第33話 戦いの後で

 「アケアく~ん!」


 フォーロス家屋敷に、タッタッと走ってくる少女がいる。

 市街地から向かってきたフィルだ。

 

「だ、大丈夫!?」

「はは、なんとかね」


 珍しく疲れたように座り込むアケアに、フィルは急いで駆け寄った。

 だが、休憩しているだけでケガはなさそうだ。


 すると、フィルは周りの様子を確認して息を呑む。


「な、なにがあったの……?」


 思わず聞きたくなるほど、そこには殺風景が広がっていた。


 全壊した屋敷。

 地下深くまで入った傷。

 周囲に残る数々の斬撃の跡。


 豪華な屋敷が建っていたフォーロス家の敷地は、見る影もなかった。

 これだけでも激しい戦いがあったと断定できる。


 それでも、アケアはにっと笑った。


「もう大丈夫だよ。敵の大将は倒した」

「……! さすがアケア君!」

「わわっ!」


 先の戦いもあり、興奮しているフィルは思わず抱き着いた。

 マルム等のことも含めて、感情が湧き上がったのだろう。


「く、くるしい……」

「あっ、ごめんなさい!」


 だが、少々やりすぎてしまったようだ。

 それから、フィルはそういえばとたずねた。


「スライムくんたちは?」

「ああ、森に帰ってったよ」

「自分で!?」


 アケアは誤魔化しているが、実は少し違う。

 透過したスライム達は、|現在進行で森に帰っているところだ。


『ういーす』

『おつでーす』

『帰ったら一杯やりましょう』

『いいですなーはっは』


 スライム同士で各地を移動できる【スライムワープ】だ。

 一仕事終えたスライム達は、会社帰りのサラリーマンのように帰宅していく。

 アケアもふっと笑ってしまう。


 それには首を傾げるフィルだが、ハッと何かを思い出したようだ。


「そうだ、アケア君に伝えたいことがあるんだよ! ねっ?」

「くぅん!」

「ぎゃう!」


 フィルがおいでと手招きすると、見覚えのある二匹が寄ってくる。


「あ、シロロンにドラン!」

「二匹がすっごく活躍したんだよ!」

「うん、なんとなく感知してた」

「うそお!?」


 アケアも状況を把握していた。

 それでも、助かったのは事実だ。


「二匹とも、ありがとうね! えらいぞ~!」

「くぅん!」

「ぎゃうぎゃう!」

「ははっ、くすぐったいなあ」


 二匹はぴょんっとアケアに飛びついた。

 アケアにも褒めてほしかったのだろう。

 だが、ずっとアケアにナデナデされる二匹に、フィルはぼそっとつぶやいた。


「……い、いいな」


 すると、後続からは続々と人が集まってくる。

 みんな様子が気になっているようだ。

 中でも急いで来たのは、フォーロス家のメイド達。


「「「アケア様!」」」

「あ、みんな」


 アケアと一番仲が良かったポーラもいる。

 屋敷から逃げ出して、ギルドに状況を伝えてくれたメイドだ。


「アケア様、よくぞご無事で……!」

「何とかね。ポーラも本当にありがとう」

「そんな! 私たちはずっと守られてきました立場でしたから!」


 養子時代も、アケアはマルムから幾度となくメイドを守っていた。

 その時の恩があるのだろう。

 それから、屋敷を目にしたポーラはたずねる。


「あのマルム様やお館様は?」

「……うん、それなんだけど」


 対して、アケアは立ち上がって口にした。


「みんなと話し合いたいことがある」





 場所は移り、フォーロス領ギルドにて。


「これが今回の一連の流れだよ」


 前に立つアケアは、説明を終えた。

 話を聞いていたのは冒険者、メイド、その他関わりがあった者たち。

 アケアは彼らに、エスガルドの魔族騒動後からの流れを話したようだ。


 マルムが魔族と関わりを持ったこと。

 流れの中で当主ガロン、マルム自らも死亡したこと。

 そして、乗っ取った魔族はアケアが排除したこと。


「「「……」」」


 話を終えると、一同は静まってしまう。

 色んな事が一気に起きたのだ、仕方ないだろう。

 すると、真っ先にポーラが口を開いた。


「……本当にご立派になられたのですね」

「ポーラ?」


 逃げ出した最中でアケアの評判は聞いた。

 だからこそ、フォーロス家屋敷も知るアケアにお願いしたのだ。


 だが、アケアは予想を遥かに超える成長を遂げていた。

 強さも精神においても。


 失礼ながら、なかば母だと思って接していたポーラは、たくまくなったアケアに涙を流す。

 それは他のメイド達も同じだった。

 

 また、魔境の森に送られた時、何もできなかった申し訳なさもあるのだろう。


「「「お力になれず、申し訳ございませんでした」」」

「そ、そんな! みんなが謝ることじゃないよ!」


 対して、アケアは全く責める気はない。


「むしろとは言わないけど、森に行ったからこその出会いもたくさんあったんだ。だからみんなは気にしないで」

「「「アケア様……!」」」


 アケアの言葉に、メイド達の顔は晴れる。

 すると、口を開いたのはここのギルド長だ。


「それにしても、このフォーロス領はどうなるんでしょうか」

「「「うーん……」」」


 フォーロス家領主ガロンは死亡、マルムも死亡。

 領地を治めるがいなくなってしまったのだ。

 首を傾げたギルド長は続ける。


「もし代わりに領主を務める者がいると良いのですが」

「「「うーーーん……」」」


 領主は誰でもなれるわけではない。


 代わりには、信頼、誠実さを求められる。

 今までより良くするための優しさ、民を守る強さも必要だ。

 その上で、過去に貴族とつながりがあればなお良い。


「「「ん?」」」


 すると、一人だけ思い浮かぶ者がいる。

 全員が一斉に一人の方へ向いた。

 その方向にいるのは──アケアだ。


「え?」




───────────────────────

激しいハーティとの戦いを終え、状況整理の中でまさかの提案が?

次回、アケア君、領地獲得……?

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