長として、ここオーディアの中心との関わりもございます。領主変更の文面は私めが考えて提出いたしますゆえ」

「お、お願いします……」

「アケア様は領主として、いつでも自由にお帰りください!」


 すると、ギルド長は声高々に宣言する。


「ここは本日より“アケア領”とする!」

「「「わーい!」」」

『『『わーい!』』』


(なんでスライム達も!?)


 こうして、アケアは名前だけの領主として、故郷を領地にしたのだった。





 一方その頃、とある地。

 薄暗い場所で、複数人の魔族が集まっていた。


「ハーティが死んだか」


 男の魔族が口を開くと、周りも反応を示す。


「別にいいんじゃないかしら。あんなサイコ野郎」

「ああ、ただのギフトマニアだしな」

「自分は強くなかったっしょ」


 ハーティは伯爵級魔族。

 だが、ここにいるのはハーティを見下すほどの魔族たちだ。

 魔族騒動から続く一連の流れは、彼らが操っていたと思われる。


「さてと」


 そうして、一番偉そうな男の魔族はつぶやいた。

 これまでの計画の集大成をするように。


「そろそろいた種を回収しようか」





 アケアが領主になってから、約一週間。


「おおー、それっぽくなってきたなあ」


 アケアは、元フォーロス家屋敷の前に立っていた。

 そこでは、スライム達がせっせと働いている。


『おうちー!』

『新しいおうちー!』

『僕たちのおうちー!』


 屋敷があった場所は、領主アケアの家を建てることになったのだ。

 そこでデザインを考えていたところ、スライム達が建てたいと言い出した。

 魔境の森の家に続き、二軒目ということだ。


「まさか本当に僕が領主になるとは……」


 そして、アケアは正式に領主になった。

 ギルド長が送った申請は受理され、国から了承を得たのだ。

 アケアは何度も確認したが、 ギルドの意見は無視できないものらしく、Bランク冒険者というのも良い風に働いたらしい。


「アケアくん!」

「あ、フィル!」


 すると、フィルが後ろから手を振って来る。

 

「だいぶ出来てきたね!」

「うん。まあ、これでいいのかって話だけど」


 二人は元屋敷へ目を向けた。

 そこには、スライムの形をした大きな家が建っていたのだ。


『『『いいかんじー!』』』


 外壁は水色に染められ、形はスライムのまんま。

 庭には遊具もあり、スライム達が遊べるようだ。

 領主の威厳なんてまるで無い、かわいいおうちになっていた。


「ふふっ、かわいいじゃん!」

「そうかなあ」


 もちろん領民の了解は得ている。

 むしろ、みんな完成を心待ちにしているようだ。

 

「完成したら、アケア君はたまに帰ってくる感じだよね」

「そうだね。ちょくちょく顔を出すよ」


 ただし、ここにずっと住むわけではない。

 各地を旅したいアケアは、休息のために帰る場所というわけだ。

 みんながアケアの活動を尊重してくれたおかげである。


 すると、さらに商人の者がたずねてきた。


「アケア様!」

「ん?」

「お隣の公爵令嬢がお見えになりました!」

「え?」


 アケアはふと誰かを思い浮かべた。

 その肩書きは一人しか思いつかない。


 そうして、すぐに馬車が家の前までやってくる。


「アケア様!」

「セ、セレティア!」


 馬車から降りてきたのは、やはりセレティアだった。

 すると、令嬢らしからぬ小走りでアケアの元までやってくる。


「お久しぶりでございますっ!」

「わわっ!」


 セレティアはそのまま抱き着いた。

 対して、訳が分からないアケアは混乱する。


「ど、どうしたの!? こんなところに!」

「アケア様が領主となられたと聞きまして」

「あ、うん」

「それでしたら……」

 

 すると、セレティアはすっと一歩下がる。

 スカートの両裾を少し持ち上げて、丁寧にお辞儀をした。

 これが目的だったようだ。


「ぜひエスガルドの王都と貿易をいたしましょう!」

「ええ!?」


 セレティアは多大な恩を返すべく、アケア領におもむいたのだった。




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